「もはや D2C は適した呼び名ではない 」:D2Cビジネスの複雑化によって、戦略を見直すブランドたち

IPOで時価総額10億ドル企業となったマットレスのD2C(direct-to-consumer)ブランド、キャスパー(Casper)はターゲット(Target)で商品を販売し、現在、直営店戦略を練っている。2011年に創業し、かみそりを自宅に届けるビジネスモデルを展開するダラー・シェイブ・クラブ(Dollar Shave Club)は、同社が混乱させていたユニリーバ(Unilever)の傘下に入った。在庫を持たないショールームモデルの火付け役であるメンズウェアブランド、ボノボズ(Bonobos)はいまや、ウォルマート(Walmart)のブランドだ。D2Cのかみそりブランド、ハリーズ(Harry’s)がかみそりメーカー、エッジウェル・パーソナルケア(Edgewell Personal Care)に買収されたとき、もっとも物議を醸したニュースは、すでにオフライン販売(オンライン経由ではない)が売り上げ全体の半数を占め、その大部分がターゲットとの提携によるものという事実だった。

D2Cカテゴリーを象徴するブランドが卸売りや大企業への販売を行っているということは、これらのブランドはもはやD2Cの枠にフィットしないということだ。その結果、D2Cは存在の危機に直面している。

これは若いブランドが戦略を練る際に直面するものでもある。飲料ブランド、ダーティ・レモン(Dirty Lemon)の創業者ザック・ノルマンディン氏はブランドのロードマップを見直し、アイリス・ノバ(Iris Nova)を設立した。新ブランドを素早く立ち上げ、小売パートナーシップを構築するためのコンシューマーテクノロジープラットフォームだ。アイリス・ノバは2018年12月、コカ・コーラ(Coca-Cola)が主導する資金調達ラウンドで1500万ドル(約16億円)を集めた。

「少なくとも現時点では、オムニチャンネルが前進のための道筋だ。ただし、いまの時代にD2Cブランドを築く方法の定石は存在しない。急激な速さで状況が変化しているためだ」とノルマンディン氏は話す。「創業の経緯を理由に、特定の戦略を貫き通すのではなく、市場を重視し、いま起きていることに反応した方がいい」。

戦略の変更に影響を及ぼしている力がいくつかある。洗練されたECサイト、有料ソーシャルメディアマーケティングという収入源はまだ枯渇していないが、ブランド立ち上げ直後に得られる勢いは弱まっている。各部門が過密化によって膨張し、かつて確実性の高かったFacebook、インスタグラム(Instagram)、Googleにブランドが群がり、同じオーディエンスを奪い合っているためだ。

現在のD2C市場に参入するブランドにとって、ファーストパーティデータとフィードバックループを管理して、顧客獲得のコストを削減し、混み合った市場で認知度を上げることは最優先事項だ。カテゴリー自体の重みとビジネスモデルの複雑化によって、D2Cのラベルは純度が危うくなっているが、新興ブランドはいまだ、よく似た使命を心に抱いている。可能な限りあらゆる手段を用いて(たとえその手段が卸売りでも)、持続可能なビジネスを構築すると同時に、顧客の望みやニーズを戦略の中心に置くというものだ。

「皆が現状の把握に苦労している」

D2Cカテゴリーへの批判はたいてい、自身のブランドにD2Cのラベルを付けることをまったく望んでいない創業者に端を発する。

メンズウェアブランド、ミズン+メイン(Mizzen + Main)の共同創業者で、EC専門調査コンサルティング会社2pmの創業者でもあるウェブ・スミス氏は「『D2C』は適した呼び名ではない。私はデジタル・ネイティブ・ブランドと呼びたい。デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランド(digitally native vertical brands:以下、DNVB)も適切ではない。多くのブランドは、DNVBに当てはまらないためだ」と話す。「これらのブランドはデジタルファーストというDNAを持つ。いまやブランドはあちこちに散らばっているため、それが唯一の境界線なのだ」。

D2C戦略は初期の輝きを失ったため、新しいブランドの参入障壁ははるかに高くなっている。その影響が特にはっきり見られるのはベンチャーキャピタル(VC)との会話だ。消費者部門から資金が引き揚げられたわけではない。CBインサイツ(CB Insights)の報告によれば、2018年、消費者ブランドに投じられたVC資金は15億ドル(約1600億円)超で、2013年は4億2600万ドル(約460億円)だったという。ただし、インスタグラム・ブランドのゴールドラッシュは終わった。

