TikTokがブランド向けサービスを拡張していることも相まって、マーケターやエージェンシーの幹部は、TikTok上でバイラル化していく手法が現在においてはもっとも好ましいと考え、従来の広告展開よりも、あらゆる動画をTikTokに公開するという戦術を優先させている。
バイラルダンスやリップシンク動画のトレンド化の波に乗り、さらに果てしない挑戦を続けるテレヘルス(遠隔医療)企業のウィスプ(Wisp)。同社はセクシャルウェルネス(性の健康)は恥ずべきことではないとする投稿で注目を浴び、独自のファンの開拓に成功した。
主な手法は、ヘルペス関連の教育から避妊情報に至るあらゆる動画を、TikTokのメインフィードである「おすすめ(For You)」ページに公開するというものである。
それはセックストイやマリファナ、さらには財務管理プラットフォームなど業種を問わず、さまざまな非伝統的ブランドがTikTokのターゲットアルゴリズムと、継続的にショート動画アプリを学習の場として視聴し続けるというニッチコミュニティの特徴を活用してオーディエンスを増やしている現象だ。総じてニッチ効果と呼ばれる。
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2021年夏にTikTokで配信を開始して以来、ウィスプが獲得したフォロワーはわずか250人程度だが、これにより同社はTikTokの主要クリエイターとのパートナーシップの確立し、同社のプラットフォームを継続的に成長させる戦略に着手した。
ダニエル・ストークス氏(SNS上では、Roxanne Ramseyとして知られる)やスザンナ・ブルシキエビッチ氏(インスタグラムとYouTubeではSuzbub)のような人物により、10億人以上のTikTokユーザーにウィスプは紹介された。また、2021年前半にストークス氏と共同制作した、女性の健康に関する動画のひとつが約30万回再生された。
「私たちは、これらの『タブー』とされる会話の標準化に取り組むコミュニティを中心に、従来とは異なるブランドを構築してきた」と、ウィスプのブランドマーケティング責任者であるジェニファー・ドワーク氏はeメールで述べる。「私たちがシェアすればするほど、そしてクリエイターとパートナーを組めば組むほど、TikTokコミュニティのエンゲージメントは高まる。これはまだ始まりに過ぎない」。
「ニッチこそが勝利を」
TikTokがブランド向けサービスを拡張していることも相まって、マーケターやエージェンシーの幹部は、TikTok上でバイラル化していく手法が現在においてはもっとも好ましいと考え、従来の広告展開よりもウィスプが実践しているような戦術を優先させている。
また2020年には、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのファンバイツ(Fanbytes)が、新興食品ブランドのワナデイト(Wanna Date)や、セクシャルウェルネスブランドのレロ(Lelo)など、まさに上述のウィスプの戦略を実践したいと考えているニッチクライアントを数多く獲得した。各社はTikTokのコミュニティと交流するために、有料でオーガニックな方法を活用している。たとえば対象が投資の達人であろうと、読書家であろうと、それぞれ#personalfinance、#booktokといったハッシュタグを使用して、ブランドはこれらのニッチコミュニティに簡単にアクセスできる。
レロのCEOであるティモシー・アームー氏によれば、同社のTikTokキャンペーンでは#girltalkコミュニティとつながり、エデュテインメントアプローチによってエンゲージメント率25%と100万回以上の視聴回数を達成した。またワナデイトのTikTokキャンペーンでは、660万回もの視聴があった。これは想定していた成果のおよそ13倍に相当する。参考までに、インフルエンサーマーケティングハブの報告によれば、TikTokでは、フォロワーが1万5000人未満のマイクロインフルエンサーのエンゲージメント率が平均17.96%であるのに対し、インスタグラムでは3.86%である。
「TikTokのようにニッチなコミュニティのエンゲージメントを促進できるプラットフォームはほかにはなく、リスクを計算した上でそれでも挑戦するニッチブランドこそが、TikTokで大きな勝利を収めることができる」と、アームー氏は話す。
TikTokを押上げる要因
業界の専門家は、なぜTikTokにそれができるかについて、いくつか理由を挙げている。非常にスペシフィックなアルゴリズム、誰もがバイラルになれる潜在的な仕組み、ユーザーにありのままの自分でいることを奨励する粗削りな性質、そしてプラットフォームの「おすすめ」ページなどだ。彼らによれば、ハイパースペシフィックフィードがユーザー自身がそのコンテンツを探したり、フォローしている人々からコンテンツを知ったりするのではなく、プラットフォーム全体でその時トレンドになっているものをユーザーに提供するという点で、TikTokをほかのプラットフォームから際立たせるという。実際、ユーザーは心に響いた動画に「TikTokが代弁してくれた」とコメントすることがよくある。
