ファッション界でもっとも古い職業のひとつにファッションイラストレーションがあるが、これも現在NFTに進出してきている。1度限りのデジタル作品によってより高いエンゲージメントと大きな利益がもたらされることが理解されるにつれて、多くのアーティストはデジタルコレクション全体を構築している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ファッション業界全体がデジタルの洗礼を経験してきた。サプライチェーンの追跡からファッションデザインまで、ほとんどの領域で新しい次元のデジタル統合が進んでいる。ファッション界でもっとも古い職業のひとつにファッションイラストレーションがあるが、これも現在NFTに進出してきている。1度限りのデジタル作品によってより高いエンゲージメントと大きな利益がもたらされることが理解されるにつれて、多くのアーティストはフォーカスを限定版作品にシフトして、デジタルコレクション全体を構築している。
NFT作品を手がけるファッションイラストレーターたち
ファッションイラストをNFTにする動きを始めたのは、パリのファッションウィークを主催しているフランスのオートクチュール&モード連盟(French Fashion and Haute Couture Federation)である。2020年6月、ファッションとラグジュアリーのNFTプラットフォーム、アリアネー(Arianee)と協働して、デザイナーのショーのゲストに特別NFTを提供した。これらのNFTはトークンとして機能し、ファッションイラストレーターのリチャード・ヘインズ氏が手がけた、フランス国旗の前を歩いているシルエットのデジタル作品と交換することができる。同氏はこれまでプラダ(Prada)やカルバン・クライン(Calvin Klein)と協働したことがある。イスラエル出身でNFT分野のファッションイラストレーターのタリア・ゾレフ氏は自分のイラスト作品をNFTコレクターアイテムとして販売することに成功、2分間に8888点のNFTアート作品を完売させている。
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これまでにプラダ、ディオールビューティー(Dior Beauty)、ナイキ(Nike)との協働経験を持つファッションイラストレーター兼NFTアーティストのジェイミー・リー・リアディン氏は、NFT分野向けのイラストは主にアバターベースのイラストから成るユニークな作品だと述べている。「多くのアーティストは絵の具のような従来の媒体を使っている。私はガッシュを使ってすべて手作業で行うが、これによって作品に深みが生まれ、そのような違いを評価してくれるコレクターたちがいる」とGlossyに語っている。同氏の次のコレクションは「天体MMIX(Celestial Bodies MMIX)」といい、仮想通貨の歴史とファッションや星座を組み合わせたもので、3月20日に販売予定である。
DAOでプロジェクトを進めるシルト氏
ほかのファッションイラストレーターのプロジェクトにはコミュニティの力を必要とするものがあり、アーティストは分散型自律組織(DAO)を立ち上げて、プロジェクトの進め方を決めている。オードリー・シルト氏のコラボ・ベアーズ(Collab Bears)はそのようなプロジェクトのひとつである。これは同氏が手がけるクマをテーマにしたアートワークでローンチする新しいNFTプログラムだ。シルト氏は、ホルストン(Halston)とバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)で45年の経験を持つファッション業界のベテランである。また、20年以上にわたりラルフ ローレン(Ralph Lauren)のクリエイティブディレクターを務め、今ではおなじみのポロのクマのマスコットをブランドに提案した最初の人物である。同氏は今回のクマのNFTについて次のように述べている。「このコレクションは多岐にわたるものだが、一定の上品さと高級感は維持している。これをスタートにして、私は友人の助けを借りながらメタバースをうまく活用できるように学んでいる」。
最初のトークンは3月に鋳造されることになっており、クマのイラストはファッションやスポーツ、音楽界のパーソナリティとのNFTコラボレーションの始まりを示している。シルト氏には2人の共同創業者がいる。音楽業界で長年アーティスト&レパートリーを務める息子のマシュー・シルト氏と、テクノロジーとファイナンスの専門家のデイヴィッド・ボリッシュ氏だ。
マシュー・シルト氏いわく、「母と協働経歴のある企業との大規模なコラボが5〜6つある。ストリートアートや従来のアート分野で有名なアーティストたちがキューレーションした衣装や背景のアートワークもある。また、スタイルやデザイン業界のほかのインフルエンサーとのコラボにも取り組んでいる」。
オードリーとマシュー・シルト氏は、どちらも以前カニエ・ウェスト氏と協働したことがある。オードリー氏はイェ(Ye)の以前のファッションレーベルDw(ドンダ・ウェスト)のチームに関与していた。一方、マシュー氏はラッパーのタリブ・クウェリ氏と、またポロのコレクターであるプロデューサーの88キーズ氏とも協働したことがある。
Discordコミュニティに限定したNFTの販売
コミュニティのガバナンスの基盤を形成するDAO(分散型自律組織)は、クマのNFTを所有する人に開放され、NFTごとに投票トークンを1つ所有できるようになる。3月30日に開始される「アーリー・ベア・リスト(Early Bear List)」では、0.1イーサリアム(256ドル、約3万円)でDiscord(ディスコード)のメンバー2500人にNFTの早期アクセスが提供される。
2月中旬にローンチしたコラボ・ベアーズのDiscordチャネルには、すでに3000人を超えるメンバーがいる。「我々のソーシャルはかなりのスピードで構築されている。作品が皆に受け入れられていることを嬉しく思っている」とマシュー・シルト氏。クマの衣装のスニークピークでは、パーカーとトレンチコートの組み合わせや、Tシャツやスウェットスーツが披露された。現時点では、それぞれの衣装はオードリー氏の手描きによるものだが、コラボ・ベアはブロックチェーンベースのゲームへの参入を計画しているため、次のイテレーションはDAOによって決定されることになっている。オープンセールは4月1日に開始されるが、これは7500人のメンバーに限定されており、NFTをそれぞれ0.1イーサリアム(256ドル、約3万円)で購入できる。
[原文:The NFT world is offering new opportunities to traditional fashion illustrators]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)