アメリカ人は今や、ほぼあらゆるものをオンラインで購入している。そして、クリスマスツリー業界でも風向きは変化しつつあるようだ。「Googleトレンド」のデータによれば、今年は「クリスマスツリーの配達」に関連した検索の件数が2倍近くまで増えている。これは、業界全体で広く見られるトレンドに一致した動きだ。
アメリカ人は今や、ほぼあらゆるものをオンラインで購入している。そして、クリスマスツリー業界でも風向きは変化しつつあるようだ。
クリスマスツリーがeコマースに理想的な製品だと考える人はほとんどいないだろう。ツリーは大きくてかさばるからだ。しかもツリー業界は、統合が進んだほかの業界とは異なり、ばらばらに活動する小規模な農家の寄せ集めに過ぎない。昨年には、顧客が車で農場に行って自分で木を伐採するタイプのツリー農場が、業界で総売上高の32%を占め、もっとも大きなシェアを獲得した。
しかし、人々がますますeコマースで買い物を済ませるようになるなか、クリスマスツリーもオンラインで探そうとする人は増えている。「Googleトレンド」のデータによれば、今年は「クリスマスツリーの配達」に関連した検索の件数が2倍近くまで増えている。これは、業界全体で広く見られるトレンドに一致した動きだ。
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業界ではワルディ(Walddie)のようなD2C(Direct-to-Consumer)スタイルのブランドがいくつか登場し、デリバリーに特化したツリー販売サービスを提供し始めた。また、ウォルマート(Walmart)、ホーム・デポ(Home Depot)、ロウズ(Lowe’s)といった大手小売企業もこの市場に参入し、実店舗に加えてオンラインでツリーを販売している。Amazonも2018年から、サードパーティ業者が販売する本物のツリーのフルフィルメント業務を請け負っている。
出典:Googleトレンド
ただし、オンラインでの売上が増えているとはいえ、最終的にはツリーをオンラインで販売することの限界が明らかになる可能性もある。全米クリスマスツリー協会(National Christmas Tree Association)は昨年の調査で、オンラインで購入されたツリーの割合を6%と推定していた。誤差の範囲とまではいわないが、ビジネス全体から見ればきわめて小さな割合だ。
昨年比で300%~400%増
もっとも、オンラインでクリスマスツリーを販売しているベンダーにとって、2020年は最高の1年となっている。マサチューセッツ州に拠点を構えるマイケル・ライオンズ氏もそのひとりだ。同氏は、家族で経営している実店舗のダンディ・ライオンズ(Dandi Lyons)と、オンラインショップのクリスマス・ツリー・イン・ザ・メール(Christmas Trees In the Mail)というふたつの販売チャネルでツリーを販売している。
ライオンズ氏によれば、今年は「オンラインストアが大変なことになっている」という。オンラインでの販売数が昨年比で300%~400%増えているからだ。年末までには数千本のクリスマスツリーがオンラインで販売されると同氏は予想している。これに対し、顧客が店内を歩き回り、展示されているツリーを自分で選ぶ実店舗での販売数は横ばいのままだ。
ライオンズ氏は3年前からオンラインでクリスマスツリーの注文を受け付け始めたが、米国全土にツリーを発送するのは簡単ではないという。同氏はほとんどのツリーをカナダにいる親友の農場から調達し、マサチューセッツ州の配送センターに運び込んでいる。そして、35~45人のチームが店舗と会社の配送センターで交互に作業を行っている。チームはツリーを1本ずつ特別な箱に入れ(湿度を保つためにすべての箱がワックスでコーティングされている)、UPSを使って米国内のあらゆる場所に発送しているという。また、非常に大きなツリーを運送会社経由で届けるサービスも開始した。1本あたりの配送料は500ドル(約5万2000円)ほどだ。
出荷を待つクリスマスツリー。写真提供:ライオンズ氏
ツリー購入というアクティビティ
