「透明性(Transparency)は、さまざまな形に変化する」と言われたら、「ひょっとして変形(Transform)って言いたい?」と突っ込みたくなるかもしれない。ただし、この業界においては、特に言い間違えたわけではない(今のところ)。ある意味、混乱させることに第一義があるとも言える広告業態だからだ。
「透明性(Transparency)は、さまざまな形に変化する」と言われたら、「ひょっとして変形(Transform)って言いたい?」と突っ込みたくなるかもしれない。ただし、プログラマティック広告が盛んに取引される世界においては、特に言い間違えたわけではない(今のところ)。ある意味、混乱させることに第一義があるとも言える広告業態だからだ。
現在、全米広告主協会(ANA)は監査役のプライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers、以下PwC)と協力して、広告主がさまざまなアドテクセクターを理解できるよう積極的に支援している。しかしプログラマティック広告については、ここ数週間で多くの関係者が期待を裏切られたと証言している。
一方で、エージェンシーを代表する業界団体、米国広告業協会(4A)は、サプライチェーンが順調であることを確認する方法をメンバーに教示している。
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「広告主は詳細な情報を受け取っていない」
だが、この目下の課題が複雑極まりないものだということは、アドテクの調査研究団体であるアダリティクス(Adalytics)による最近の調査で明らかにされており、報告書の作成者のクシシュトフ・フラナシェク氏は、特にケースごとに取引手数料の割合が大幅に変化していることに着目した。彼の調査によると、アドテク仲介業者が総額から最大80%を取得し、パブリッシャーはわずか2%しか取得していないケースもあった。
さらに言えば、金額とパブリッシャーの力量とは相関していないようである。ただし、一部のサプライサイドのプラットフォームは個々の広告インプレッションに多少の補助をしているようだ。「これは、総合的な成功率を上げるために行われている節がある。そうすることで、パブリッシャーや広告主により効果的に見えるようになるからだ」とフラナシェク氏は結論づけ、改善の余地がまだたくさんあることを示唆した。
業界における無数の広告売買につきものの「金融取引」を考慮すると、たとえばPwCが2020年の調査で見つけたような「15%の不明な変化分・差分」を埋めるつもりなら、同社はあまりの差分の多さに手一杯になってしまうだろう。
バイサイドおよびセルサイドのほとんどのプレーヤーは、ログファイルデータを使用して入札活動を実証するリアルタイムまたはほぼリアルタイムの分析サービスを提供しているが、2年前には、過剰と言えるほどの種類のカレンシー(通貨)が混在したこと、および報告方法も統一されていなかったため、その解析・整備に多分の時間が費やされ、PwCによるこのセクターの監査は困難極まった。
アドテク業界の監視役であるチェックマイアッズ(Check My Ads)の共同創設者であるナンディニ・ジャミ氏は米DIGIDAYの取材に対し、(彼女の)調査の結果、広告主はエージェンシーであれブランドであれ、自らの予算がどこに投資されているかを正確に把握できるほど詳細な情報を受け取っていないことが明らかになったと述べた。さらに彼女は、「彼ら(エージェンシーと広範なエコシステム)はブランドに、自信を持たせるのに必要な情報をまったくと言っていいほど提供していないことが判明した」と付け加えた。
情報を開示しない巨大テック企業たち
また、複数の情報筋が米DIGIDAYに語ったところによると、アドテクの内部構造をより良く確立しようとすると、周囲の者の(昔ながらの)非協力的態度が依然として無視できない力となって作用し、改善を阻害するという。ある情報筋によると、PwCの調査後にこのセクターの透明性を向上させようとする試みは、広告主が新しい契約条件の交渉の際に要求したレベルを満たすデータの提供を拒否したアドテクプレイヤーたちによって、くじかれてしまったという。
「共有できる部分とできない部分の線引きが難しく、契約書の作成が困難さを増している」と、大手ホールディングスグループの情報筋(このトピックの繊細さを考慮して名前は伏せている)は述べる。「多くの場合、DSPまたはSSP側でどのような取引が行われているかさえわからない。つまり、需要と供給の市場における取引の内容さえよくわからない状況下では、企業が共有したい情報を選択できると言われても、正確な選択は不可能だ」。
一方、別の情報筋は、大手メディアバイヤーやブランドがGoogleなどの巨大テック企業と交渉をしようにも、その能力に限界があると指摘する。それは、彼らの伝統的な交渉の駆け引き、つまり最終的に今後いっさい手を引くという脅しは、Googleに通用しないからだ。
またコンサルティングサービスのTPAデジタル(TPA Digital)のCEOであるウェイン・ブロッドウェル氏は、多くの場合、規模の大きい広告主は実は巨大テック企業の主要な収入源とはなっておらず、巨大テック企業の多くはロングテールの広告主から収入の大部分を得ていると説明する。
「巨大テック企業は、手数料の公開やバイサイドとセルサイドへのすべての決定の開示を行うつもりはない。これが、GAFAと競争する野心を持つトレードデスク(The Trade Desk)が最近、オープンパス(OpenPath)を立ち上げた理由の一つだ」と彼は言う。「市場はマーケットリーダーの大演説に反応し続けているが、現実には、業界は『大企業』と『ミッド・ロングテール広告主』の2つに分かれつつある」。
「広告主に譲歩するつもりはない」
巨大テック企業が、個人商店や地域企業などミッドテールからロングテールの広告主の課題を解決する一方で、多国籍ブランドの持ち株会社などのエンタープライズメディアバイヤーは、より多くのカスタムメイドツールを使用したがる。
「巨大テック企業も、中期的にはそれに対応する必要があるだろう」とブロッドウェル氏は述べ、巨大テック企業は今後もデータの管理粒度を変更する可能性は低く、既存の業界構造が彼らの収益につながっていることから、まだまだ広告主に譲歩するつもりはないだろうと、ブロッドウェル氏は付け加えた。
「通常、エージェンシーは投資の全額を負担することができるが、これらの大きなプラットフォーマーと交渉する場合、プッシュする余地はあまりない」と、匿名のホールディングス企業の情報筋は付け加える。「たとえ、全額投資を中止すると揺さぶりをかけたとしても、そんな脅しは通用しない。合法性の観点からそれは起こり得ないし、まためったに起こることではないので、脅しは通用しないことがこれまでに証明されてきた」。
[原文:‘The threat is hollow’: True transparency is some way off for scaled advertisers]
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)