記事のポイント 全米広告主協会は9月下旬、MFA(広告目的でつくられた)サイトを定義。一方でSSPや大手エージェンシー会社、さらには検証企業の多くはジャウンス・メディアなどの定義を基に、MFAサイトを判定していた。 定義 […]
- 全米広告主協会は9月下旬、MFA(広告目的でつくられた)サイトを定義。一方でSSPや大手エージェンシー会社、さらには検証企業の多くはジャウンス・メディアなどの定義を基に、MFAサイトを判定していた。
- 定義は厳格なものではなく、大なり小なり、さまざまな解釈を生むのは必至とみられる。ただ、地方のメディア企業などに過度なペナルティを課さないよう、定義を緩めたと考えられる。
- MFAについての知識が不足している広告主が存在することが明らかに。広告主に教えなければならないことが、まだまだ数多く存在する。
MFAサイトの定義が、業界団体グループにより正式に発表された。
メディア・広告業界では「MFA(Made-For-Advertising:広告目的でつくられた)」という言葉が何カ月も前から飛び交っているが、ROI(投資利益率)の点でほとんど効果のない、その低価格の広告インベントリー(在庫)に、バイヤーたちは反感をあらわにしてきた。
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そして関係者たちは、この言葉がきちんと定義されることなく一人歩きしていることが、混乱のもとであることに気づいた。
MFAを定義
MFA狩りに火を付けたのは、全米広告主協会(The Association of National Advertisers:以下、ANA)が今年6月に発表した「プログラマティックメディアのサプライチェーンの透明性に関する調査(Programmatic Media Supply Chain Transparency Study)」だった。火付け役のANAは、各業界団体に協力を仰ぎ、MFAを構成する特性の解明に乗り出した。
そして9月下旬、全米広告代理店協会(American Association of Advertising Agencies:4A’s)と世界広告主連盟(World Federation of Advertisers:WFA)、全英広告主協会(Incorporated Society of British Advertisers:ISBA)との共同作業を経て、MFAを定義付けした。これら業界団体が発表したプレスリリースによると、「MFAサイトは一般に、次のような特徴を何らかの組み合わせで示している」という。
- デスクトップにおけるコンテンツに占める広告の比率が30%以上
- 広告表示が高速で自動更新される。これらの広告表示には、たとえば多数のバナー広告や、自動再生動画、複数のページをクリックしないとコンテンツにアクセスできないスライドショーなどがあり、それぞれに複数の広告が貼られている
- 有料トラフィックソーシングのパーセンテージが高い
- 多数のサイトに同時配信されていて、内容が古く、テンプレート化されたジェネリックなコンテンツ。あるいは、編集されていないコンテンツ
- サイトデザインの質が低く、テンプレートが使われている
定義付けは交渉や議論の出発点
この定義が、大なり小なり、さまざまな解釈を生むのは必至だ。あるパブリッシャーをMFAと断定するには、それがこの5つの特徴のうちのいくつに当てはまらなければならないのか? ANAのグループエグゼクティブバイスプレジデントであるビル・ダガン氏は言葉を濁しつつも、「少なくとも3つであることは確かだろう」と述べている。
4A’sでメディア、テクノロジーおよびデータ部門担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるアシュウィニ・カランディカー氏は、「定義付けは行ったが、我々はこれをゴールではなく、交渉や議論の出発点だと思っている」と語る。「広告主もエージェンシーも、きちんとしたサプライや倫理に基づくジャーナリズムを求めている。それに応えるためにも、サプライサイドと協力して、よいメディアの在り方に関するガイダンスを確立できればと思っている。いわば、これは共生関係だ」。
一方、検証企業のダブルベリファイ(DoubleVerify)で最高プロダクト責任者を務めるジャック・スミス氏は、厳密さを欠くMFAの定義がこうした成果をもたらすことはないと考えている。「ANAは基準をつくるまでには至らなかった。業界の基準がなければ、これらのサイトを評価する企業とMFAリストを比較・対照するのは非常に難しいと思う」と、同氏は語る。ダブルベリファイでは今年9月に、クライアントをMFAサイトから保護する方針を打ち出している。また業界の基準がない以上、検証会社や測定会社が基準を定めるよりも、広告主やエージェンシーが自らそれを行うことが重要だと、同氏は話す。
ジャウンス・メディアの基準
プログラマティックサプライチェーンの管理を手がけるジャウンス・メディア(Jounce Media)の創業者であるクリス・ケイン氏と、不正広告を検出するディープシー・ドット・アイオー(DeepSee.io)の共同創業者でCEOのロッキー・モス氏は、前述の業界団体グループの要請で、MFAの定義付けのコンサルタントを務めた。両氏はともに、この標準定義を支持すると述べている。
ダガン氏によれば、どちらの会社にもコンサルタント料金は支払われていないという。両氏はそれぞれ、ANAが今年6月にリポートを発表してMFAを炎上させる何年も前から、自社の事業内でMFAを測定し、それを定義することに取り組んできた。その経験を買われて、この分野の専門家として協力を要請されたという。
業界団体グループによるこの定義は、ジャウンスがMFAの定義に対して取るアプローチと「完全に一致する」と、ケイン氏は話す。ただしジャウンスの定義には、業界団体グループの定義に含まれていない基準があるという。「マーケターの求める売上を促進する見込み、またはマーケターの求める売上促進に寄与する見込みが、平均的なWebサイトよりも少なくとも50%低い」がそれであり、この基準をジャウンスはMFAを判定するための「ものさし」として使っている。
モス氏によれば、同氏のチームもこれと似たようなシグナルセットを使っているという。業界団体グループの定義は、白か黒かという点で、一般に採用されることを意図したガイドラインに寄せられる期待を下回っているように思えるかもしれないが、それは意図的にそうしているのだと、同氏は語る。
「その定義は厳格なものではない。実のところ、我々の議論の対象は、無駄な支出を取り巻くさまざまな活動の集積だからだ。我々が提供してきたのは、不意打ちを食らわなくてもいいように、先手を打ってスキャンできるシグナルだ。このシグナルを使うのが誰であれ、ここまでなら許せるという限界、限度は人によって異なるかもしれない。しかし少なくとも、どこに目を光らせればいいかわからなかったとは、誰も言わなくなるだろう」と、モス氏は語る。「誰もが共通言語で話すようになるのは、悪いことではない」。
厳格なものではない理由
「誰もがこの定義を取り入れて、MFAサイトの特定について考えを同じにすること。それが目標だ」と、ダガン氏は話す。「ANAが定義する『広告目的でつくられた』とは何か? メンバーたちからは、そんな質問を投げかけかられてきた。『これはANAだけが支持している定義ではなく、あなたのエージェンシーも支持しているはずだ。4A’sの承認も取っているのだから』という方が、答えとしてはいいと私は思う」と、同氏は語る。
カランディカー氏によれば、この定義が意図的に厳格にされていない理由は、地方の独立系メディア企業や、少数民族が運営するメディア企業は、自社が販売する大型キャンペーン契約に付加的サプライを設けるという罪を犯している可能性はあるが、こうしたメディア企業に直ちにペナルティーを科さないようにするためだという。
「これは必ずしも、中小のパブリッシャーなら自由に広告収入のみを目的とするWebサイトを創出し続けられるということではない。そうではなくこれは、そのサプライがどのように調達されているのかを彼らが示す、ひとつの機会なのだ」と、カランディカー氏は語る。こうした話し合いは、以前はバイヤーとセラーのあいだで行われていなかった。
データの多様性も重要
先を見越して行動するSSPや大手エージェンシー会社、さらには検証企業の多くは、この定義が今年9月下旬に発表される前、ジャウンスの定義やディープシーのMFAリストを中間的に使って、そのパブリッシャーがMFAかどうかを判断していた。
グループエム(GroupM)は今年8月、プログラマティックインクルージョンリストからMFAを外すと発表した。同社は自社のプログラマティック事業にこの標準定義を取り入れるつもりなのだろうか? 同社の広報担当者からは直接的な答えはなかったものの、メールで声明が送られてきた。「業界が一丸となって、MFAの定義の標準化に取り組んでいるのを見て、勇気づけられている。関係者全員がさらに協力して、MFAを撲滅するよいきっかけになるだろう」。
「ジャウンスの戦略定義は業界団体グループの定義と大きくは違わない。グループエムがジャウンスの定義を取り入れるつもりなら、それはそれでスタートとして間違っていない。だが、ジャウンスが使ってきたガイドラインから、若干のアップデートが加えられたこの定義へと、視点を変えて、誰もが共通認識を持てるようにするのも、私はいいと思う」と、ダガン氏は語る。ただし、この「若干のアップデート」が何を意味するのかを同氏が明らかにすることはなかった。
「ジャウンス、ディープシー、ダブルベリファイ、そしてこれらに続くすべての企業は、各自が異なるテストを用いて、ジェネリックなコンテンツやテンプレート化されたサイトデザインを識別することになる」と、ケイン氏は述べる。そして、データの多様性にはこの定義を機能させる効果があるはずであり、この点こそが、重要なのだという。
「各社それぞれが異なった解釈を下すことになるだろう。しかし、たとえその方法論が違っても、全員がMFAサプライのこの5つの特徴に合意して、最終的に出来上がるものを比較できれば、MFAサイトのリストは、まったく同じとまでは言わないが、似通ったものになるのではないだろうか」と、ケイン氏は語る。
広告主に教えなければならないこと
ANAは今年10月中に、6月に発表したリポートのフォローアップを発表する予定だ。そこにはMFAの定義だけでなく、MFAが業界内で果たす役割についてのさらなるデータやインサイトも盛り込まれることになっている。その目的は、MFAに関する知識を広告主に深めてもらうことにある。
ANAメンバーを対象とする調査が現在行われているが、「その初期段階における結果(詳細は今度のリポートで発表されることになっている)からは、回答者の約3分の1が、MFAが何なのかをいまだに理解していないことがわかった」と、ダガン氏は話す。これはつまり、広告主に教えなければならないことが、まだまだ数多く存在するということだ。
「広告目的でつくられた」という言葉に対して広告主やパブリッシャーの多くが抱く、よくある批判的な意見のひとつは、最新のデジタルメディアサイトのほとんどが、広告売上を介してマネタイズされており、広告をサポートするようにつくられているではないか、ということだ。これが、MFAについての議論が行われる際に、大なり小なりの混乱を生んでいる。
カランディカー氏によれば、同氏のチームは「MFA」を「Made-For-Arbitrage(広告目的でつくられた)」の略と考えて、健全な広告売上でマネタイズされているサイトと、プログラマティック広告市場を巧みに利用しようとしていることが明らかなサイトを区別しているという。こうした区別はこの先、広がりを見せるのだろうか? それはまだわからない。
これについては、ダガン氏も同意見だ。「その意味では、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)も『広告目的でつくられた』だ」と同氏は言う。「だが、チューブから出した歯磨き粉は、簡単には元に戻せない。いまや、誰もが『広告目的でつくられた』という言葉を使うようになってしまっている」。
[原文:There is a new definition for MFAs, but it’s meant to be open to interpretation]
Kayleigh Barber(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)