ソーシャルメディアで台頭しつつある新しい「イット」ガールにとっては、快楽主義が新しいウェルネスになっている。早朝ヨガのためにルルレモンを着ることはなく、シルクのドレス、ラインストーンのハンドバッグ、スティレットヒールのパンプス。夜な夜なバーやレストランに繰り出すのが彼女のエネルギー源。新しいトレンドの実情とは?
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ソーシャルメディアで台頭しつつある新しい「イット」ガールにとっては、快楽主義が新しいウェルネスになっている。
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抹茶ラテではなくマティーニ。アボカドトーストの代わりに牡蠣。アサイーボウルではなくステーキ。早朝ヨガのためにルルレモン(Lululemon)を着ることはなく、夜の外出にシルクのドレス、ラインストーンのハンドバッグ、スティレットヒールのパンプス。夜な夜なバーやレストランに繰り出すのが彼女のエネルギー源なのだ。
100年前の「狂騒の20年代」の再来か
ワクチンによって日常が戻るかもしれないという希望の光が見え始めたころから、100年前の「狂騒の20年代」のような耽溺の新時代がいつ訪れるかについての憶測は飛び交っていた。最近、多くの人が起こっていると感じている文化的な「雰囲気の変化」をどう定義すべきかという議論が盛り上がっているが、その変化がどのように起こっているのかを正確に特定することはできない。その証拠を探すとき、ソーシャルメディアの感性は重要な情報源になるかもしれない。その良い一例が、長い間インスタグラムを支配してきたウェルネスに情熱を注ぐ女性像に対するアンチテーゼのトレンドの台頭だろう。
この広がりつつある時代精神に決まった呼び名はないが、見ればすぐにそれとわかるだろう。もっとも人気のある表現は、現在TikTokで1600万回再生されている「#nightluxe」のようだ。(#darkluxuryaesthetic というハッシュタグはそれほどではなく、再生回数は560万回。)画像投稿とリールとTikTokのスライドショーには、おしゃれなバーやレストラン、カクテル、そのメインはマティーニ(定番とエスプレッソの両方)、クーペグラスに注がれたシャンパンの画像などが見られる。ファッション面ではプラダ(Prada)のサテンクリスタルミニバッグが王座に君臨し、ほかにもカルトガイア(Cult Gaia)などのブランドによる魅惑のオプションもある。マッハ&マッハ(Mach & Mach)のパンプス、特にラインストーン付きの黒いパンプスが頻繁に足元を演出する。ドレスはシルキーかきらめきのあるタイプで、丈は短い。食べ物は退廃的で、カロリーやコレステロールを気にし始める以前の時代を彷彿をさせるものだ。
「1920年代の雰囲気が戻ってきたような気がする」と述べているのは、4AMスキン(4AM Skin)の24歳の共同創設者、サブリナ・サデギアン氏だ。同社は、午前4時までパーティをしているような人たちにミニマルなルーティンを提供するスキンケアのスタートアップである。日中のビーチ画像が夜の暗い画像に置き換えられているインスタグラムやTikTokのコンテンツでは「誰もが(カメラの)露出を絞っている」と述べている。「シャンデリアとマティーニと一緒に写っている女子のピントがぶれた画像があふれている」。
4AMは、パンデミックでも人々がまた活動し始めた2021年7月にローンチ。そのフィードは典型的なスキンケアブランドのものとは劇的に異なっている。明るいパステルカラーやソフトな色調ではなく、画像や製品のパッケージは陰鬱な雰囲気だ。また、画像に写っているのは、ヨガや癒しのスパトリートメントではなくパーティや飲酒、喫煙である。
洗練した夜の快楽を見せる「ナイトリュクス」のトレンド
「ナイトリュクス(night luxe)」は、TikTokやインスタグラムのリールにあふれた「ザットガール(that girl)」のトレンドとはまったく対照的である。「ザットガール」は、朝5時に起床して日記を書き、瞑想やヨガをして、青汁やヘルシーな食事を摂り、きめ細かいスキンケアをするという規則正しい朝のルーティンを実践して、それを投稿している女性のことだ。
現在は「ザットガール」が主流である。トレンド予測企業のスペイト(Spate)のデータによると、Googleの「ザットガールの美学」の検索数は過去1年間で65%増加し、ウェルネス文化がインスタグラムのインフルエンサーの美学を定義しているためにこの3年間で着実に成長しているという。しかし、それに逆行する兆候も存在している。
「どんなトレンドにも逆のトレンドがある。主流のトレンドに反抗する人々がいる」と述べているのは、スペイトの共同創設者、ヤーデン・ホーウィツ氏だ。「それは、ウェルネスは気にせず、外見に時間と労力を費やしている新しいタイプの人だ。外出すること、そして外出時の見栄えが重要なのだ」。