また、多くのTikTokユーザーが学習目的で動画を見ている点も、TikTokを押上げる要因だ。つまり、製品をプッシュする方法としてではなく、教育ツールとしてTikTokを用いる非正統的ブランドが成功できる可能性があるということだ、とアドエージェンシー360iでソーシャルストラテジストを務めるシェルビー・ジェイコブス氏は語る。現在、#learnontiktokの再生回数は2000億回近くにのぼり、適切なミツバチ除去法から馬の尻尾を洗う方法まで、あらゆるものをカバーする動画が配信されている。
「確かにTikTok上であれば、ニッチブランドが、従来のブランドが使用しているトレンドのフォーマットやファン行動に割り込むことができる」と、彼女はeメールを通じて述べている。「また一方で、ニッチブランドであるからこそ、自社製品に対する一般的な質問、それが性の健康を実現するものか否かや、個人退職年金の「Roth IRA」と「401K」の違いなど、各ユーザーにとって差し迫った疑問に答えることができる」。
TikTokにはリアルがある
「基本的に、人は宣伝に対して嫌悪感を持っている」とザ・ワーキングアセンブリーエージェンシーの創設者でブランドクリエイティブの責任者であるジョリーン・デリスル氏は話す。同社は、セクシャルウェルネス、出産計画、メンタルヘルスといったより多くの対話を必要とするトピックを持つブランドの成功を見てきたという。
「TikTokのオーガニックな感覚が、ニッチブランドのコンテンツに共感を呼び、そこにオーディエンスを見つけることを可能にしてきた。ここに、消費者が求めていることが詰まっている。教育であれエンタメであれ、何らかの価値を提供しない限り、消費者は広告だけでは満足しない」。eメールでだが、デリスル氏は強調する。
TikTokは、ほかのSNSプラットフォームと同様に、コミュニティガイドラインに厳格だが、マリファナブランドでさえも、TikTokでコミュニティを見つけている。マリファナのサブスクリプションボックスであるデイリーハイクラブ(DailyHigh Club)は、2019年にTikTokに参加して以来、約12万8000人のフォロワーを獲得している。このブランドのコンテンツの多くは、本物で信頼できるものであることに重点を置いている。TikTok自体が大麻のコンテンツにとってより魅力的な環境だというわけではないが、オーディエンスは確かに熱心にエンゲージしている、とデイリーハイクラブの創設者兼CEOであるハリソン・バウム氏は言い、TikTokのオーディエンスは個性やパーソナリティにより強く同調すると語る。さらに「インスタグラムやYouTubeでは誰もがきれいに整えられているが、TikTokはそうしたプラットフォームとはまったく対照的だ」と付け足す。
インスタグラムはeコマースやショッピングに注力していると見なされ、またTwitterは「リアルタイムのニュースおよびそのアップデート」を提供するメディアと位置付けられている、とメディアバイヤー兼プラニングエージェンシーであるメディアソシエーツ(Mediassociates)のシニアメディアストラテジスト、リサ・デノ氏は話す。
Facebookを反面教師に
TikTokの成功は、ちょうどFacebookが再び苦境に立たされている、この特別な時期と重なっている。現在、Facebookは元社員のフランセス・ホーゲン氏によりヘイトスピーチや誤った情報を放置していることを理由に告発されている(Facebookはその後反論している)。SNSの巨人であるFacebookは若いオーディエンスの維持に苦労しているが(ザ・バージ[The Verge]の報告では、今後2年間で10代の使用が45%減少すると予測されている)、TikTokは着実に成長しており、最近ユーザーが10億人を超えたと言われている。その点で、業界の専門家は、より多くの広告費がこの世代を狙ってTikTokに流れるのではないかと考えている。そして、以前の米DIGIDAYの報告によれば、そのようなシフトはすでに一部で始まっているという。
「単に、人々がFacebook離れしただけという可能性もある。特に、Facebookを有毒な環境と見なしている可能性のあるZ世代は」と360iのジェイコブス氏は述べる。
また、「TikTokがすべてのSNS広告の次の目玉になると言っているわけではない」と話すのは、クリエイティブエージェンシーであるソーシャルディビアント(Socialdeviant)のブランドエンゲージメント・カルチュラルレレバンスのディレクター、ブリタニー・アップルゲート氏だ。
「これらのSNSプラットフォームでブランドが成功を収める方法は、消費者、ユーザーの行動に重きを置くことであり、プラットフォームがビジネスの観点から推進していることは二の次だということ」と、彼女は力をこめて言う。「TikTokは、Facebookが抱えていた難題を理解し、そこから学ばなければ、同じ轍を踏むことになるだろう」。
[原文:The niche effect: How non-traditional brands are connecting with avid fans on TikTok]
KIMEKO MCCOY, SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU