[ DIGIDAY+ 限定記事 ]セキュリティ企業ADTがメディアマーケティング業務のすべてを自社の部署へと移行し始めて1年。エージェンシーを起用しないことを目的としてはじめられた計画だが、コストは次々と膨らみ、同社の最高マーケティング責任者は果たして、それに見合った成果が得られるのか考え込んでいるようだ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]セキュリティ企業ADTがメディアマーケティング業務のすべてを自社の部署へと移行し始めて1年。エージェンシーを起用しないことを目的としてはじめられた計画だが、コストは次々と膨らみ、同社の最高マーケティング責任者は果たして、それに見合った成果が得られるのか考え込んでいるようだ。
「節約が目的ではない」
2018年7月から2019年7月にかけて、ADTが起用するエージェンシーの数は15から0になった。同時に、自社で行うマーケティングが増えた。ソーシャル、動画、検索、ディスプレイ広告を自分たちで購入しはじめ、ダイレクトメール、テレビ、ラジオも自分たちでバイイングをはじめた。同時に、アナリティクスも社内部署に担当させ、自社のマーケティングデータサービス部門を構築した。それによって、予測メディアモデルを制作し、マルチタッチのアトリビューションを自分たちで行うためだ。
これらによって、エージェンシーを起用する必要がなくなり、ADTはマーケティング予算の20%を削減することができた。しかし、ADTの最高マーケティング責任者であるジョウチェン・コーディック氏によると、節約が重要な目的ではなかったという。
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「幅広いエージェンシーを起用していると、メディアバイイングを抜け目なく遂行することは難しくなる。というのも、これらの投資が誰のもので誰のために行われているか、という点が薄められ、曖昧になることがあるからだ。マーケティングを我々のビジネスの中心的な競争力にすることが、常に目的だった。節約は我々にとって、目的ではなかった」と、コーディック氏は言う。
バカにならない追加コスト
実際、エージェンシー起用を止めてからこれほど早い段階でこれほどまでコスト削減ができたことで、ADTは自社部門が行う業務についてより注意を払うようになったようだ。たとえば、最新のアドテク技術に精通しようとすると、自社部門にかかる負担が大きくなり、追加でコストがかかることもある。
「マーケティングが我々にとっての中核的な能力であって欲しい、しかしどれほどそこに注力するかが問題だ。どこかの段階で、投資するリソースに対する収益が減りはじめるポイントに達するからだ」と、コーディック氏は言う。
コーディック氏は、プログラマティック戦略を構築する最適な方法を吟味している最中だが、この疑問がまさに中心事項となっている。アドテクスタックを構築しようとすると、目には見えないコストがたくさん発生する。アドテクを運営するための人材から、メディアでの入札をするのに必要なデマンドサイドのプラットフォームに至るまで、設定によってはADTのような広告主には毎年数十万ポンド(数千万円)単位のコストが容易にかかってしまう。オンラインオークションから広告のほとんどを買っている、というわけではないビジネスにとって、このコストは正当化し難い投資だ。
人材をいかに獲得するか
いまのところ、社内のプログラマティック業務にどれほどの予算を費やすか、ADTはまだ決断していない。ADTは「ハードコアなデジタル広告主」ではないと、コーディック氏は言う。しかし、ADTは現在動画と検索のための内部メディアバイヤーを探しており、この現状も変更される計画だ。
ADTは人材採用に成功してきているものの、そのスピードは彼らが希望するほど早くはないようだ。フロリダ州ボカ・レイトンにある彼らの本社だが、これを素晴らしいと考える転職希望者もいれば、マーケティング人材を集める場所としては知られていない。そのため、彼らはコロラド州オーロラに彼らが持つオフィスの近くでの人材を探しているようだ。拡大中のマーケティング部門のいくつかはオーロラが拠点となっている。
「コロラド州オーロラはアメリカの中央に位置しており、よい人材が存在しており、人々が移住したいと考える場所だ」と、コーディック氏は言う。
パブリッシャーとの関係管理
人材以外にも課題はある。エージェンシーを通さずに、複数のパブリッシャーとの関係を管理することは難しいとADTは感じているようだ。自ら広告を購入する広告主たちは、ブローカーが必要であり、それから広告を売る会社との契約をやり取りする必要がある。
「マネージできる範囲には完全に収まっている。しかしデジタルと従来の分野ともに、パブリッシャーとのすべてのダイレクトな関係を維持するのは大きな業務だ。エージェンシーを起用することのメリットは、パブリッシャーとやり取りをして直接の契約関係をキープすることができる点にある」と、コーディック氏は言う。
しかし、社内部門へとマーケティング業務を移転させる計画を廃止する意図はないようだ。エージェンシー起用を停止するのにかかっているコストやスピードの緩やかさは、より大きな規模でのブランド刷新に要因がある。無機質はセキュリティ企業というポジションから離れて、カスタマイズされたスマートホームにおけるセキュリティサービスを提供する点にフォーカスを集めようとしている。広告を購入する部門のほとんどがマーケティング部門の一部であれば、このブランドメッセージを届けるのもより容易く、そして素早く行うことができるだろうと、コーディック氏は語った。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)