モイズ・アリ氏が2017年に、自然派デオドラントブランドであるネイティブ(Native)を1億ドル(約114億円)でP&Gに売却したとき、それは当時相次いで登場した多数の D2C ブランドのなかで最初の大型買収のひとつだった。今年は、記録的な数の企業が株式を公開した。
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モイズ・アリ氏が2017年に、自然派デオドラントブランドであるネイティブ(Native)を1億ドル(約114億円)でP&Gに売却したとき、それは当時相次いで登場した多数のD2Cブランドのなかで最初の大型買収のひとつだった。眼鏡ブランドのワービーパーカー(Warby Parker)からマットレス会社のキャスパー(Casper)まで多岐にわたるこれらの新興企業は、2010年代に操業開始したとき、ショッピファイ(Shopify)や安価なFacebook広告を活用し、ビジネスを構築した最初の企業だった。
ネイティブのエグジットから4年が経過した今、野心的な起業家がケーススタディとして参考にできるD2Cエグジットははるかに多くなった。2021年は、ワービーパーカー、オールバーズ(Allbirds)、オネストカンパニー(Honest Company)など著名な消費者向け新興企業を含めて、記録的な数の企業が株式を公開した。これらの企業のすべてが公開市場で成功したわけではなく、たとえばキャスパーは公開企業として2年間苦闘した結果株式公開を取りやめることを発表したが、アリ氏はより多くのIPOを肯定的に見ている。
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アリ氏は、米モダンリテールのインタビューで次のように語った。「これは明らかに、キャスパー、同社の従業員、そして投資家にとって理想的な結果ではない。しかし、これらのD2Cビジネスが完全なライフサイクルを送るのが見られたことで、この業界はもう揺籃期ではなく一般的なもので、実際にダウジョーンズ(Dow Jones)やナスダック(NASDAQ)の一部になったと確認できることはうれしい」。
アリ氏は2020年にP&Gを離れ、それ以来エンジェル投資家として多忙な日々を過ごしている。同氏の投資には、詰め替え可能な旅行用ボトルを販売するケイデンス(Cadence)や、SaaS新興企業のポストスクリプト(Postscript)やゴルギアス(Gorgias)など、エンタープライズソフトウェアの新興企業が含まれている。今週時点で同氏のもっとも新しい投資はグッドクリスプ(Good Crisp)というポテトチップのブランドだ。
米モダンリテールは、同氏が投資に何を求めているか、同氏がネイティブを立ち上げて以来、消費者向け市場の展望がどのように変化したと考えているかについて、同氏と対談した。以下の対談内容は簡素さと明瞭さを考慮し、編集を加えたものである。
◆ ◆ ◆
――ある会社に投資するかどうかを決定するとき、何を求めるか?
多くの投資家は、チーム力を重視すると思う。つまり、そのビジネスを動かすのは誰で、その人物は信用に値するかということだ。それはそれで正しいのだが、私はほかの投資家よりも商品を重視する。これは特に、消費者向けブランドの場合に当てはまる。その商品は何をするのか、商品と市場の適合性はあるのか、商品に対する需要はあるのか、そしてその会社は自社で製造する商品に対して、消費者が代金を支払うことを望んでいることを実証しているのか、といったことだ。
それからチームを見る。そのあとで当然、事業を推進するトラクションがあるかどうかも見る。
――商品と市場の適合を見定める方法についてもう少し話してほしい。今日では、非常に多種多様な消費者向け新興企業が存在するが、競合に勝ち残る会社をどのようにして見きわめるのか?
私は多くの場合、その会社のウェブサイトやレビューを調べる。そしてGoogle検索し、レディット(Reddit)の調査まで行う。そのブランドについてのレビューがあるか、肯定的か否定的か、Twitterにはレビューがあるか、といったものだ。これらは、そのブランド自体がコントロールするエコシステムの外側にあるものだ。
また、その会社のFacebook広告プラットフォームにもアクセスを求め、どのような種類の広告を出しているかを調べる。CPAはどの程度か、クリックスルー率はどうか、エンゲージメントはあるか、エンゲージメントはどのようなものか、などだ。
Facebook広告の詳細を理解すれば、「このブランドは正しい方向に向かっているか、それとも、このブランドが成長したのは実際にはQ4だからなのか?」ということが十分わかるようになる。
――ネイティブを立ち上げたあとで、消費者向け市場の展望がどのように変化したと感じているか?