「ザットガール」のトレンドは「すぐに消えるだろう」と、ボディケアブランド、ジ・エスタブリッシュト(The Established)の創設者であるエッセンス・イマン氏は予測している。「そのトレンドはなくなるだろう。なぜなら誰もがやっているし、『おかしい、自分のルーティンは実際にはそんな風ではないし、そうでなくてもかまわない』と感じ始めているからだ」。
Glossierグランドプログラムの一環だったジ・エスタブリッシュトは、イマン氏が「不機嫌でムーディ」で「官能的」な感性だと言うものを取り入れ、同ブランドのインスタグラムとイマン氏の個人的なフィードで夜の外出やドリンクの画像を披露するようになった。同氏は自分自身を「反」ザットガールだと考えている。
イマン氏は次のように述べている。「先日、女友達のひとりにある動画投稿を転送した。それはある女の子のおしゃれなジャーナリングだった。彼女は『これは私の朝の日課』と言ってレモンの上に水を注いだだけだった。もうこんなのはうんざりだ。現実からかけ離れている」。
サデギアン氏は、4AMのブランディングに取り組んでいるときに同じように感じたという。「ハイキングしたりして、非現実的な暮らしをしている女の子たちの姿を目にして思った。『これは私向きではない。青汁は苦手。外出してお酒を飲んで楽しく過ごすのが好きだし、ちょっと二日酔いして頭痛があってもいいし、友人と笑い合うのが好きだ』」。
ブランドのほかには、ハンナ・ハレル氏(TikTokのフォロワー300万人、インスタグラムでは54.3万人)やジョーダン・スローン氏(インスタグラムで56.6万人、TikTokで21.4万人)など、ナイトリュクスの美学を推し進めているクールな女性インフルエンサーたちが増えている。モデルのマラ・ラフォンタン氏(インスタグラムのフォロワー62.6万人)のようなフランスのインフルエンサーのおかげで、ヨーロッパもナイトリュクスのホットスポットになっている。ザ・フィーリスト(The Feelist)の創設者のシェア・マリー氏(フォロワー140万人)のようにフィードを進化させて、「ナイトリュクス」をいっそう前面に押し出している人たちもいる。インフルエンサーのテメラ氏(TikTokのフォロワーは7.8万人)は、夜間の動画を投稿するための「ダークな美学」チュートリアルと、4AMの製品を使った外出後のスキンケアルーティンの動画を制作している。
シェア・マリー氏によると、自身のインスタグラムの美学は「以前よりもずっと正直で、その瞬間を大事にして、編集していない。以前はどの画像も完璧にフィルタリングして、対象を中央に配置して、明るく鮮明にするのが好きだった。今では「間違い」が良いと思っている。露出不足の画像がうまく写っていなかったり、動きがぼやけてしまった「失敗」や、2本の画像が重なっているようなタイプの美しい失敗作が」。
インフルエンサーの中にはパンデミック以前からリュクスな美学を取り上げていた人たちもいたが、最近ではこれに牽引力が見られ始めている。@ohuprettythings(フォロワーはTikTokで33.9万人、インスタグラムで10.2万人)を管理しているフレグランスのインフルエンサー、ジェシカ・オウプト氏は、自分のフィードを「ちょっとグラマラスな贅沢」と「人生の物事をロマンチックにする」ものだと説明してきた。同氏は、パンデミックが始まったころにTikTokアカウントを立ち上げ、以来フォロワー数は増加して、メゾン マルジェラ(Maison Margiela)、ディオール(Dior)、アルマーニ(Armani)、YSLボーテ(YSL Beauty)との提携につながった。
リュクスな美学は「(現在のトレンド以前にも)存在していたし、トレンドが消えても存在し続けるだろう。そのようなものを見たい人たちがいるから」とオウプト氏は述べている。
ソーシャルメディアのトレンドを特定する部門はナイトリュクスに注目し始めている。ミームアカウントのエリート・サタイアー(Elite Satire)は、直接ナイトリュクスとは言っていないものの、ナイトリュクスの「スターターパック」を制作し、その特徴とブランドのリストの中にはプラダ、マッハ&マッハ、牡蠣、4AMを挙げている。「こんな女の子とデートすることになったなら、15分ごとにエスプレッソマティーニを持ってくるように注文して、時間を節約すべき」と、このトレンドの典型的な女性像について述べている。
「インディ・スリーズ」との関連と洗練性の維持
ナイトリュクスの成長は、快楽主義的な「雰囲気の変化」の概念に関連しているかもしれない。この概念は、トレンド予測企業のサブスタック8ボール(Substack 8Ball)の記事に基づいた、ザ・カット(The Cut)誌の2月15日の記事で探求されてバズった。この記事では、(写真家の)コブラスネーク氏が撮影した2000年代の若い女性たちのパーティの様子を思い起こさせる「インディ・スリーズ(ndie sleaze、インディで下品な)」の美学の復活が浮き彫りにされた。
