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中国ライブコマース市場の光と影:実態はバラ色ではない

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本記事は、中国視察ツアーやUXコンサルティングを提供するhoppinの代表取締役CEO、滝沢頼子氏による寄稿です。

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2019年中国国内ライブコマース市場の規模は、4338億元(約7兆円)、2020年には9600億元強(15兆円強)になるといわれている。2020年3月時点での利用者は5億5982万人に達し、中国のインターネット利用者の62.0%を占めている。

メインプレーヤーは、eコマース系だとタオバオ(淘宝网/Taobao)、ショート動画系だと中国版TikTokの、ドウイン(抖音/Douyin)やクアイショウ(快手/Kuaishou)などだ。品目は女性服、化粧品、ベビーマタニティ、食品など、高額すぎず衝動的に買いやすい価格のものが多いが、なかには自動車などが売られる事例も見られる。

ライブコマースの発展はモーグージエ(蘑菇街/Mogujie)、タオバオ、ジンドン(京東/Jingdong)などのeコマースサイトが、2016年に立ち上げたライブコマース事業に遡る。そこから数年で一気に生活に浸透、特に2020年は、コロナの影響でさらに伸長した。流行った理由はさまざまに分析されるが、大きくは以下の3つに集約させると筆者は考える。

中国ライブコマース盛況の理由

①とにかく「安い」こと

もともと、中国のeコマースサイトは、頻繁なキャンペーン開催と極端な値引きが特徴だ。日本では考えられないような値引率がされることもしばしばある。ライブコマースも例外ではない、というよりもまさにこの「安い価格」が目玉だといっても過言ではないだろう。

②誰もが持っているアプリ上での実施

誤解を恐れずにいうと、タオバオやドウインなどのアプリは、現代中国では「誰もが持っている」。そのアプリ上でライブコマースが行われているのだから、圧倒的にアクセスが良い。わざわざアプリをインストールするのはひと手間かかるが、普段から使うアプリを開いたらライブコマース「も」やっていた、という状態であれば浸透がはやい。

③強力なインフルエンサーと「信頼している人から買う文化」の存在

日本と比較すると、中国はもともとeコマースへの信頼度が低い。買ってみたら偽物だった、思ったよりも品質が低かった、といったことも発生しやすい。購買する方も、それはある程度折り込み済みで、特に単価が安すぎるものやブランド物などについては、自分なりに吟味してから購入する必要がある。しかし、信頼しているKOL(Key Opinion Leader:中国においてインフルエンサーを意味する)が良いといっているのであれば判断がはやい。自分で見極めて判断する手間が省けるというわけだ。そのため、「信頼しているインフルエンサーがおすすめしているものを買う」という行動が起こりやすい。このような消費者行動は日本でもあり得るが、より中国の方が傾向が強いといわれている。

実態はまったくバラ色ではない。さまざまなトラブルも

中国のライブコマースといえば、出演する華やかなKOLが注目を集めがちだが、前提として、KOLが出演して売るものは全体のおよそ1割程度。店舗スタッフ・個人などが行うものが9割程度といわれている。

ただ、売上の多くは人気KOLが占めている。たとえば、有名プラットフォームの特大セールであるダブルイレブン(双11)期間では、2019年はトップKOLのウェイヤー(薇娅/viya)と、口紅王子ことオースティン(李佳琦/Austin)で売上の2割を占めた。そのため、各ブランドは売上をあげるためにKOLを使いたがる。しかし、有名KOLの出演料はとても高額だ。たとえば、先述のオースティンの出演費は23~42万元(約300~400万円)+売上の20%以上のレベニューシェア、などといわれている。

有名KOLのウェイヤーによる配信。タオバオアプリより筆者が撮影

有名KOLのウェイヤーによる配信。タオバオアプリより筆者が撮影

   

加えて、有名なKOLは出演料が高いだけでなく、販売価格の大幅値下げを要求してくる。その方が、商品が売れるためだ。彼らの配信が閲覧されるのは「信頼できる」「面白い」ということもあるが、有名がゆえにメーカーに対する交渉力があり商品価格が「安い」から。だから売れるし、売れるから安い。消費者としては嬉しいことだが、企業としては通常販売よりも利益はかなり薄いか、赤字になってしまう。

また、KOL側が実績を「盛る」ために、視聴者数やイイネ、コメントの水増しをすることも常態化している(それらの購入は、そう高くない価格で可能なのだ)。さらに、「ライブ中の購入価格」でKOLの成果が確定するため、販売者が支払いを終えたあと、サクラが一気に返品を行い、利益がほぼなくなってしまうどころか赤字になった、というケースも発生している。

