米国では、広告主がTikTokに本格的に注目するようになった矢先に政治問題が勃発したことで、各社は同プラットフォームについて再考せざるをえなくなっている。
米国では、広告主がTikTokに本格的に注目するようになった矢先に政治問題が勃発したことで、各社は同プラットフォームについて再考せざるをえなくなっている。
TikTokの人気は高まっているにも関わらず、広告費は激減。特に、ミッドファネルとアッパーファネルに向けた出稿の減少が顕著で、TikTokではじめてのキャンペーンを検討していた広告主の再考が相次いでいる。広告主は、長期的に利用できる分野でキャンペーンを実施したいと考えているが、TikTokではまだそれが証明されていないからだという。
インフルエンサーマーケティングエージェンシーで、TikTokのクリエイティブパートナー、タクミ(Takumi)のグループCEOを務めるキーン・ドーソン氏は「大手広告主がTikTokで広告を出すようになったのはつい最近で、そもそもインスタグラムやYouTubeほど優先順位は高くない」と分析する。だが、TikTokをめぐる今回の騒動が、広告主の計画に影響しないというわけではない。いくつかの面ですでに影響が見られており、特に顕著なのが、コロナウイルス前からTikTokを試したり本格運用していた企業だ。
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撤退は難しくない
キャンベル(Campbell’s)やテンセント(Tencent)、アクティビジョンブリザード(Activision Blizzard)などの広告主を抱えるインフルエンサーマーケティングエージェンシー、バイラルネーション(Viral Nation)の共同創業者兼CEOのジョーギャグリース氏は、「当社のクライアント2社が今回の騒動に巻き込まれるのを避けるため、9月までTikTokでのインフルエンサーキャンペーンの保留を決定した」と明かす。
「社員を解雇したり、来年に向けメディア予算を組み直さなければならない大手広告主は、業界関係なく増加している。そんななか、撤退リスクのあるTikTokを避けるのは当然だ」。
7月に行われたFacebookのボイコット運動からも明らかなように、自社の成長戦略にとって必須のプラットフォームでなければ、撤退はさほど難しい選択ではない。一方、Facebookへのキャンペーンを1ヵ月控えるのが困難だった広告主も存在する。だが、TikTokの場合、まだ広告を出している企業も少なく、ユーザーに可処分所得の少ない低年齢層が多いため、事業目標に直接的な影響を及ぼしにくいと考えられている。それもあって米国では、TikTokの今後をめぐる騒動を、傍観者として見守りたいという広告主が大半なのだ。
クリエイターへの依頼も減少
72万人を超えるフォロワーを抱えるTikTokクリエイター、オリバー・バートン氏は「新しいコラボレーションの話は来ていない。これまでは週に1、2件の問い合わせはあったのだが…」と語る。「話が来なくなったのは、TikTokの騒動がニュースになってからだ。何社かには今後について問い合わせたが、TikTokを活用した計画はいまのところ保留になっているようだ」。
一方TikTokの役員らは、インフルエンサーやマーケターらが焦って決断をくださないよう、安心させようと奔走している。あるエージェンシーの役員は、将来的なTikTokとの取引を考えて匿名を条件に次のように明かした。
「数日前にTikTokの社員と話したが、心配しないよういわれた。米国のTikTokは、中国のTikTokとは異なるというのが彼らの主張だ。TikTokの米国における状況は、心配に及ばない、じきに解決するといわれた」 。
代替案を検討する広告主も
それでも、TikTokが禁止された場合に備えて、代替案を用意しておくことは大切だ。なかには、TikTokが禁止された場合はインスタグラム上でキャンペーンを行うという契約を、インフルエンサーとのあいだで交わしている広告主すらある。実際、前出のバイラルネーションやセレクトマネジメントグループなどのタレント担当役員によれば、7月にTikTokの禁止が噂されるようになってから、こういった条項を頻繁に見るようになったという。TikTokは、先月のFacebookボイコットの恩恵を受けたが、いまはそのライバルたちにコンテンツを狙われている。
インフルエンサーマーケティングエージェンシーのテイリファイ(Tailify)で、アカウントディレクターを務めるステファニー・ラム氏は、「新興プラットフォームでも、たとえばトリラー(Triller)はApp StoreでTikTokを追抜いている。もしTikTokの状況が変化しても、それに合わせて対応できるだろう」と語る。
「また、いくつかのクライアントとは、インスタグラムのリール(Reels)を検討している。当社は将来のあらゆる可能性を考えて、クライアントのTikTok上のキャンペーンを、ほかのプラットフォームに移行できるよう戦略を立てている」。
容易なことではない
だがここで注意すべき点は、以前から多くのマーケターが、異なるプラットフォームへコンテンツを移行する際、単にコンテンツを移動するだけではうまくいかないと指摘していることだ。キャンペーンの中核となるアイデアやストーリー、フォーマットだけでなく、広告主とインフルエンサーの提携方法にも柔軟性が必要だ。なによりも、そもそも想定していなかったチャネルに無理やりコンテンツを押し込むより、キャンペーン自体を延期するメリットのほうが大きい場合がほとんどだ。
「TikTok用のコンテンツをほかのプラットフォームに持ってくると、成功する場合もあるが、うまくいかないことも多い」とアビラ氏は語る。「TikTokで300万回再生の動画をTwitterに上げても、2000回ほどしか再生されないケースもある」。
結局のところ、広告主にとってはアプリをどの企業が提供しているかはさほど重要ではない。大切なのは、危険な「チャレンジ」動画や性的なコンテンツといった、問題のあるコンテンツがしっかり精査されているかどうかだ。TikTokは、若いユーザー層にとって安全な環境を提供できていないと、これまでも非難されてきた。さらに、TikTokに広告を出している企業は決して多くないため、キャンペーンは良くも悪くも目立つ。いまの政治的なゴタゴタのなかでキャンペーンを出すリスクが、広告主を遠ざけているのだ。
[原文:‘There’s been no emails or interest’ As the drama over TikTok intensifies, advertiser interest cools]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)