マリア・モランド氏が、生理用下着を販売するThinx(シンクス)のCEOに就任したのは2017年。以来、同社のニッチ商品を大手小売店で売るため取り組んできた。
マリア・モランド氏が、生理用下着を販売するThinx(シンクス)のCEOに就任したのは2017年。以来、同社のニッチ商品を大手小売店で売るため取り組んできた。同氏が入社した当時、Thinxはニューヨークの地下鉄に広告を出したことでMTA(Metropolitan Commuter Transportation Authority)と争ったことや、創業者のミキ・アグラワル氏が同社を離れたなど、スキャンダラスなトピックで話題になっていた。
こうした状況を変え、企業としての正統な評価を得るべく、モランド氏は従来型の広告への投資強化を実施。2019年には同社初のテレビCMを展開し、市場におけるプレゼンスを高めた。Thinxの製品は現在、ノードストローム(Nordstrom)や英国の百貨店であるセルフリッジズ(Selfridges)、Amazonなどで販売されている。また、同社の製品はFSA(Flexible Spending Account:企業が従業員に提供する、課税前の収入を医療費に充てられる節税方法)にも対応しているという。
もちろんほかのスタートアップ同様、Thinxの計画もコロナ禍によって大きく狂わされた。同社は在庫を守るため、2020年5月に予定されていたセールキャンペーンを、夏の終わり頃まで延期しなければならなかった。また、春には小規模ながらも、レイオフを余儀なくされた。こうした努力の甲斐あり、同社は2020年の収益をおよそ8000万ドル(約83億円)に伸ばし、黒字を達成している。
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モランド氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Reatil)の取材に対し、2021年におけるThinxのビジネス戦略について語った。同社は、卸売パートナーとの提携や、より低価格製品のローンチを予定しているという。また、モランド氏はThinxが競合他社との争いに勝つための計画についても明かしている。2013年の創業時点で、同社は生理用下着のパイオニアとも呼べる企業だったが、その後市場は成長し、ニックス(Knix)、ルビーラブ(Ruby Love)、トムボーイX(TomboyX)といった競合企業が現れている。
なお、インタビューは内容を明瞭にするため、若干の編集を加えている。
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──2020年はじめに予定していた事業拡大計画と、それに対してコロナ禍が及ぼした影響について教えて欲しい
我々はこれまで、製品教育に多くの時間を費やしてきた。消費者に対し「新しいものを試してみるべきだ」と説得するのは難しい。特に、それまでにはない新しい製品、かつ生理用下着のように、公共の場で漏れが発生する可能性があるものであれば、なおさらだ。
これらを踏まえたうえで、我々は2020年、新規に300を超える動画、200を超える静止画をデジタル広告で展開し、どのようなメッセージングやクリエイティブが効果的なのか、試行錯誤を繰り返した。前年実施したテレビキャンペーンで得た経験も、これに大きく貢献した。
新型コロナウイルスにより、外出する機会が減り、公共の場での漏れを心配することもなくなった。そのため、新製品にチャレンジすることへの抵抗感が薄れ、我々の製品を試す人が一気に増えた。
──新たなユーザーに製品を試してもらうにあたって、どういったメッセージや広告が効果的か?
我々の場合は、製品がどう機能するか、そしてどのように洗濯するかということに重点を置き、デジタル広告を展開した。サブテナビリティは昨今、消費者が製品を選ぶ際に重視する、大きな要素のひとつとされているが、それが最優先事項になるわけではない。また我々は2019年、初のテレビCMを展開したが、これは認知度向上を主な目標としていた。それをフォローする形で、デジタル広告で製品について伝える取り組みを実施した。ユーザーが我々のサイトにアクセスした場合、リターゲティングを行うというものだ。また、2020年11月下旬に開始したばかりのテレビCMでは、テレビCM取引のデジタル化を手掛けるタタリ(Tatari)を通じ、他チャネルへ展開のためのテストも実施している。今年はその規模を広げていく。テレビにかける予算も増やしていく予定だ。
2020年の当社Webサイトのトラフィックは、2019年よりも減少した。2019年はテレビキャンペーンを展開したので、これが影響していると思われる。しかし、2020年のコンバージョン率は倍増した。1つ目の要因は、テレビCMによってブランド認知度が向上したこと。2つ目は、どういった製品なのかを伝えていく広告を増やしたことで、実際に試してみたいと考える女性が増えたこと。そして3つ目は、消費者のあいだで外出する機会が減ったことだ。自宅であれば、外出中の漏れなどを心配せずに新製品を試せる。これら3つの理由から、コンバージョン率が向上したと考えている。
──この数年、Thinxは新たな卸売パートナーを加えることに力を入れてきた。そのメリットはどこにあると考えている?
