変化が激しく飽和状態にある市場において、ブランドはどうすれば顧客と有意義で価値ある関係性を築くことができるのだろうか。Glossyのビューティxウェルネスサミットでは、業界のリーダーたちが集まり、ダイナミックなマーケティング環境にて顧客の関心を維持するための戦略を共有した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
変化が激しく飽和状態にある市場において、ブランドはどうすれば顧客と有意義で価値ある関係性を築くことができるのだろうか。
近年、美容やウェルネス業界は、かつてないほどの混乱を経験している。同時に、毎日のようにブランドや製品がローンチされ、トレンドが突然現れたかと思うと急速に消えていく。その結果、企業はマーケティングのアプローチを再検討するようになり、状況に反応するのではなく先回りして行動することを優先している。
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そして、これは業界の変革のひとつのレイヤーに過ぎない。その下に存在するのは、不安定な経済下で、社会的公正やテクノロジー、サステナビリティに関心を持つ新しい世代の消費者だ。Z世代が消費者文化に追いつくにつれて、健康、ウェルネス、美容の境界線はこれまで以上に希薄になっている。
11月14日から16日にかけて開催されたGlossyのビューティxウェルネスサミットでは、業界のリーダーたちが集まり、ダイナミックなマーケティング環境にて顧客の関心を維持するための戦略を共有した。
講演者は、顧客ロイヤリティの創出やコストの削減、適切なオーディエンスをターゲットとし、新たな小売スペースに対応するといった、タイムリーなテーマについて議論した。特に、進化する消費者の期待に応えるという点に関しては、以下の3つの重要なポイントに触れている。
1. SMSマーケティングを活用してパーソナライズされた顧客体験をキュレートする。
2. 業界の最新インサイトに基づき、インフルエンサーマーケティングプログラムを最適化する。
3. オンライン返品プロセスでブランドと顧客に対して価値を創造する。
以下では、これらの業界リーダーたちが伝えたことを紹介する。
パーソナライズされた顧客体験のためにSMSマーケティングを活用
美容企業のザ・リップバー(The Lip Bar)は、顔色に関係なく、すべての買い物客を対象としたヴィーガンリップスティックを作っている。同社のマーケティングのアシスタントバイスプレジデント、アレクシア・アマーソン・ジョイナー氏は、SMSファーストのアプローチによって、顧客との1対1の会話からパーソナライズされた提案を行うことを可能にした方法を紹介した。ザ・リップバーがSMSマーケティング戦略をローンチしてから1年半後には、eコマースの収益の40%をSMSが占めるようになっている。
ザ・リップバーは以下の方法で顧客ごとにコンテンツをカスタマイズしている。
1. 顧客がザ・リップバーのウェブサイトを訪れると、サインアップのポップアップが表示される。
2. 同社が顧客にメッセージを送信する前に、ちょっとしたアンケートでまず顧客自身について回答してもらう。そこには肌の色、メイクアップのルーティン、顔色などに関する質問が含まれている。
3. ザ・リップバーはその情報をもとに、SMSを含むすべてのチャネルで、その顧客に合わせたメッセージを送信する。それらのメッセージは、顧客の肌の色や美容体験に適したルーティンを反映している。
ザ・リップバーのマーケティング・アシスタントバイスプレジデント、アレクシア・アマーソン・ジョイナー氏とのQ&A
ーーザ・リップバーはなぜSMSをローンチすることにしたのか? また、市場環境の変化に伴い、このチャネルはより重要なものとなっているか?
「私たちのチームは何の期待もせず、ただブランドのために次に来るものを見つけようとした。(SMSによって)私たちは消費者と親密な関係を築くことができる。顧客の受信トレイは、おそらくもっとも神聖な場所のひとつだ。家族と会話をし、友人と会話をする。仕事でちょっと遅れると誰かに伝える。つまり顧客の生活におけるそのような神聖な場所に私たちを招き入れるというのは、非常に大きな意味があり、私たちは決してそれを軽視しない。またそれによって、私たちは消費者にオムニチャネル体験の橋渡しができる」。
ーーSMSのセグメンテーションとパーソナライゼーション・ツールをどのように活用し、またそれをどのように進化させたのか?
