8年前、ニコル・クルエボ氏は、慢性的な痛みと関節炎を抱えていた高齢の祖母のために、快適で簡単に着けられるブラを探すことにした。しかし、「市場にそのような商品はなかった」と、同氏は米モダンリテールに語った。同氏が祖母の友人たちに聞いてみたところ、その友人たちも同じような商品を探していることを知った。
クルエボ氏は、500人の女性からの意見を集め、35人の医学療法士や作業療法士と会い、ユーザーテストおよびフォーカスグループを開催した後、現在は、独自のソリューションを提供するようになった。同氏の会社であるスプリングローズ(Springrose)は9月初め、最初の商品を発売した。この商品はプランジフロントクロージャーブラ(Plunge Front Closure Bra)と呼ばれ、ベルクロ(Velcro)の面ファスナーで開閉するシステムを活用し、片手、頭上からかぶるなど8通りの方法で着用できる。
アダプティブファッションの分野、すなわち年齢、身体的または感覚的障害、運動能力の低下などの理由で、衣服の着用が困難な人々向けの商品をデザインするブランドは増え続けており、スプリングローズもそのひとつだ。アダプティブファッションは四肢の欠損があったり、器用な動作が困難だったり、または、特定の布地に対して過敏だという人々が、衣服や靴を簡単かつ快適に着用できるようにすることを主眼としている。例として、靴ひもを結ばずに足を入れるだけで履ける靴や、医療器具を使っていても簡単に脱ぎ着できる衣服などがある。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
8年前、ニコル・クルエボ氏は、慢性的な痛みと関節炎を抱えていた高齢の祖母のために、快適で簡単に着けられるブラを探すことにした。しかし、「市場にそのような商品はなかった」と、同氏は米モダンリテールに語った。同氏が祖母の友人たちに聞いてみたところ、その友人たちも同じような商品を探していることを知った。
クルエボ氏は、500人の女性からの意見を集め、35人の医学療法士や作業療法士と会い、ユーザーテストおよびフォーカスグループを開催した後、現在は、独自のソリューションを提供するようになった。同氏の会社であるスプリングローズ(Springrose)は9月初め、最初の商品を発売した。この商品はプランジフロントクロージャーブラ(Plunge Front Closure Bra)と呼ばれ、ベルクロ(Velcro)の面ファスナーで開閉するシステムを活用し、片手、頭上からかぶるなど8通りの方法で着用できる。
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アダプティブファッションの分野、すなわち年齢、身体的または感覚的障害、運動能力の低下などの理由で、衣服の着用が困難な人々向けの商品をデザインするブランドは増え続けており、スプリングローズもそのひとつだ。アダプティブファッションは四肢の欠損があったり、器用な動作が困難だったり、または、特定の布地に対して過敏だという人々が、衣服や靴を簡単かつ快適に着用できるようにすることを主眼としている。例として、靴ひもを結ばずに足を入れるだけで履ける靴や、医療器具を使っていても簡単に脱ぎ着できる衣服などがある。
大手も参入
アダプティブな衣類をリリースする大手小売業者も増えてきた。たとえばヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)は今月初めのニューヨークファッションウィーク(New York Fashion Week)で、磁石で留められる初のアダプティブな下着ラインをリリースし、キムカーダシアンが監修するスキム(Skims)は、前面または側面にホック式のファスナーがあるブラや下着を販売している。ターゲット(Target)やJCペニー(JCPenney)、コールズ(Kohl’s)は、アダプティブファッションのプライベートブランドを出した。アダプティブファッションへの需要は大きく、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、米国では成人の4人に1人はなんらかの障害を抱えて生活しているという。この点について新興企業の創設者や業界アナリストは、さまざまな症状を抱えた人々に適した、より多様な商品が依然として求められていると、米モダンリテールに語った。
クルエボ氏は、スプリングローズを立ち上げて以来、毎日の平均注文数が「2倍」になったと述べ、「大手ブランドがこの分野で商品をリリースしようとしているのは、新たなカテゴリーを築くことにつながり、素晴らしい」と考えている。しかし、アダプティブな肌着に関しては、多くのブランドが「ごく狭い範囲の顧客にしか対応できていない」とも同氏は述べている。
「軽い関節炎などを患っているのなら、現在市販されている肌着を使えるかもしれない。しかし販売されているブラのほとんどが、多少の器用さと、ある程度の握力を必要とする」と、同氏は述べる。ヴィクトリアズ・シークレットの商品のように、磁石が前面にあるものは「悪くない解決策だ」とクルエボ氏は認める。しかし、ペースメーカーやICD(植え込み型除細動器)などの問題があるため、すべての人が磁石を問題なく着用できるわけではないと、同氏は述べている。
