TikTok では、#Restockのハッシュタグで整理整頓するインフルエンサーの動画が続々と投稿されている。現在はスモールビジネスや大手消費財ブランドも、自社製品詰め替えコンテンツを制作したり自社製品を取り上げるインフルエンサーとのパートナーシップに投資して話題のリストック収納動画に取り組んでいる。
ブランド各社が今注目するTikTokの最新トレンドとは?――リストック(補充)収納もそのひとつだ。
TikTokでは現在、#Restockのハッシュタグで、整理整頓するインフルエンサーの動画が続々と投稿されている。これは、商品の梱包を解いてから、家庭にあるオシャレなジャーや容器、棚に移し替える様子を撮影したもの。脳に快感を与えるASMR(自律感覚絶頂反応)の音響効果と、見た目に麗しい整理整頓の視覚効果との絶妙な組み合わせが特徴で、いまや合計36億ビューを叩き出している。このトレンド動画がTikTokではじめて取り上げられたのは2021年7月のブログだが、2021年に入った頃にはトラクションを獲得しはじめていた。
現在では、スモールビジネスや大手CPG(消費財)ブランドも、自社製品詰め替えコンテンツを制作したり、自社製品を取り上げるインフルエンサーとのパートナーシップに投資したりして、話題のリストック収納動画に取り組んでいる。これはブランドのTikTok活用法最新事例であり、各社とも流行りの動画フォーマットを即座に取り入れようとしていることがわかる。また、インフルエンサーの力を借りるのもよくあるパターンだ。
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2020年時点で1日あたり8000万人のアクティブユーザーを抱えるTikTok。頭角を現してからというもの、ブランドの利用頻度は格段に伸びた。とはいえ、アカウントがありさえすればよい、というわけではない。TikTokの「おすすめ」でトラクションを得るには、人気の高いTikTok発のコンテンツに投資しなければならない。たとえば食料品ブランドで多くみられるのは拡散力の高いバイラルレシピの公開だ。また、スキンケアブランドであれば、TikTokを愛してやまない自社認定エキスパートと、皮膚科医のインフルエンサーを組み合わせて活用する例も見られる。
大手はインフルエンサーとタッグ
比較的規模の大きな企業は、インフルエンサーと提携し、人気のリストック収納に便乗している。動画撮影時には、自社製品を使用してもらう。
インフルエンサーのジェシカ・ウー氏は現在フォロワー数が540万人。家電メーカーLGエレクトロニクスの冷蔵庫、インスタビュー(InstaView)を利用したリストック収納動画を撮影し、お気に入りの食べ物やスナックがピッタリ収まることをアピールした。なお、この動画が獲得した「いいね」は36万を超える。
ウォルマート(Walmart)がパートナーに選んだのは、インフルエンサーのキャサリン・ベンソン氏(@_catben_)。ウォルマートへの移動と購入した商品を収納する様子を撮影し、本人とウォルマート双方のアカウントに動画を投稿した。ベンソン氏はフォロワー数が650万人、この投稿には21万5000件を超える「いいね」がついている。
@_catben_ Random refills & restocks around the house! 🤩 #restock #refill #momlife #organizedhome #thisandthatwithcat #asmr
ステファニー・キニョネス氏(@itsfefii7)はフォロワー数が60万人を超え、TikTokには1000万の「いいね」がついている。TikTokでもっとも人気のある彼女の動画のテーマはリストック収納で、動画を投稿するたびに何千万回も再生され、「いいね」も数百万件を数える。
「同じタイプの商品を同じ方法で整理していると、独特な片づけのパターン・色・形が生じてくる。その様子を見れば、誰でもやる気が出て、心が充実するのではないかと思う」とキニョネス氏はメールで応じた。「大好評なのは整理整頓のスッキリ感。アイテムの凸凹がなく、ピタッとはまった感じが、みんな大好き」。
さらに同氏によれば、カシャカシャという音や、タップする音などの音響効果も、フォロワーに楽しんでもらうための重要な要素だという。
eコマース分析プラットフォーム、ミックマック(MikMak)の創業者でCEOを務めるレイチェル・ティポグラフ氏によると、クライアントであるゼネラルミルズ(General Mills)やハーシー(Hershey’s)のような消費財ブランドは、このリストック収納のトレンドが持つ価値にますます重要性を見出しているという。