「SMSを始めた当初は、自分たちが何をしているのかまったくわかっていなかった。リストの全員にコミュニケーションを送信し、そこからある程度大きな利益があることが判明した。だが私たちは『次はどうする? どうすればこの体験をキュレーションできる?』と自問自答するようになった。当社がインクルーシブなブランドを構築しており、あらゆる顔色に合わせてパーソナライズされたメイクアップの選択肢を提供していると言うのであれば、リストの全員にコミュニケーションを送るというのは、後ろ向きの行為だ。
私たちがそこで見ることができたのは、消費者がどのように反応し、SMSに登録したのか、どのように私たちのサイトにアクセスしたのか、どんな購買行動をとったのかを示す分析結果だ。そこから、それぞれの顧客のジャーニーに合わせた異なるメッセージや画像を送ることができる」。
ーーザ・リップバーには、忠実なソーシャルフォロワーがいて、ブランド独自の考えをウェブサイトでも明確に発信しているが、それをどのようにSMSに反映させているか?
「消費者はスケジュールに追われて忙しい。活動的であり、母親もいれば、トラベルナースもいる。あちこち動きまわっている人もいれば、会社の上司もいる。メイクアップのルーティンに20分や30分もかけている時間がない。そこで私たちのチームでは社内言語の開発に着手した。消費者と話をする際は、私たちを友人だと感じてもらえるような方法を取る。処方されたものという印象を与えたくない。ほかのブランドと同じように思われたくもない。消費者がまるで自分の友だちと話しているような形で、その消費者と共鳴することが重要なのだ」。
インフルエンサーマーケティングで本物のエンゲージメントを確立する
インフルエンサーの台頭が、消費者の選択の方法を根本的に変えた。特にTikTokのインフルエンサーや美容コミュニティに関してはそうだ。若い世代は、信頼できる人たちによる本物のブランド体験を求めている。Z世代の多様性を考慮し、ブランドはインクルーシブで独自性があり、さらには教育的でもあるコンテンツを促進するために、Z世代インフルエンサーとそのニッチなオーディエンスを活用している。
セフォラ(Sephora)の場合、2019年にローンチしたセフォラスクワッド(Sephora Squad)がある。これは、キュレーションされたインフルエンサーのグループを中心とする1年間のプログラムだ。下記では、セフォラのマーケティング・ソーシャル・インフルエンサーリレーションのバイスプレジデントであるブレント・ミッチェル氏が、アクセシブル・ビューティというコンセプトを推進するうえで、セフォラスクワッドがどのように機能しているかを解説する。
ミッチェル氏とオリンピックのスプリンターでセフォラスクワッドのメンバーでもあるケンドール・エリス氏とのQ&A
ーー今年のセフォラスクワッドについて教えてほしい。
ミッチェル氏:「当社は、従来の美容インフルエンサーやメイクアップアーティストとしてスタートした人たちとの単なる協働を超えるべく、多くの取り組みを行ってきた。あらゆるタイプの美容インフルエンサーを活用している。エステティシャンのようなプロフェッショナルも、今やスクワッドの一員だ。Twitch(ツイッチ)のゲーマーもいるし、初のオリンピック金メダリストもスクワッドに参加している」。
ーーケンドール・エリス氏は、なぜセフォラスクワッドに参加しようと思ったのか?
