デジタル世界とテクノロジーが顧客の買い物の方法を変容させているが、同じことが体験型リテールにもいえるだろう。デジタルファッションブランドのカルト&レイン(Cult & Rain)は、このコンセンプトをメタバース版であるカルチャーワールドで推進している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
デジタル世界とテクノロジーが顧客の買い物の方法を変容させているが、同じことが体験型リテールにもいえるだろう。
デジタルファッションブランドのカルト&レイン(Cult & Rain)は、このコンセンプトをメタバース版であるカルチャーワールド(Cultr World)で推進している。7月27日にローンチしたこのワールドは、カルト&レインのデジタル衣服と物理的な衣服をひとつのデジタル環境に統合するものだ。同ブランドの顧客は、アバターを通じた交流、ショッピング、展示会に特化したスペースがあるこのワールドに、独占的にアクセスすることができる。今回のローンチは、そのメタバースの中にいるような感覚を反映するように設計された、没入型の実店舗体験のオープンに合わせて行われた。このスペースは、昨年オープンしたロンドンのエンターテインメント地区アウターネット(Outernet)に位置しており、エンターテインメント、壁一面の4Dのインタラクティブスクリーンのほか、さまざまなデジタルワールドが統合されているのが特徴となっている。
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カルト&レインの創業者であるジョージ・ヤン氏は次のように述べる。「我々のカルチャーラウンジ(Cultr Lounge)が、屋内の4階建てのスクリーンに投影される予定だ。現実世界においては、そこにはバーがあり、アウターネットの環境全体がカルチャーラウンジの空間を再現し、それにマッチしたものとなるだろう。スクリーンでラスベガスから配信されるライブDJを聞きながら、バーチャルアバターが踊っているのを眺めることができる」。
物理的なメタバースでカギとなるデジタルスクリーン
英国国家統計局によると、英国の衣料品店の売上は6月に4.7%減少している。小売業者は人々を店舗に呼び戻すのに苦労しているが、体験型リテールが解決策のひとつになるかもしれない。今回のアクティベーションでカルト&レインと提携しているアウターネットは、この種のエンターテインメント地区としては初めて、このキャパシティでデジタルとフィジカルをクロスオーバーさせたイベントを主催することになる。
カルチャーラウンジのショップへは、物理的な空間にあるQRコードタグ付きディスプレイや顧客がデジタルでアクセスできる専用バーチャルショールームから入ることができるようになる。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)のファッション・イノベーション・エージェンシー(Fashion Innovation Agency, FIA)の責任者であるマシュー・ドリンクウォーター氏は、2年前にアウターネットが建築されるのをいち早く目にした人物だ。7月下旬、FIAはロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの学生ふたりと協力し、演劇パフォーマンスをアウターネットの空間で実現した。
「私たちは、物理的なメタバースの出現においてデジタルスクリーンが重要な役割を果たすと信じてきた」とドリンクウォーター氏は言う。「自分がその体験の一部になったと思えるほど没入感のある空間を作り出せるようになる、という発想だ。デジタルアート・ミュージアムという観点では、それはかなり広く受け入れられているが、リテールを含むほかの体験ではそれがどのようなものになるのか、アウターネットによってわかるようになるだろう」。
拡大する感覚的な体験の世界
同じような没入型のライブイベントは、すでに美術展で起きている。フィーバーラボ(Fever Labs)が企画したゴッホ展や、ライトハウスイマーシブ(Lighthouse Immersive)とインパクトミュージアムズ(Impact Museums)によるモネ展は、どのライブイベントでももっとも人気となっており、ゴッホ展だけでも500万枚以上のチケットが売れている。スナップ(Snap)もまた、カンヌライオンズ(Cannes Lions)でのARアクティベーションや、ロンドンでのティファニー(Tiffany)のジュエリー展の提携でこの分野に参入している。投資家も注目しており、今年1月にはゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)がフィーバーラボの資金調達ラウンドに2億2700万ドル(約310億8700万円)をつぎ込んでいる。
感覚的な体験の世界は、DAO(自律分散型組織)のコミュニティが作り出すものにも広がっている。ラジオ局のプールスイート(Poolsuite)が設立した自律分散型組織のマナーDAO(Manor DAO)は、5月にヴィラを購入するために団結した。これは、イタリアのイル・ペリカーノ(Il Pelicano)やLAのシャトー・マーモント(Chateau Marmont)のようなホテルの美学と感覚環境を再現するイベントスペースとして機能させることを目的としている。「感覚的な手がかりをすべて翻訳することが本当に重要だ。このプロジェクトは、80年代の豪華で贅沢であるという発想、そして非常に感覚的で触覚的な空間を作り出すというアイデアを中心に展開した」と、エージェンシーのフューチャーラボラトリー(The Future Laboratory)のフォーサイトアナリスト、ラヴィニア・ファサーノ氏は述べている。
[原文:The metaverse is inspiring experiential retail]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)