しかし、ナイトリュクスの美学は「インディ」でも「スリーズ」でもない。この新しい「イットガール」はパーティ好きかもしれないが、インスタグラム時代に対応して洗練された女性たちである。写真にはタグが付けられ、自分のパーソナルブランドに永久に関連づけられ、名もなき何千枚ものパーティ写真の中で埋もれてしまうようなことはない。
4AMの共同創設者であるジェイド・ベグリン氏は「ザ・カットのあの記事はよかった」と述べ、4AMは「雰囲気の変化」の反映であると言い、同ブランドは2000年代初期の快楽主義からインスピレーションを得ていると述べている。トレンド予測会社のデジタルフェアリー(The Digital Fairy)の2月4日のTikTok投稿では、「ポストウェルネスパーティガール」ブランドの台頭と同社が呼ぶビューティの「インディ・スリーズ化」に関して、4AMは、エマ・チェンバレン氏のバッドハビットスキンケア(Bad Habit Skincare)とともに取り上げられている。
4AMの創業者らはインディ・スリーズとの比較を受け入れていると述べているが、同ブランドがその厳密な例ではない点は明確にしている。「我々はそれよりももう少し洗練していたい」とベグリン氏。たとえば4AMのフィードにはタバコが含まれているが、創業者らは最近の写真撮影からの喫煙の様子が目立って写っている多くの画像を破棄することに決めた。
「(下品さと洗練の間にある)微妙なバランスをとりながら進んでいる」と、現在ジョージタウン大学の医学生であるサデギアン氏は述べている。とはいえ、4AMは確かにパーティ好きである。(テキーラブランドの)パトロン(Patron)とケンダル・ジェンナー氏の818テキーラ(818 tequila)の双方とコラボレーションを行った。ジェンナー氏とのコラボでは、新年には目標を立てるという考え方を無視するという内容のキャンペーンをローンチした。タグラインは皮肉に満ちている。マティーニの投稿では、スキンケアというのは「実際に青汁を飲まなくても、飲んだかのように見せてくれるもの」というタグラインが使われていた。
ウェルネスに取って代わる快楽的なセルフケア
「ナイトリュクス」トレンドのパラメーターの外で、ブランドたちは様々な方法で快楽主義的なメッセージングを受け入れている。フラミンゴ・エステート(Flamingo Estate)は、プレミアムボディケアやワイン、農場直送の宅配にいたるまで多様な製品を販売しているが、同社は自制心よりも贅沢を強調している。また、創業者のリチャード・クリスチャンセン氏は、今年の初めにGlossyビューティポッドキャストで「食品であれ製品であれ、快楽を優先することを恥じないように努めている」ターゲット顧客にフォーカスしていると述べている。
これは、ビューティ分野においてはウェルネス主導のセルフケアの影響の低下を意味する。スペイトによると、スキンケアのGoogle検索は過去1年間で14.9%減少しているという。
パンデミックの間は「ありとあらゆるスキンケア」への関心が高かったとホーウィッツ氏は述べている。「高い関心を持っていた人々は様々な習慣やトレンドについて一貫していて、誰もが『ザットガール』を目指していた。生活が次第にノーマルに戻りつつある今、人々はそれに抵抗し始めて、スキンケアをそれほど優先していない」。一方で、外出中のメイクアップの外見は上昇傾向にあり、まぶた関連商品の検索数は前年比で18.4%、リップティントは19.7%、口紅は16%増加している。
これらの傾向は、ポップカルチャーやソーシャルメディアにおけるウェルネスに対する反動と一致している。インフルエンサーはTikTokを使って、「ザットガール」トレンドは「有害」だと言っている。『ユーフォリア/EUPHORIA』(英題:Euphoria)では、登場人物のキャシーがマニアックなセルフケアを実践して自分の好きな人の気を引こうとしたシーンがあったが、これは朝のルーティンは実行できるという考えをからかったものだった。
サデギアン氏は次のように述べている。「ウェルネスの実践はとてもパフォーマンス的になっている。実際には誰にでも効果があるわけではなく、ある意味ではもっとストレスになるかもしれない。今では、『ザットガール』は、大勢からTikTokでの単なるパフォーマンスと見なされているというのが一般的なコンセンサスだ。私にとって外出はストレス解消法であり、踊ったり笑ったりして楽しく過ごす。それが私のセルフケアの形だ」。
[原文:The ‘night luxe’ aesthetic: Instagram and TikTok’s post-wellness vibe shift]
LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)