エリス氏:「陸上競技以外へと広がる方法を探していた。美容と健康は、スポーツの世界でも交差地点として大きな役割を果たしている。大会に行くと、ネイルや髪を美しく整え、スキンケアやメイクをしている女性たちを見かける。ただ大会に出て競技をするだけではないのだ。そうしている間にも、女性たちがすてきな姿でいるのを目にしている。そこで私は『すでにスキンケアやメイクを使用しているコミュニティに対して、新商品を紹介したり、新しいテクニックを教えるチャンスがある』と考えた。私のニッチな分野は主に陸上競技とスポーツなので、セフォラは(私の)プラットフォームを通じて新たなグループにリーチしている」。
ーーセフォラとして新しいオーディエンスにリーチすることの重要性について聞かせてほしい。
ミッチェル氏:「当社の現在の第一の目標は、私たちの店舗に足を運ぶ人、あるいは私たちのウェブサイトに来る人、その誰もがセフォラは自分のためのブランドだと感じてくれるようにすることだ。これを実現するために確実に行動しなければならない。それがよいビジネスである。結局のところ、私たちは皆、Z世代にオーセンティックにリーチしようとしている。Z世代は本質的に多様性に富んでいる。これまでよりも多様な考え方を持ってやってくる」。
ーーセフォラの全体的なインフルエンサーマーケティング戦略の中で、スクワッドはどのように位置づけられているか?
ミッチェル氏 :「インフルエンサープログラムでクールな子どもたちにリーチしようという、独立したものではない。必ず補完するものとなるようにしている。インフルエンサーマーケティングに関しては、スクワッドがその大半を占めている。ほかにもシーズンごとやキャンペーンに特化した取り組みもやってはいるが、インフルエンサーのアクティベーションの90%以上はスクワッドを通じて行っている。
当社ではこうした長期的な関係に価値を置いている。スクワッドのプログラムには、非常に多くの教育が含まれている。メンバーたちもフォロワーとの信頼ある関係を築くことに非常に長けている。また、そのフォロワーは少し年代が若く、BIPOCが多い傾向にある。
これは当社が常に目先の売上にとらわれず、先を見据えているというところにあるものだ。アフィリエイトプログラムを意図したことは決してない。しかし今日ではこれまで以上に、人々が店舗やウェブサイトを訪れる前にセフォラの製品についてもっと知るための、トップオブファネルの教育機会であるとも認識している」。
インフルエンサーマーケティングを最適化するための業界インサイト
インフルエンサーマーケティングは、eコマースの売上に欠かせない情報源となっているが、多くのブランドはコンバージョンにつながるバランスのとれたキャンペーンを作成するための支援を必要としている。マジックリンクス(MagicLinks)の戦略的パートナーシップのバイスプレジデントであるジェニファー・ピニャ氏は、ブランドが成功するインフルエンサーマーケティングプログラムをローンチし、それを持続させるために必要となる、重要なインサイトにアクセスする方法について語った。
マジックリンクスは、1000以上の美容ブランドと2万5000人のインフルエンサーから集めた主要な業界トレンドとインサイトを深く掘り下げている。その結果は、インフルエンサーマーケティングプログラムのローンチ、拡大、最適化のためのブランドガイドとなった。主な発見をいくつか紹介する。
1. マイクロインフルエンサーを忘れてはいけない。このグループのインフルエンサーがもたらす総収益は、過去5年で右肩上がりに推移している。
2. インフルエンサーに支払うさまざまな方法を検討する時期がきている。アフィリエイトリンクを検討しよう。Covid以前は、メガインフルエンサーは自分たちのビジネスを推進するのにスポンサーシップを求めていたが、Covid以降は、アフィリエイトリンクやパフォーマンスメカニズムを利用している。
3. 多様なインフルエンサーのグループとの協働は、ブランドの利益となるだろう。インフルエンサーマーケティングのトレンドは、いつ変わるかわからない。
