新型コロナウイルスの大流行はこの1年、企業活動を中断させたり、逆に加速させたりしてきた。そんななか、デジタル広告予算の割合を高め、TikTokをはじめとする新興プラットフォームやSMSなどの最新テクノロジーに投資して試験的に運用するマーケターが増えた。柔軟な対応とメディア予算の支出先の分散を強いられているのだ。
新型コロナウイルスの大流行はこの1年、企業活動を中断させたり、逆に加速させたりしてきた。そんななか、デジタル広告予算の割合を高め、TikTokをはじめとする新興プラットフォームやSMSなどの最新テクノロジーに投資して試験的に運用するマーケターが増えている。
言うまでもないことだが、コロナ禍は人々の購買行動を根底からくつがえした。ショッピングやストリーミングはもちろん、人とのつながりを求めて消費者のインターネット利用時間は長くなった。そうした顧客行動の変化を受けて、マーケターは施策における柔軟な対応とメディア予算の支出先の分散を強いられている。
マーケターが直面する課題はほかにもある。ChromeでのサードパーティCookieのサポートが廃止されれば、プログラマティック広告は打撃を受ける。また、ソーシャルメディアの有料広告は、コロナ禍の影響でメディア予算が削減される状況下、効率のいいマーケティング手法とはいえない。
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実験的な投資を試みるマーケターたち
「かつては単純だったカスタマージャーニーが、今や複雑化しつつある」と、D2C家具メーカー、インテリア・ディファイン(Interior Define)のCCOをつとめるジル・ジョン氏は語る。「だからこそ我々は、対象顧客がたどるマーケティングファネルの各段階に適したメッセージを送れるような施策を打たなくてはならない」。
インテリア・ディファインの広報担当者によれば、同社は今年デジタルマーケティング予算を倍増したほか、実験プロジェクト費の割合をマーケティング予算全体の5%から15%に引き上げた。広告費の大半はパフォーマンスマーケティング施策につぎ込まれる予定だ。一方、メディア予算の支出先を分散してより広範なオーディエンスに訴求する取り組みとして最近、SMSマーケティング、ポッドキャスト、ダイレクトメール、コネクテッドTV、インフルエンサーマーケティングに着手したという。
「当社では実験的なプロジェクト予算を増やし、支出先を分散させ、顧客動向を見きわめようとしている。コロナ禍を通じて、消費者がさまざまなプラットフォームを利用するようになったことがわかったためだ」とジョン氏は述べる。
この1年でインテリア・ディファインのように実験的プロジェクト目的の予算を積み増し、多様なメディアチャネルに投資するブランドが次々に現れている。メディアバイヤーによると、変動の激しいビジネス環境と視聴者の分散化傾向を受けて、コネクテッドTVのように融通のきくチャネルが高く評価される一方で、ケーブルTV広告は魅力度が薄れているという。
例をあげると、フットウエアブランドのリーフ(Reef)は昨年、デジタルメディア予算の5%を、テキストメールマーケティングやコネクテッドTVといった実験的なチャネルに費やした。男性向け石鹸D2Cブランド、ドクター・スコッチ(Dr. Squatch)はデジタル広告予算の10%をSnapchatに投入したが、これは同社がSnapchatのプラットフォーム上で行った試験運用の成功を受けての決定だった。
エージェンシーも模索が続く
「エージェンシー側でも似たような現象が起きている」と語るのはデジタルマーケティングエージェンシーのケミストリー(Chemistry)でアソシエイトメディアディレクターをつとめるチェルシー・キャノン氏だ。
キャノン氏によればケミストリーでは、クライアントに委託された広告キャンペーン予算の5%から15%は実験的なメディアチャネルにつぎこむことがほぼ義務化されている。コロナ禍で「何がどうなるかわからない」という状況がその背景にある。この実験的プロジェクト予算は、新型コロナウイルス感染拡大が始まる前は存在しなかったという。
「(コロナ禍で)すべてが激変した。当社ではほぼ毎月、それどころか毎週のペースで予算を修正する必要に迫られていた」とキャノン氏は振り返る。
コロナ禍以前は、ケミストリーのマーケティング施策の大半がソーシャルメディアの有料広告およびペイドサーチだった。しかし感染拡大の影響で予算が縮小され、ケミストリーは有料広告の代替となるチャネルとして、ダイレクトメールやSMSマーケティングを試すことになった。
「状況に応じて迅速に方針転換し、枠にとらわれずに事態に対処するのに慣れてきた。こうなったらもう、何が起こっても驚かない」とキャノン氏は述べている。
実験が戦略の一環に
「現時点では、これがトレンドだというべき傾向がない」と、メディアトレーディングエージェンシーのエバーグリーン・トレーディング(Evergreen Trading)CEOのゴードン・ゼルナー氏は述べている。「企業は、施策を一度設定して放っておく方法をとりたいところかもしれないが、今のビジネス環境ではうまくいかないだろう」。
ゼルナー氏によるとエバーグリーン・トレーディングは今年、ROIの上がらないメディア資産を企業から買い取るビジネスで業績を上げた。同社のクライアントのなかで、コロナ禍の影響により購入した広告枠を急遽手放す必要に迫られたが、契約上の金銭的義務のためキャンセルできない企業が続出した。エバーグリーンはそうした金銭的義務を肩代わりする条件として、将来同社を通じて広告枠を買いつけてもらうという取り決めをクライアントとのあいだに交わし、メディアバイにおける臨機応変な対応の例を示した。
今後、ワクチン接種が進んで消費者が外出できるようになり、日常生活が戻ってきたとしても、実験的施策用の予算はなくならないとゼルナー氏は考えている。「むしろ、実験的施策は主要なマーケティング戦略の一環として取り入れるべきだ。なぜなら、さまざまな選択肢を試して効果的な施策を見つけるには、状況がつねに変化していることも考慮に入れながら、試行錯誤を続ける必要があるからだ」。
また、ゼルナーはこうつけ加えた。「つねに試験的運用をしながら実地で感触を確かめ、必要に応じて調整していくプロセスが必要だろう。小さい単位に分けて少しずつ試し、効果を確認して、調整・修正を行っていくやり方が、方向性として正しいと思う」。
[原文:‘Throwing spaghetti against the wall’: Why marketers are expanding experimental budget testing]
KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)