消費者マーケティングエージェンシーのチーム・エピファニー(Team Epiphany)を創設したコルトレーン・カーティス氏は、専業のインフルエンサーを起用しない方針をとっているが、そのいっぽうで、コミュニティに訴えかけるインフルエンサーマーケティングは、マーケターにとって「何より強力な武器」だと考えている。
消費者マーケティングエージェンシーのチーム・エピファニー(Team Epiphany)を創設したコルトレーン・カーティス氏は、専業のインフルエンサーを起用しない方針をとっているが、そのいっぽうで、コミュニティに訴えかけるインフルエンサーマーケティングは、マーケターにとって「何より強力な武器」だと考えている。
なぜならマーケターやブランドによるインフルエンサーマーケティングのやり方は、いまや効果と誠実さを失ってしまったからだとカーティス氏はいう。プロのインフルエンサーはただ大規模な拡散力をもっているにすぎず、ブランドがリーチしたいコミュニティとの関係を構築してはくれない。
「インフルエンス(影響力)というものはいつしか、ソーシャル指標やフォロワー数の多さによってのみ定義されるメディアになってしまった」とカーティス氏はいう。「しかし我々にとって、もっとも影響力の大きい人たちは必ずしもソーシャル上にはいない」。同氏によると、そうした人はフォロワー数など気にしておらず、自分がどんな層の人たちにフォローされているのか、自分のメッセージがどこで、どのように拡散されているのかといったことに関心を向けている。
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ブランドキャンペーン成功のカギを握るのはカルチャーやコミュニティを重視することだが、それと同じくらい重要なのは、自社のカルチャーとコミュニティを見極めることだとカーティス氏は話す。プロジェクトの成功が、自社の属していないコミュニティの反響を得られるどうかにかかっているのなら、そのコミュニティとの関係性を理解し、促進できるメンバーがチームにいなくては、キャンペーンは強力にならないという。
米DIGIDAYが毎週お届けしている番組「ザ・ニュー・ノーマル(The New Normal)」の最新エピソードで、カーティス氏は自社の独創的なインフルエンサーマーケティング戦略や、チームの多様性を武器にすることの重要性について語っている。
昔ながらの成功の秘訣
インフルエンサーマーケティングを成功させる秘訣は、カーティス氏いわく、個人を動かすのでなく、コミュニティを動かすことだ。しかしそれができる人は少なく、ブランドやマーケターは自らが属さないコミュニティを動かそうとするせいだと、カーティス氏は指摘する。
「昔ながらの口コミが大切で、それは信頼から生まれる。問題は、ほとんどのブランドやエージェンシーがそれを拡散の手段にしか使わないことだ」と、カーティス氏はいう。
インフルエンサーマーケティングの強みはむしろ、インフルエンサーにプロセスの全体に関わってもらうことで、自分たちがよく知らない、あるいは属していないコミュニティを対象とした戦略に磨きをかけるのを助けてもらえる点にある。
ブランドはインフルエンサーを利用して、ただ彼らのプラットフォームからブランドについて発信させ、あてもなく拡散させるだけではいけないと、カーティス氏はいう。代わりにブランドは、パートナーシップの戦略策定段階からインフルエンサーの洞察を頼り、どのベンダーを利用すべきか、さらにはどんなトレンドが彼らのコミュニティで人気が出そうかといった情報を仕入れるべきだ。
専業インフルエンサーの問題点
カーティス氏がいうように、もっとも影響力のある人たちは、必ずしもソーシャル上でインフルエンサー並みのフォロワーを抱えていない。「我々がプロのインフルエンサーを起用することはない。彼らが何に影響を与えていて、どんなことに優れているというのか」と、カーティス氏は述べる。
カルチャーはごく局地的なものとして生まれ、その小さなコミュニティのなかに、マーケターが必要とすべきインフルエンサーの能力を備えたアーティストが出てくると、カーティス氏はいう。彼らはトレンドの火付け役であり、その彼らがさらに幅広いオーディエンスを抱え、トレンドをより広範囲に拡散できる人々によって取り上げられる。
カーティス氏によると、どんなセレブリティや著名人にも、こうしたアーティストのチームが存在していて、現在のようなイメージを築く手助けをしてきたという。
「そうした人々のネットワーク全体が、ひとりのセレブリティを作り出したチームというわけだ」とカーティス氏は話す。「私にとって、彼らこそが真のカルチャーのスペシャリスト、輝けるアイコンであり、我々がカルチャーについての指針を求める人々だ」。
ハイブリッドな体験モデルを目指して
カーティス氏によると、過去3年間、体験を作り出すビジネスはチーム・エピファニーの収益の約30~40%を占めてきた。しかし、新型コロナウイルス危機に見舞われた多くの企業の例にもれず、同社の事業は大部分がバーチャル形式に変更され、HBOの番組「インセキュア(Insecure)」のシーズンプレミアに合わせた一連のブロックパーティなどもバーチャルで開催された。
そしてカーティス氏はいま、対面形式では考えられない、バーチャルイベントだからこそ得られたポジティブなタッチポイントについて考え始めている。2021年に向けて、カーティス氏はデジタルと対面型の体験を組み合わせ、消費者とつながるよりクールな方法を見いだすことに意欲を燃やしているという。
多様性が優れた仕事を生む
チーム・エピファニーのスタッフは、女性が65%、男性が35%だ。また70%がマイノリティ、30%が白人であり、これはエージェンシーとしてはとても珍しい比率といえる。
「優れた仕事がしたければ、特定のトピックに対して、さまざまな独自の視点を加える必要がある。関心や意欲、スキルセットがあまりに重複していると、優れた仕事にはならない。我々は意図して多様性を獲得したわけではない。自分たちが生まれ育ち、暮らしている世界に近くなるようにしているだけだ」と、カーティス氏は話す。
したがって彼にいわせれば、多様性を実現していないエージェンシーやブランドは、必勝戦略を手に入れていないのだ。
多様性に「パイプラインの問題」は存在しない
ブランドやエージェンシーは、自社の多様性を達成するのが難しい理由として、応募者の構成にそもそも多様性が少ないことを挙げる。
カーティス氏は、いわゆる「パイプラインの問題」(マイノリティ人材の不足)が存在するとの意見に対抗する最善の方法は、まだ自分のキャリアパスを定めていない志望者の発掘に力を入れることだと話す。これはすなわち、インターンシップやフェローシップを通じて道筋を用意し、学生や新たな人材がそのビジネスやカルチャーに興味をもつよう促すことを意味する。
そしていざ自社に迎えたら、彼らが学習し、洞察を提供する機会を増やす人材育成システムを整備すべきだと、カーティス氏はいう。また、彼らの強みや意欲をよりよく生かすためなら、自社のビジネス慣行に変更を加えることもためらうべきではない。
「多様性は、それがインクルーシブ(包括的)でない限り、積極的な取り組みでない限り、進める意味がない」とカーティス氏はいう。「それは単に人材を見いだし、呼び込むというだけでなく、自分たちのエコシステムを変更してでも、これら多様な人材のもつ専門知識や技術を進んで受け入れ、効果的に組み込むことを意味する。それが最大の課題だ」。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)