ただし、ライオンズ氏が運営しているようなオンラインストアが未来の姿になるかどうかはわからない。「たしかに(オンライン注文は)ある程度増えている」というのは、業界の調査研究機関であるクリスマスツリー推進委員会(Christmas Tree Promotion Board)でエグゼクティブディレクターを務めるマーシャ・グレイ氏だ。同氏は、ホーム・デポやウォルマートがデリバリーの取り組みを強化したことに触れ、「今年は、このような取り組みがもう少し増えるのではないかと考えていた」と語った。だが、オンライン注文が今までにないほど増加するとは予想していないという。グレイ氏によれば、その大きな理由は、人々が車でツリーを買いに行くことを好むからだ。
結局のところ、オンラインでクリスマスツリーを買っても、台所洗剤のような製品を買うときほどの便利さは感じられないとグレイ氏はいう。また、ツリーに関していえば、「店舗はツリーを販売しているだけでなく、外に出てアクティビティを楽しむ機会を提供している」と、同氏は指摘した。長期間の隔離を余儀なくされている今年は、特にそういえる。ツリーを販売する農場は屋外に広大な敷地を構えているため、めったにない安全な買い物スポットだ。そのため、多くの人が自分でツリーを選んで伐採するという買い方を選んでいる。米国では、本物のツリーの販売が増加中だ。グレイ氏によれば、「先週末は、史上最大の販売数を記録した感謝祭(の週末)になった」という。
Amazonやウォルマート、ホーム・デポが業界に手を広げていることが懸念されているが、実際のところ、大手の小売業者はフルフィルメントレベルでしかクリスマスツリーのビジネスを手がけていないとグレイ氏は話す。彼らがツリーを調達するには、昔ながらのツリー農場に依頼するしかないのだ。 「Amazonがクリスマスツリーを植えることはなかった。ロウズもホーム・デポもそうだ」と、グレイ氏は述べている。
オンライン購入の限界と可能性
それでも、業界のなかには、クリスマスツリー市場が大きな変化の瀬戸際にあると考える人たちもいる。ライオンズ氏によれば、オンラインショップの問題は関心を持ってもらえないことにあるのではなく、存在を気づかれていないことにあるという。「(オンライン購入という)オプションはまだまだ新しいため、多くの人がその存在に気づいていない。したがって、大きな未来が待ち構えていると私は今でも思っている」と、ライオンズ氏は話す。
eコマースがクリスマスツリー業界できわめて大きなシェアを占めるようになれば、特に気候が温暖な地域ではさらに勢いを増す可能性がある。こうした地域にはツリー農場がほとんどないからだ。ライオンズ氏はマサチューセッツ州に拠点を置いているが、オンラインで販売したクリスマスツリーの40%は、フロリダ州が配送先だったという。その次に割合が大きかった地域はカリフォルニア州だった。
eコマースが将来のクリスマスツリー販売でどれほど大きな役割を果たすのかはまだわからない。なかには、大きな変化が起こっているとは考えない人たちもいる。たとえば、グレイ氏は次のように述べている。「(農場で)クリスマスツリーを手に入れることのユニークな点は、自分でツリーを探し、ツリーを選ぶという買い物のプロセスにある」。そう話す同氏は、オンライン販売について、「業界を大きく牽引する存在になるとは思えない」と語る。
ライオンズ氏も、オンライン購入に限界がある可能性を認めている。「どんなに規模が拡大しても、絶対に(オンライン購入を)しない人は必ずいる」と同氏は話す。それでも、クリスマスツリーのオンライン販売に未来があるとすれば、ライオンズ氏のフロリダ州にまつわる経験がひとつの進むべき道筋を示しているといえるだろう。ツリー農場がほとんどない地域では、オンライン購入は便利なだけでなく、唯一の購入手段になるかもしれないからだ。
[原文:‘The online store has gone crazy’: Christmas tree sales are finally going digital]
MICHAEL WATERS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)