2021年はおそらく、D2C市場の展望に成熟性が見られた最初の年だろう。理由はいくつかある。ひとつは、業界に本当の逆風が吹いたことだ。過去5年から7年にわたって、eコマース業界は順風しか体験しなかった。安価なFacebook広告、より良いソフトウェアのリリース、新企業の設立が簡単になること、そのための契約製造業者が数多く利用可能なこと、より多くの小売業者がD2Cビジネスに傾いていったことなどだ。これは非常に素晴らしいことだ。
2021年にはFacebook広告について逆風があり、輸送のコストが上昇し、あらゆる場所で遅延が発生して、実店舗への回帰が起きた。このため私は、D2C業界にはじめて逆風が吹いたと考える。
そして私は、これらのビジネスの成長に多大な成熟性が見られたと考える。数多くのD2Cビジネスが株式を公開した。レントザランウェイ(Rent the Runway)、オールバーズ、オネストカンパニーが株式を公開し、これは非常にエキサイティングな状況だった。
さらに、初期のD2Cビジネスが完全なライフサイクルを送るのが見られた。ハリーズ(Harry’s)は自社ビジネスの売却を試み、現在は買収を行っている。つまり、同社はほかのあらゆるD2Cビジネスのように身売りするのではなく、自ら方向転換して買収側に回ったわけだ。
我々は、キャスパーが株式を公開してから、また非公開に戻るのを目にした。同社は公開市場ではうまく操業できず非公開に戻った。正確に言うと、同社は非公開に戻ると発表した。ライフサイクル全体を8年間で完結したビジネスは、我々の見たかぎりで、キャスパーがはじめてだと、私は感じている。ほかの株式公開企業では通常、これに30年間を要するだろう。我々は会社の設立、成長、株式の公開、そして苦しんだとまでは言わないが、おそらく株式公開企業として期待した業績を挙げられず、非公開に戻ったのを目にしたわけだ。
――これらの新興企業すべてが株式を公開するべきだったと考えるか? このような種類の新興企業が株式を公開することが妥当なのはいつだと考えるか?
ほかの会社がいつ株式を公開するべきかというのは判断が難しい。それらの会社にはそれぞれ心配すべきことが数多く存在する。その一部は、投資家がいつ流動資産を必要とするか? 初期の従業員はいつ流動資産を必要とするか? ということだ。そのような理由から株式の公開を要求する人々も、「株式を公開しないでくれ」と要求する人々もいるだろう。
非常に明確になったことがひとつある。それは、D2Cはソフトウェアやマーケトップレイスとは違い、従来のようなベンチャーキャピタルの支援を受けられる種類のカテゴリではないということだ。これらのビジネスは、株式公開企業として大きな痛手を受けている。オールバーズは創設以後に50%を超えて下落している。レントザランウェイはIPO以後に50%を超えて下落している。オネストカンパニーもそうだ。非公開市場で得られる利点は、人々がそのビジネスに関心を持ち、評価をすれば、そのビジネスは、次のラウンドまでその評価を維持できるということだ。
公開市場ではこれは当てはまらない。これらのビジネスは深刻な痛手を受けている。各社が初期の従業員向けに流動資産を確保しようとしたが、ここ数カ月で各社の株式公開が進み、その結果は劇的に変化した。しかし、これはまだ始まったばかりだ。彼らは若い起業家であり、彼らが挑戦するのを楽しみにしている。
――それでは、これらの企業がすべてが公開市場で打撃を受けていることをどのように考えるか? ほかのD2Cビジネスが向かう先に、どのような影響を及ぼす可能性があると考えるか? この結果が、ほかの投資家をこの分野から遠ざけてしまうリスクはないだろうか?
影響はあると思うが、それは実際のところいいものだと私は考える。もし投資家が「D2Cビジネスへのこの投資に対して500倍の回収を期待する」と述べるなら、ここはマーケットプレイスのような勝者ひとり占めの業界ではないと言いたい。ソフトウェアビジネスも場合によっては同じ勝者のひとり占めとなる。これらのビジネスはさまざまな異なる結果があり、リスクプロファイルも大きく異なる。投資家は、これを引き受ける気がないのならば契約すべきではないと、私は考えている。「10倍か20倍の回収のためにサインアップする」といった態度が適切だ。
また、これによってeコマースビジネスが、あるべき方法で成熟していくと私は考えている。これらのビジネスは収益性により重点を置くべきだ。
2009年にレントザランウェイに投資を試みたときを思い出す。あれは12年前で、少しの期間ではない。その期間内に、持続性と収益性があるビジネスを実際に構築する必要がある。それができなければ、収益性を実現するまでの明確な道筋をできるだけ早く作り上げることが必要だ。
eコマースビジネスは「目覚める」必要がある。その目覚めがないか、その理想を実現する希望がなければ、公開株式市場では痛い目にあうことになるだろう。
[原文:‘This industry isn’t nascent anymore’: Native’s Moiz Ali on how DTC startups matured in 2021]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)