クルエボ氏によると、スプリングローズでは、ユーザーからのフィードバックに基づき、新しいブラのデザインに修正を加えたという。たとえば、新しい商品はフロントストラップの端がフラットではなく尖っていると同氏は説明する。この決定は、震えのある女性に商品をテストしたところ、以前の構造では商品を使うことが困難だったことからきている。
ザッポスは有力靴ブランドとタッグ
ザッポス(Zappos)はフォーカスグループを開催し、障害を持つ人々と商品をテストしているが、自閉症の孫ガブリエル君のための靴を探している女性から電話を受けたことをきっかけに、2017年にザッポスアダプティブ(Zappos Adaptive)を立ち上げた。その孫は自分の靴の紐を結べず、代わりとなる留め具を必要としていた。ザッポスの顧客サービスチームは在庫を調べ、要求を満たせる商品がないことを知ると、それから1年半をかけて、ガブリエル君のようなニーズを持つ顧客のために専用の購買体験を作り上げた。
ザッポスは、ビリーフットウェア(Billy Footwear)やトミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)とともに、ザッポスアダプティブを開始したが、「当時は対応できるブランドが少なかった」と、ザッポスアダプティブのビジネス開発マネージャーを務めるダナ・ザンボ氏は米モダンリテールに語った。最初に2回のコレクション立ち上げを行った後で、ザッポスは障害を持つ人々が関与するフォーカスグループについて、アグ(Ugg)と協力し、2020年には同ブランドと初のユニバーサルコレクションを発売した。
ほかのブランドも次第に追随するようになり、ソレル(Sorel)や、リーボック(Reebok)、クロックス(Crocs)もすぐにザッポスアダプティブと共同でコレクションの開発をはじめた。キーン(Keen)とケッズ(Keds)は2024年前半に商品を販売を開始する予定だ。ザッポスはこれまでに13のフットウェアブランド、2つのアパレルブランドと、アダプティブ商品ラインについて提携している。
自社商品に加えて、ザッポスアダプティブは特定の既存商品を「ユニバーサル」とタグ付けしている。これは、障害がある、または運動性が低下している人たちだけでなく、あらゆる人々が使用できることを意味している。このタグ付けは「このようなニーズを持つ私の子どもでも使えた」「私にもうまく使えた」といったレビューに基づいているとザンボ氏は述べている。
ザッポスは現在、自社サイトに変更を加え、「大幅な合理化を行い、このようなユニバーサルな商品を幅広く選べるようにすることをめざしている」と、ザンボ氏は述べる。商品は現在、簡単に脱着できる靴、AFO(下肢装具)に対応した靴、装具に対応した靴、シングルシューズなどのカテゴリーに整理されている。
ザンボ氏は売上高を明かしていないが、ザッポスアダプティブによって「より多くの人々、より多くの顧客がより多くの商品を探すようになっている」ことを認めている。
「このカテゴリーには成長の可能性がたくさんあり、2019年以来フットウェアの面で大きな進展を達成した。しかし、やるべきことはまだまだ多い」と、同氏は述べている。
「いつの日か、このプラットフォームにおいて、ザッポスの体験全体に組み入れられるブランドをさらに増やしたい」と、同氏は付け加えている。
ファッション企業におけるチャンス
近年では多様性、公平性、包括性のポリシーを取り入れ、より幅広い層のオーディエンスを取り込もうとするアパレルやフットウェアの小売業者が増えてきた。アダプティブファッションのカテゴリーもまた、このような取り組みの「重要な部分」になると、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のシニアアナリストを務めるスカイ・キャナバス氏は米モダンリテールに語った。
しかし、「現在の経済状況では、ファッション企業は新しいカテゴリーに投資することには二の足を踏むかもしれない」と、同氏は認める。たとえば、多くの小売企業はプラスサイズのコレクションを作ったものの、結局はその規模を縮小することになった。
「アダプティブへのニーズに対する認識は次第に高まりつつあるものの、ファッション業界では、それを行動に移すのが遅れていた。そのため、個別のブランドが踏み出して抜きん出るチャンスがある」と、キャナバス氏は説明している。
少なくとも、ブランドは支援団体とつながり、障害者のニーズを知るために顧客からのフィードバックを求めることができるとキャナバス氏は述べている。
「新しいアダプティブなスタイルを提供する準備ができていなくても、ファッションブランドはお直しや仕立て直しのサービスを提供したり、これらの消費者が商品を使えるように、(その方法を見つけるのを消費者に任せるのではなく)手助けすることができる。また、この分野ですでに積極的に活動しているデザイナーとも提携できる。さらに商品だけでなく、店舗やオンラインショッピングの体験が障害を持つ顧客にとって利用しやすいものであることを保証すべきだ」と同氏は付け加えた。
[原文:‘There’s lots of growth opportunity’: How brands are investing in adaptive fashion]
Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Springrose