動画への大転換が続いている。しかし、その背景には、ある不都合な事実が存在している。それは、ユーザーよりも広告主のほうがデジタル動画を好んでいるという事実だ。そして、広告を買う側からさえも、うまく行くのかを危ぶむ声が出てきている。
動画への大転換が続いている。この数週間だけでも、バイス(Vice)、FOXスポーツ(Fox Sports)、スポーツイラストレイテッド(Sports Illustrated)、MTVニュース(MTV News)といったパブリッシャーが、リソースを動画にシフトしていると表明した(その際、スタッフは解雇されることが多い)。ただし、いずれの動きにもその土台には、ある不都合な事実が存在する。ユーザーよりも広告主のほうがデジタル動画を好んでいるという事実だ。そして、広告を買う側からも、うまく行くのかを危ぶむ声が出てきている。
動画は大量に出回っているかもしれないが、よい動画に関してはまだ需要が供給を上回っている。クリエイティブエージェンシー、メディアキッチン(The Media Kitchen)のプレジデント、バリー・ローエンタール氏は、基本的には動画に大賛成で、特に、ブランドをまだ知らない人や、ブランドへの態度をまだ決めていない人を説得する方法として動画を支持している。それに、動画の質は全般的に良くなっているという。
「それでも、全員が動画に行けばいいとは、我々は考えていない」と、ローエンタール氏は述べる。「動画はお金がかかる。みんながうまくいくわけではない。また、動画を受け入れるユーザーばかりではない。プレミアムなものよりもガラクタの方がはるかに多い。CPMは相変わらずかなり高く、そこから言えるのは、不足があるということだ」。
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横行する手抜き動画
動画への取り組みが比較的新しいパブリッシャーは、その点は改善している。しかし、広告主側の期待レベルも上がっている。「10年前なら、問題は量の蓄積だけだった」と語るのは、エージェンシーのマインドシェア(Mindshare)で米国担当デジタル投資責任者を務めるクリスティン・ピーターソン氏だ。動画の視聴時間が拡大するなか広告主たちは、タレントが適切か、また適切なオーディエンスが視聴したうえで戻ってきて、動画が視聴者との感情的な結び付きを作り出していることが垣間見えるかについて、詳細に調べるようになっている。
「質の高い動画コンテンツは、まだニーズが高い」と、ピーターソン氏。「質は、はるかに詳細に検討されている」。
問題は、パブリッシャーが文章を広告だけでマネタイズするのがほぼ不可能であることだ。「ニューヨーク・タイムズ(New York Times:NYT)」など、もっともうまくいっているところは、サブスクリプションによるかなりの収益がある。しかし、そんなメディアはごく一部だ。広告主とFacebookが動画を要求するなかで、写真やGIFを縫い合わせてそれを動画にする便利ツールを使ったり、録画した動画をライブだと欺いたりと、動画はパブリッシャーの手抜きにつながっている。
自動再生動画も問題
パブリッシャーにとって最大のソーシャル動画配信者であるFacebookは、パブリッシャーがFacebook上の動画配信で収益を得られるように、協力の門戸をゆっくりと開きはじめているが、これも大きな収益源にはほど遠い。Facebookは、パブリッシャーの動画の途中に広告を入れているが、そうした広告があっても見るに値する短いソーシャル動画の制作法を、パブリッシャーはまだ会得していない。「ユーザーの注意を一番集める方法について、改善の余地があるのは確かだ」と、ホライズン・メディア(Horizon Media)のデジタル投資担当VP、アレックス・ストーン氏は語った。
自動再生がなくならないことも、動画の質をいつまでも高められないパブリッシャーが多いことを示唆している。そうした動画は鼻であしらう、という人が増えていて、オーディエンスと広告主が寄り付かなくなるリスクがあるのに、自動再生は至る所にある。
「広告の自動再生も、コンテンツの自動再生も、ひどい体験だ」と語るのは、出版コンサルティング企業ガーションメディア(GershonMedia)のプレジデント、バーナード・ガーション氏だ。「これによって再生数を上げているパブリッシャーが明らかにいる。広告主に売れる視聴数が10倍や20倍にはなるだろう。しかし、広告主だって賢くなっている。一定範囲のデモグラフィックスに訴求する、質の高いコンテンツを中心にしたがっている」。
感情の結びつきが重要
動画で金を稼ぐというのなら、視聴数が多く収益も最大になるのは、感情の結びつきを作り出す質の高いプレミアムな動画プログラムだが、これを達成している従来型のパブリッシャーはほとんどない。単なる視覚や音や動きだけでは、感情の結びつきは保証されないのだ。
Amazonのようなところがオリジナル動画に大金を使って、GoogleやFacebookから動画広告収益をもぎ取っているが、「そうしたフィールドでプレイしない限り、勝負にならない」と、ガーション氏は指摘する。「印刷された言葉も、まだ反応と感情を生み出している」。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)