創業8年のジ・イエス(The Yes)。ファッションマーケットプレイスにおいてジ・イエスが大きく差別化を図っているのは、好きな製品や嫌いな製品に対して「イエス」か「ノー」を買い物客が自発的にクリックすることでパーソナライズされた体験が提供されるという点だ。創業者のボーンスティーン氏に話をきいた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
想定外だった年をベータ版としてカウントするなら、ジ・イエス(The Yes)は創業からまだ8カ月しか経っていない。
小売りのベテランであるジュリー・ボーンスティーン氏は、2020年3月に彼女自身が「新たな買い物の方法」と表現しているファッションeコマースプラットフォームを立ち上げる予定だった。しかしその時、コロナウイルスのパンデミックが起きた。そこで彼女は2カ月待って、5月に会社を発表した。それはジョージ・フロイド氏が殺されて「世界がさらに複雑になる」直前だった。ほかの分野の多くの企業と同様に、その年、そしてその翌年2021年にジ・イエスが直面した計画変更や優先順位変更の事態はそれだけにとどまらない。
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「ベータ版の期間じゃないかと思えるようななかで活動していた」と、ボーンスティーン氏は最新の米Glossyポッドキャストで語っている。「結局その1年間は、体験の向上やより多くのブランドとの提携、ユーザーの好みの学習など、じつに多くのことの改善に費やすことになった。(アプリに加えて)ウェブを立ち上げる必要があると判断して実行した」。
ファッションマーケットプレイスにおいてジ・イエスが大きく差別化を図っているのは、好きな製品や嫌いな製品に対して「イエス」か「ノー」を買い物客が自発的にクリックすることでパーソナライズされた体験が提供されるという点だ。ボーンスティーン氏はスティッチ・フィックスでCOO、セフォラでCMOおよびチーフ・デジタル・オフィサーを務めるなど、経営幹部の立場にあった際にこうしたプラットフォームの可能性に気づいたという。
注目すべき点は、ジ・イエスが1月4日に「イエスファンド(Yes Funds)」と呼ばれるポイントプログラムを展開したことだ。ボーンスティーン氏は、12月中旬に行われたポッドキャスト収録時に次のように予告していた。「私はセフォラでビューティインサイダー(Beauty Insider)のローンチを手伝ったこともあり、最高の顧客に報酬を与えるようなおもしろいプログラムがとても気に入っている」。
以下、今回のポッドキャスト対談のハイライトをお届けする。なお、読みやすさのため若干の編集を行っている。
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際立った顧客体験を提供することについて
「製品の最高の組み合わせを提供すること、つまり、ハイブランドからローブランドまでベストな品揃えを提供することで、私たちは顧客との関係性を築いている。こうしたブランドを多数揃えるのは、前代未聞とまでは言わないにしても、まれなことだ。ベストプライスを提供することをとにかく保証するというのもその一環だ。ほとんどの場合は問題にならない。なぜならブランドは価格の整合性を守るのがかなりうまいからだ。ただ私たちとしては、ベストプライスかどうかを確認するために、あらゆるサイトをチェックしなくてはといった心配を顧客にはしてほしくない。そのためにテクノロジーがある。チェックアウト体験を非常にシームレスにするのもそう。Apple Payがその中心で、ほかにもいろいろなことを行っている。
また、配送した荷物がどこにあるのかということに関しても、顧客と多くのコミュニケーションを取っている。発送中、あるいは配達済みという内容を楽しいテキストで知らせていて、そこに少し個性を持たせている。つまり、すばらしい顧客体験の実現にまさに必要とされる基本的なeコマースの中心要素はすべてある。さらによい点として、私たちにはパーソナライゼーションとその後の1対1のコミュニケーション能力がある。そうしたことをサイトやアプリだけでなく、Eメールでも行っている。たとえばある製品に「イエス」を押して、まだそれを購入していない場合、その製品がセールになれば、私たちは顧客にお知らせする。あるいは好きなブランドの新製品が新たにドロップされたら、それも知らせている。このようにして顧客とのコミュニケーションをより重視し、かつ実際に本当に役に立つものにすることができる、それが私たちのゴールだ」。
資金調達について
「資金調達に関しては、明らかにかなり野心的なアプローチを取った。本当によいアイデアがあるにもかかわらず、トラクションを得ることができず、調達した資金があまりにも少なくて倒産する企業を非常に多く目にしてきた。それというのも、あらゆることに予想以上にコストや時間がかかるからだ。そこで自分が起業するにあたっては何人かのエンジニアと一緒に、製品づくりにかかるだろうと思われるコストの評価に時間をかけ、それを2倍にした。
結局、シードラウンドとしてスタートする際に1000万ドル(約11億4500万円)を調達している。私が長年フォローしていて尊敬もしているフォーランナーベンチャーズ(Forerunner Ventures)のカーステン・グリーン氏を直接訪ねて、自分がどんなことをしているのかを彼女に説明した。彼女はNEAのトニー・フローレンス氏とともに共同代表者のひとりだった。それ以降、私たちは合計4000万ドル(約45億7800万円)を調達している。それでも資金調達はまだ継続していくつもりだ。なぜならこれは金のかかる試みで、膨大な技術が必要だし、エンジニアは決して安くないからだ。それに時間もかかる。多くのブランドなくしてすばらしいパーソナライゼーション体験をローンチすることはできないし、それが無理なら顧客にとって本当に機能するものにはならないというのが現実だ。そこで、すべてのブランドを用意して、システムを稼働させる必要があった。現在はその体験をさらに向上させるために、やりたいことがかなりたくさんある。もっと追加したいブランドもあるし、今あるブランドと一緒にやりたいこともある。目の前にしたいことが山積みなのだ。業界を変えるような本当に大きなことを構築するつもりでいるなら、気の弱い人には無理だし、間違いなくお金がかかる」。
テクノロジーの才能を引き寄せることについて
「エンジニアとして優秀な人とファッションに興味がある人が重なっていることは非常に少ない……。私がこのビジネスを始めた理由のひとつは、自分が技術分野とファッション分野でとても密に仕事をしており、私自身がその両方において何がよいものなのかを理解している数少ない人間だと感じたからだ。私たちが解決しようとしている問題はじつに興味深く、本当にむずかしいので、私たちにできることは、すばらしいエンジニアを採用することである。私たちのチームで働くエンジニアのうち、ファッションに興味がある人は、たぶんたった2〜3人ではないだろうか。だがそうしたエンジニアたちが本当に興味を持っているのは、業界を変えるプラットフォームを構築すること、ショッピングの未来を構築することであり、私たちは自分たちがオンラインでのショッピングのあり方をまさしく変化させていると考えている。そして本当にやりがいのあるカテゴリーとして、まずはファッションがある。だが(その技術は)ほかのカテゴリーにも適用することができるはずだ。また、エンジニアはAIや応用AIにも非常に興味を持っている。人工知能は、医療やエンターテインメントの分野でさまざまな興味深いことを行うことができるし、私たちはソーシャルメディアやメディア企業で実際にその状況を目にしてきた。だがまだ誰も、それを中心的な方法でコマースに適用していない。だからそれ自体がとても興味深い。そして(だからこそ)私たちは本当に優秀なエンジニアを引き寄せることができている。またそれは社内に優秀な人材がいて、才能が才能を引き寄せているからでもある」。
[原文:The Yes founder Julie Bornstein on building an ‘industry-changing’ retail platform]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)