グレート・オークス・ベンチャー・キャピタル(Great Oaks Venture Capital)のゼネラルパートナー、ヘンリー・マクナマラ氏は「我々がいま探しているのは、自分の市場での顧客獲得や販売について、適切な戦略を明確に語ることができる起業家だ。飲料ブランドと衣料品ブランドでは違う戦略になるはずだ」と話す。グレート・オークス・ベンチャー・キャピタルはオールバーズ(Allbirds)やアウェイ(Away)に出資している。「D2Cカテゴリーに特効薬があり、従来型のブランドより大きなチャンスを得られるわけではない」。

投資家との会話で特に変わった点は、成長の道筋について矛盾したメッセージを告げられるようになったことだと、ブランド創業者たちは口をそろえる。掃除用品を販売するブルーランド(Blueland)の創業者サラ・ペイジ・ヨー氏によれば、6年前、VCはD2Cのような戦略に夢中だったという。ブルーランドは2019年に創業し、シードラウンドで300万ドル(約3.2億円)を調達した。ヨー氏は2014年から2017年まで、エムジェミ(M.Gemi)とロケッツ・オブ・オーサム(Rockets of Awesome)でCMOを務めていた。

「それらのブランドを売り込んだときは、いまと時代が違い、顧客獲得のユニットエコノミクスはもっと魅力的だった。それが現在は、販売などのテーマひとつを取っても、投資家によって言うことが異なる」と、ヨー氏は話す。「顧客を獲得し、利益を高めることを求める投資家もいれば、D2Cのマーケティングは高すぎるため、あちこちで販売し、規模を拡大すべきだという投資家もいる。かつて投資家たちのアプローチは明快だったが、いまはもう違う」。

販売とマーケティングを合わせた市場開拓戦略は、明確に定義されたD2Cのロードマップからそれほど直線的でないものへと変化している。道の途中に分岐点が現れ、創業者はどの道が最善かを選ばなければならない。

5月に立ち上げられた新しいD2Cの寝具ブランド、10グローブ(10 Grove)の創業者ラナ・アルジェニオ氏は、「いまはD2Cのサイクルの後期にあるため、皆が現状の把握に苦労している」と語る。

顧客獲得コスト

たとえD2C戦略に分岐点が現れても、すべてのブランドに共通する事実がひとつある。有料デジタルマーケティングのみでビジネスを構築できる時代は二度と訪れないということだ。

マクナマラ氏は次のように述べる。「このような環境でも、初期にはさや取りのチャンスがある。しかし、いったん手の内をさらしてしまったら、効率的市場が利益をゼロへと導く」。

ブランドはいまも有効だという理由で、Facebook、インスタグラム、Googleにコストを投じ続けている。しかし、効果が高くなるほど、同じ効果を得るために必要なコストも高くなる。ブランドは同時に、デジタルプラットフォームに大きく依存することをためらっている。デジタルプラットフォームは自らの利益のため、戦略を変更することで知られているためだ。その結果、新しいブランドは顧客獲得コストを下げるため、オーガニックなメディアを中心とした戦略を立てている。陶磁器ブランド、イヤー&デイ(Year & Day)の創業者兼CEOキャスリン・デュリア氏は、有料広告ではなくインスタグラムを利用してブランドを立ち上げた。ただし、インスタグラムのファッションディレクター、エバ・チェン氏やマンディ・ムーアなど、インフルエンサーや有名人に商品を使ってもらうという方法を選択した。「そこからメディアに取り上げられ、2018年5月、シードラウンドで資金を得ることができた」。

デュリア氏によれば、メディアでの売り込み(イヤー&デイはPR会社エイジオンの顧客)、インフルエンサーによる無料PRという「オーガニックなブランド構築」のおかげで、有料メディア戦略は補完的な存在になっているが、まだ洗練されていないという。

「口コミ、インフルエンサー、メディアは最初の2年間、大きな売り上げをもたらしてくれた。また、強力なグループの共感を呼ぶことができている。我々にとっては成長の土台だ」。そしてデュリア氏は次のように言い添えている。「完璧な戦略ではないが、素晴らしいブランドはそういうものだと思っている」。