「トレンドを見抜く力に関していえば、ブランドはきわめて敏感……いったん分かったら、即座に時流に乗る」とティポグラフ氏は話す。「ブランド各社のオーガニックSNSチームがすでにこの戦略を取り始めているのは確認済みだ。その一方で、当社の顧客はインフルエンサーマーケティングにもかなり投資している。その理由は――効果があるからだ」。たとえばゼネラルミルズのチェリオス(Cheerios)やチェックス(Chex)では、2020年のブラックフライデーの販促でパントリーのリストック収納動画を試している。
認知度アップをねらうローカルブランド
小規模なブランドの場合、リストック収納動画のトレンドに便乗する(さらに、TikTokでこれまで以上に幅広く活動を展開する)メリットには、全米のオーディエンスにリーチできることが挙げられる。また、全米に店舗を構える大手小売企業ほど予算がなく、インフルエンサーのパートナーシップにたっぷり資金を投入できないかもしれないが、口コミを広げる方法を独自で模索している。
フランチャイズのおもちゃ専門店ラーニング・エクスプレス・トイズ・オブ・バーミンガム(Learning Express Toys of Birmingham)のオーナー、メリッサ・マッカラム氏は、今回のリストック収納のトレンドを、数年前にSNSで流行った「不思議と心が落ち着くサティスファイングイング動画」から自然に生まれたものと見ている。同社ではSNSでコンテンツを幅広く展開しているが、少なくとも週に1度はASMRを利用したリストック収納の動画を流すことにしている。たとえば、従業員が色とりどりのおもちゃを店内の棚に陳列する様子を撮影し、ビニール袋のくしゃくしゃ音やプラスチック製の容器に物が落ちる音などの音響を取り入れた。
「ASMR動画のひとつがバズったのはラッキーだった。おかげで、当社のフォロワーがこういうコンテンツを『楽しい』と思っていることがわかった」とマッカラム氏。「何でも流せばバズるというわけではない」と話す。
マッカラム氏いわく、新型コロナのパンデミックでアカウントを開設したのは、おもしろい商品を紹介して、アラバマ州バーミンガムのローカルブランドを全国区のブランドとして認知してもらうためだった。現在同社のアカウントはフォロワー数が200万で、2010万の「いいね」がついている。なかでも人気の動画が、手持ちぶさたを解消するフィジェットトイのリストック収納動画で、再生回数は5300万回、「いいね」は440万を数える。
商業的価値が高まるTikTok
ニュージャージー州メープルウッドのグッド・ボトル・リフィル・ショップ(Good Bottle Refill Shop)を創業したディアナ・テイラー=ヒーコック氏にしてみれば、このトレンドは当然の流れだ。同社は詰め替え用の洗剤やトイレタリー用品をはじめ、TikTokのリストック収納動画に映えるガラスのボトルなど多様な商品を取り揃えている。
「私たちは全米に商品を出荷しており、TikTokは売上増加の起爆剤になっている」とテイラー=ヒーコック氏。マッカラム氏同様、彼女もリストック収納動画のおかげで、ブランド名が「拠点とするニュージャージー州以外にも」知れ渡るようになったと話す。
ミックマックのティポグラフ氏は、ブランドの損益を考えると、こうしたTikTokのトレンドはますます重要になると考えている。TikTokは以前、どのカテゴリーにおいてもショッピングのトラフィックの1%にも達していなかった。しかしミックマックのデータによると、それが今や10%を占め、SNSに起因する売上ではPinterest(ピンタレスト)やSnapchatを凌駕している。TikTokでは、「ブランド制作のコンテンツ」と「インフルエンサーとのパートナーシップ」(ただし、インフルエンサーは流行りの動画フォーマットを即座に取り入れられる人)、その両方の組み合わせが成功の鍵になるとティポグラフ氏は話す。
「ブランドが宣伝の場をTVコマーシャルからSNSに変える時代がようやく到来した」とティポグラフ氏。「彼らは皆、どのようなコンテンツが顧客の心に響かないのか承知している。また、もっとも効果があるのは、リストック収納動画のようなユーザーが作るコンテンツを基にしたものなのではないかという見当もついている」と自信を見せる。
[原文:‘They love the tidiness’: Brands are embracing restock videos on TikTok]
Maile McCann (翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)