ほかの製品カテゴリーと異なり、生理用品は依然として量販店、つまりターゲット(Target)や、コンビニエンスストアにおける購入が大半だ。我々も、彼らとのパートナーシップの重要性には気付いていた。実際、卸売り、特にプレミアム・ホールセール企業は、我々のブランド認知度を高める役割を果たしてくれた。よく知らない製品カテゴリーの場合、ノードストロームやセルフリッジズといったブランド力のある店舗が売っているというだけで、安心感を醸成できる。
──コロナ禍は、御社の卸売事業にどのような影響を与えたか?
2020年、卸売事業は大きな成功を収めた。ノードストロームやセルフリッジズといった当社の重要な卸売パートナーでは、オンライン販売が大きく伸びた。また、AmazonやFSAストアといったチャネルでも、大きな成功を収めている。
グローバルで見ても、当社の卸売は成長している。我々は現在、グローバルの広告展開を行っていない。そのため、グローバルなブランド認知を高めるには、当社にとって卸売チャネルは非常に重要な存在だと考えている。
プレミアム・ホールセールとの提携し、そこからさまざまな価格帯の製品を揃えたうえで、マスマーケットに展開していくことは、これまで我々の戦略のポイントとなってきた。今後もその方針に変わりはない。
──2021年、ほかに計画していることはあるか?
現在、低価格、中価格、高価格と価格帯を分け、製品ラインナップを幅広く展開する方向で動いている。また、価格を下げるため、製品のイノベーションも進めている。それに伴い、部屋着をはじめ、いくつかの製品ラインを追加していく。
また2020年11月には、新たな製造パートナーを加え、より柔軟なサプライチェーンを構築しつつ、世界中の倉庫に製品在庫を割り当てていく予定だ。
さらに、我々が次のステージに進むために、必要な知見を持った人材開発にも取り組んでいく。我々はこの2年、製品の市場適合性を重視してきたが、現在競合他社や市場への投資も増えている。可能な限り、迅速に成長していくことが求められている。
──2013年に設立されたThinxだが、イグジットすることは考えているか? DIGIDAYは、これまで多くの消費者向けスタートアップのIPOの記事を書いてきた。現在はSPACを検討する企業も増えているが、Thinxはイグジットについてどのように捉えているのか?
我々のビジネスは、いまのところ極めて順調だ。今後4年間で時価総額5億ドル(約520億円)を目標に掲げている。イグジットせずとも、或いは大手企業と事業提携せずとも、この目標は達成できると考えている。もちろん、市場競争は激しくなっている。より多くの資金を調達する必要があるのは間違いない。トップランナーであり続けるために、より多くの資金を調達し、最適な投資を行う必要はあるだろう。
2019年9月、我々はキンバリー・クラーク(Kimberly Clark)から戦略的資金調達を行った。同社は生理用品ブランドのコテックス(Kotex)など、非常に大きなグローバルブランドを有する。こうした提携のほうが、エグジットよりも可能性が拡がる。SPAC市場についても研究・分析したが、これを利用するには、企業がいま以上に大きくなる必要がある。それゆえ、今後利用する可能性もあるが、それは近い将来の話ではない。
[原文:Thinx CEO Maria Molland Wholesale is a ‘stamp of approval’]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
Image by Thinx