ダイレクトメール、ポッドキャスト、屋外広告、ラジオ、テレビなど、あまり飽和していない手段を用いることで、投資を多様化しようと試みる企業もいる。しかし、チャンネルが増えるほど、主流のチャンネルを用いるほど、反響を追跡するのが難しくなる。

2018年に売り上げ1億ドル(約108億円)を達成したサードラブ(ThirdLove)は最近、テレビでのマーケティングを強化している。CEO兼共同創業者のハイジ・ザク氏によれば、リーチの大きさは群を抜いているという。ほかの企業も同じ意見のようだ。2018年、上位125のデジタルブランドを合わせると、前年比60%増の38億ドル(約4100億円)がテレビ広告に投じられたと、動画広告協会(Video Advertising Bureau)は先日、レポートを公表している。

テレビの参入障壁はソーシャルメディアプラットフォームより高い。また、ザク氏は、資金的な余裕ができて、はじめて検討したと述べている。さらに、リスクも高い。Facebookでのキャンペーンと異なり、リアルタイムの反響に応じて、投資先を見直すことができないためだ。ただし、ザク氏によれば、テレビはもっとも検証されたマーケティング手法であるため、たとえ反響を追跡できなくても、投資の価値は十分あるという。テレビとFacebookで同時に広告を出せば、なじみ深い2つのタッチポイントでブランドを目にしたとき、コンバージョンにつながる可能性が高まる。

「ブランドを確立するには、いろいろな場所で見かけることが重要だ」と、ザク氏は話す。「アトリビューションが難しくなるのは確かだが、我々が考えているのは、顧客は誰か、その人物は日常、人生を通じてどのメディアを消費するのか、我々はそれらの分野とどのような関係を構築したいかだ。顧客を中心に置き、顧客がいる場所に行く。それが目的だ」。

新しいD2C戦略とは

D2C時代が深まれば、いずれ販売戦略も一周し、再び仲介者が関わるようになる。

キャスパー、キープス(Keeps)などのD2Cブランドを顧客に持つマーケティングエージェンシー、レッド・アントラー(Red Antler)のCEO、J・B・オズボーン氏は、「初期のD2Cは純粋主義に近く、伝統的なすべてのものと正反対のことをするというアプローチだった。小売業界に対する反乱と言ってもよいだろう。実店舗での販売について、『それを行う理由は? すでに破綻している』という態度を取っていた」と説明する。「ビジネスの新しいやり方に関する理想主義的なアプローチだった」。

しかし、卸売りとの決別がすべてのD2Cブランドに適合するわけではない。おそらくトレンディな食器のブランドより消費財ブランドの方が理にかなっている。だからこそ、ターゲットやウォルマートは顧客の関心を引くためにデジタルブランドを狙い、ほかの部門のブランドは新しい仲介者を探しているのだ。イヤー&デイの商品はウィング(Wing)やソーホーハウス(Soho House)で使用されており、ダーティ・レモンは販売店を厳選している。創業者のノルマンディン氏は「高級コーヒーショップにはあるが、ダンキンドーナツ(Dunkin’ Donuts)にはない」と語る。

直販のみに懸けるブランドもある。サードラブは唯一の小売パートナーにブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)を選び、試験販売を行っていたが、顧客体験の不一致を理由に、ザク氏は撤退を決断した。

流通が複雑化していることで、D2Cカテゴリーの特徴である直接的な顧客関係、ファーストパーティ・データインサイトの管理も複雑化する。ブルーランドの創業者ヨー氏は、小売店経由ではなく直販で購入する顧客をもっとも忠実な顧客。小売店の顧客を補完的な顧客と見なしていると話す。もっとも忠実な顧客は、調査への回答やフィードバックが期待できるという。

一方、小売店とブランドの互恵関係が続けば、どの小売店が関係を維持できるか、どのブランドが一定の規模を実現できるかが見えてくるだろう。

オズボーン氏は、「結果的に、この8~10年を振り返ってみると、ビジネス構築に対する考え方、消費者とブランドの関わり方の両方を凝り固まった行動や期待から脱却させるのに必要な時間だったと思う」と話す。「リセットの必要があったのは、小売店が担っていたことを顧客が担うようになったという状況だ。顧客はもっと要求する力を与えられ、商品の購入という形で関わりたい相手を選んでいる。ブランドはそれを受け入れており、小売店も見返りとしてそうしなければならない。結局、勝者は顧客なのだ」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)