不正を行っているのはKOL側だけではない。盛り上がりを演出するために、プラットフォーム側自らが視聴者数などの水増しを行うこともあるという。

仮に不正がなかったとしても、中国ではただでさえライブコマースは返品率が高い。「限定価格」「いままでにない価格」などの刺激的な言葉で購入を煽るからだ。結果、企業側としては、先述の通り利益率が良いビジネスとはならない(むしろ悪い)ことも多くなってしまう。

ユニークな成功事例

一部のトップKOLの華々しい活躍が目立つ一方で、競争の激しさゆえの利鞘の少なさ、不正など、混沌とした側面もある中国のライブコマースであるが、KOL頼りではない成功事例もご覧いただこう。

経営陣の強いコミットの例

中国最大手のオンライン旅行会社、トリップドットコム・グループ(携程/Trip.com Group)は、コロナによって大きな痛手を受けたが、創業者で元CEO(現会長)の梁建章氏は積極的にライブ配信を行い、国内ホテルプランなどの販売を行った。それも、社員のお膳立てに乗ったような配信ではない。社内チームが選んだ10カ所の候補地を、自ら一般の観光客として体験・評価し、最終的にそのなかからライブ配信で紹介するホテルを選択する、という実感のこもったホテルの感想がわかる配信である。

商品への愛と専門性が売りに繋がった例

中国で337店舗を展開するスキンケアブランド、フォレスト・キャビン(林清軒/Forset Cabin)は、新型コロナの影響で、前年の旧正月期間と比べて売上がマイナス90%という悲惨な状況に。しかし、ライブコマースを開始し、社長自らも出演したところ、6万人も視聴者を集め、主力商品であるツバキ油の販売数は40万個に迫り、40万元(約600万円)近い売上を記録した。成功したのはこの1回だけではない。同社の業績は2020年2月15日時点で前年同期比45%増を記録している。

同ブランドだけでなく、ライブコマースに社長、あるいはマネージャーなど、「その商品を実際に売っている人」が出演するというのはある種のブームになった。大手老舗百貨店、インタイム・リテール(銀泰百貨/Intime Retail)は、感染が深刻だった頃、自宅待機となった湖北省の販売員が自宅でライブコマースをはじめ、配信は1日平均1.5万人に視聴されたという。華やかなKOLも悪くないが、商品への深い知識や愛がある人が商品を語り売った方が、視聴者にとっては買う意味がわかりやすい、というのは道理にかなっている。

「ストーリーテリング」で成功した例

販売をしていないためライブコマースの例ではないが、ライブ配信での興味深いブランドコミュニケーションとして、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の例がある。同社は2020年秋冬のオートクチュールコレクションの発表に合わせ、中国のアンバサダーであるアンジェラベイビーや、有名雑誌の編集長などを招待したライブ配信を行った。配信ではコレクションに関連したショートムービーを流し、その内容やミニスカートの歴史について語り合う、コレクションのテーマ理解を促進する内容となった。

また、若者が好む、コメントが横に流れていくニコニコ生放送のような機能を開放。ライブ中の試聴は700万回にもなったという。最新の技術を使って視聴の楽しさを担保しつつ、高級感がある世界観や壊さず、ブランドへの夢や憧れを持ってもらうことに成功した例といえるだろう。

日本でのライブコマースの成功パターンは?

「安さ」が大きな価値でありつつ、さまざまな活用が見られている中国のライブコマースであるが、翻って、日本はどうあるべきだろうか。

これについては、他国の事例は横に置き、まず「ライブコマースを通して、ユーザーとどのような関係性を築きたいのか」という問を自社で考えるべきと筆者は考える。たとえば、目的を下記のいずれにするかで、出演者もコンテンツも商品も値付けも大きく変わってくるだろう。

  • 「ライブコマースで買えば激安!」というところから話題を作って、新規ユーザの耳目を引くことを目的にする
  • 店舗売上が多いブランドが、コロナ禍で店舗に行きづらい顧客のために、新商品の丁寧な解説をし「ネットだけで買える」ようにする
  • 店舗を持たないブランドが、ライブコマースで商品の紹介と解説をすることで、より愛着の向上を売上拡大を目指す
  • 商品自体の販売より「おしゃれな着こなしを紹介する」に焦点を当て、ユーザのおしゃれの成長を支援することで長期的な売上向上を狙う

ライブコマースをどのような場と位置づけ、何を目的に実施するのか。これについてはさまざまな考え方があり得え、また目的によってコンテンツや人選も変わってくるだろう。

「ライブコマース」ととなると、まずその手段、および「出演者」、そしてそれらの中国での成功が華々しくクローズアップされがちだ。しかし、まず大切なのは自分たちの現在位置を踏まえた、目的の設定だ。それらを踏まえたうえで、その達成に合致しそうなアウトプットのスタイル(事例ややり方のノウハウ)を中国などの他国、もしくは日本の他社事例を見ながら開発・実施してみることが、近道ではないだろうか。

Written by 滝沢頼子
Image by Shutterstock