小売店はパンデミックによって店舗を休業した際、店舗スタッフをeコマース関連業務に異動させた。店舗勤務だけでなく、リモートでeコマースやカスタマーサービス関連業務にも携わる オムニアソシエイト は、今後の店舗スタッフの基本的な役割を改めて考え直そうとする動きが出てきた。
新型コロナウイルスのパンデミックにより登場した「オムニアソシエイト」。このオムニアソシエイトとは、店舗勤務だけでなく、リモートでeコマースやカスタマーサービス関連業務にも携わる人材を指す。現在一部の企業では、こうしたオムニアソシエイトの働き方を通常の労働形態とする動きが見られる。
一部報道によると、Appleは2021年7月、リテールフレックス(Retail Flex)と呼ばれる従業員パイロットプログラム(店頭アソシエイトの在宅勤務シフトが可能になる)を発表した。ブルームバーグ(Bloomberg)が最初に取り上げたこのプログラムは、Appleがパンデミックに伴い導入した店舗勤務スケジュールをベースに構築されている。当時、Appleの販売店舗の多くは休業し、ユーザーは皆、ウェブサイトで商品を購入した。
パンデミック下で存在感
小売店は、パンデミックによって店舗を休業した際、店舗スタッフをeコマース関連業務に異動させた。たとえば、オンラインのカスタマーサービスに配置したり、ライブストリームショッピングに出演させたりといったものだ。こうしたスタッフの配置転換はもともと必要に迫られて生じたものだが、ここにきて、今後の店舗スタッフの基本的な役割を、改めて考え直そうとする動きが出てきた。
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数カ月後に開始されるこのAppleのパイロットプログラムでは、参加を希望したスタッフは、参加チームのニーズに応じて、店頭で働く週と、自宅でカスタマーサービスやテクニカルサポートを提供する週とでシフトが組まれる。なお、ブルームバーグによると、給与はシフトの内容にかかわらず据え置かれる予定だ。
リテールフレックスのメンバーは、このパイロットプログラムに最低6カ月は従事しなければならない。プログラムは今後数カ月以内に開始される予定で、繁忙期のクリスマスシーズン中も継続される。またメンバーには、ホームオフィス備品購入費用として100ドル(約1万1000円)が前払いされる。さらには会社規程のリモートワーク手当の支給に加え、「特典」がある。たとえば2020年には、在宅シフト用としてMacPCが会社から店舗スタッフに支給された。
企業と社員両者にメリット
リモート対応を既存社員に委ねてきた小売企業のなかには、新規採用においてもリモート対応を組み入れようとしているところがある。たとえばアスレジャーブランドのルルレモン(Lululemon)は、現在も「デジタルエデュケーター」という職種でバーチャルスタイリングができる人材を求人情報に掲載している。デジタルエデュケーターは、パンデミック中に同社が頼みの綱にしていた職種で、顧客の好みに合わせて、15~30分のリモート無料個別相談に対応するのが仕事だ。たとえばZoomやFaceTimeを利用して、フィッティングやスタイルのアドバイスを行い、顧客をサポートする。
D2Cアスレジャーブランドのヴオリ(Vuori)も、2020年の店舗休業時に、店舗スタッフをリモートワークのシフトに組み込む実験を始めた。ヴオリのリテール担当シニアディレクターを務めるキャサリン・パイク氏は、会社の方針として、ハイブリッドワークを今後も続けることになったと話す。「オムニアソシエイトの場合、実店舗で接客しながらリモートでカスタマーサービスを学ぶ。またその逆で、リモートでカスタマーサービスをしながら実店舗で接客を学ぶというクロストレーニングが可能になるので、とても価値があると考えた」。現在各店舗には、「オムニアソシエイト」が1〜3人いる。パイク氏によると、こうした従業員はフルタイムで働いているが、勤務する場所は、店舗、自宅もしくはヴオリのオフィスに分かれているという。
ヴオリは、2021年6月にカリフォルニア州サンノゼに9号店をオープンし、今後も年末までに新規店舗を数カ所でオープンする計画だが、店舗スタッフには上記のようなフレックス制が導入され、3日は店舗勤務、2日はリモート勤務することが標準となる。「ストアマネージャーとカスタマーサービスマネージャーが緊密に連携をとることで、最適な勤務シフトを提示している」とパイク氏は話す。週末などの繁忙時、必要に応じて店内に十分な数のスタッフを配置できるのも、そのメリットのひとつ。「逆に平日は、カスタマーサービスをサポートするために勤務してもらうといったことが可能になる」。
新しい働き方を提示
多くの小売企業はロックダウンのあいだ、店舗スタッフをほかの部門に異動させて凌いでいたが、彼らはいま、別の理由でハイブリッドなワークモデルを存続させようとしている。また、小売業界では人材不足が課題となっているため、より柔軟な働き方を社員に提示できれば、週に何日かは自宅で仕事を続けたいという人が増える可能性が出てくる。
セールスフロア(Salesfloor)は、顧客にサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Ave)やブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)を抱える小売企業向けテクノロジープロバイダーだが、CEOのオスカー・サックス氏によると、これまで以上に多くの小売企業が現在、「実店舗を再開しようとしているにもかかわらず、スタッフの削減を検討している」という。これには、客足が遠のいたことが引き金になっているケースもあるかもしれない。「そのため小売企業各社は、実店舗にどの程度の人材が必要なのかをいまだに見極められないでいる」とサックス氏は話す。
多くのショッピングモールで客足は改善しているものの、状況は依然として流動的だ。位置情報データ分析会社プレイサー・ドット・エーアイ(Placer.ai)のショッピングモール指標の最新レポートによると、屋内ショッピングモールの2021年6月の訪問客数は、2019年の同時期と比べ、8.1%減少した。屋外ショッピングモールは5.6%減と、ショッピングモールよりも減少幅は若干少なかった。
ハイブリッドなワークモデルの効果は数字上でも堅調さを示し、ヴオリでは、新店舗でも引き続きオムニアソシエイトを雇用する予定だ。その理由のひとつとして、顧客との円滑なやりとりに長けているスタッフが多いことが挙げられる。たとえば店舗勤務時に、オンラインで顧客応対をするときと同様、来店した顧客に類似商品を複数用意して提示したり、フィッティングに関する会話にうまく対応できる傾向が見られるとパイク氏は指摘する。「実店舗のスタッフがオンラインでのカスタマーサービスを担当する際、チャットチームを指揮しているが、私たちはそれがいかに大切なのかを実感している」。
[原文:The rise of the omni-associate: Apple is the latest company to test hybrid retail worker schedules]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)