4. インフルエンサーに報酬を支払う際には、具体的な指標を検討する。多額の一時金払いなのか、それとも成果主義なのか。インフルエンサーと主要業績評価指標を作成し、それを必ず遵守してもらう。
オンライン返品プロセスで価値を創造する
購入後の顧客体験が、顧客を忠実なフォロワーに変え、ブランドのリテンション率を上げる可能性がある。この体験の重要な部分を占めるのが返品であり、いまやショッピング体験全体でとても大切な要素となっている。今日、返品はかつてないほど頻繁で費用がかかるものとなっており、これは企業にとって課題であると同時にチャンスにもなる。
オンラインショッピングと返品に関する消費者行動が変化し続けるなか、より多くのブランドが、どうすればオンライン返品が消費者のロイヤリティを高め、コストを削減し、サステナビリティを高めることができるかを学んでいる。ハッピーリターンズ(Happy Returns)のグロース・シニアディレクターのアンドリュー・ピーズ氏は、オンライン返品プロセスを通じて価値を創造する方法について語った。彼はまず、返品の現状を嘆いている。
「完全に崩壊している。ほとんどの買い物客は、巨大な箱を持って郵便局で待っている。プリンターを持っていない。キンコーズ(Kinko’s)にでも行って、何とかしようとする。列に並んでとにかく待っているのだ。それは楽しいことではない。その結果、ホリデーシーズンなどのピーク時には、雑に包装され、アイテムが個別に箱に詰められて、時にはその箱の中に何が入っているのかわからないというようなものが販売店に大量に押し寄せるという事態が起きている」。
また環境への影響も忘れてはならない。このように個々に包装されたパッケージが生み出すゴミの量は、驚くほど多い。さらには輸送に伴うCO2排出量もいうまでもない。2021年には、返品にかかる環境コストは7610億ドル(約102兆円)に達した。
では、ブランドはどうすれば、買い物客、小売業者、そして地球にとってよりよい返品プロセスを実現できるのか。買い物客にとって、それはスムースな体験の提供を意味する。販売店に対しては、コストの削減と効率の向上を実現する。地球環境には、余分な段ボールや輸送による排出をなくすことだ。ハッピーリターンズは、ドロップオフロケーションや一括運送などのソリューションを提供している企業のひとつだ。
教育とパーソナライゼーションを優先する
ブランドにとって、消費者とつながるという目的における大きな障害となり得るのが、アクセシビリティとパーソナライゼーションの欠如である。特にスキンケアの分野では、若い世代は豊富な選択肢に圧倒されてしまっている。毎日のように新製品や新ブランドが登場する中で、若い世代は雑然とした状況を打破してくれる何かとつながる必要があるのだ。
ニュートロジーナ(Neutrogena)の消費者エンゲージメント責任者であるアリソン・レトキ氏は、教育の提供がカギだと言う。彼女が共有したのは、多くの消費者が満足していない、あるいは購入の意思決定をするのに十分な情報を得たと感じていない、という事実だ。マッキンゼー(McKinsey)のデータによると、59%以上のBIPOCの米国人が、美容と健康に関するコンテンツは白人の肌向けだと感じており、57%が自分の肌の色に合った製品を判断するために必要なコンテンツにアクセスできていないと感じている。
コーディアル(Cordial)のクライアントエクスペリエンス・ディレクターであるベイリー・ブッシュ氏は、メッセージングに対してパーソナライズされたアプローチをとることの重要性を強調した。彼いわく、81%の消費者が、パーソナルで関連性のある方法でコミュニケーションをしている店舗やブランドから購入する可能性が高いという点に同意している。
各講演者からの重要な結論
消費者への教育方法を見直す。
ブランド情報をインクルーシブでアクセスしやすいものにする。ブランドはそれを行うために、消費者の声に耳を傾け、肌のために健康的な選択をするのに必要なリソースと消費者をつなぐことによって、コミュニティの力を活用できる。
コミュニケーション全体を結集させるメッセージに注力する。
今日、ブランドは顧客にeメール、プッシュ通知、SMSを送信しているが、顧客体験をパーソナライズするためにそれらが連携していることが重要だ。たとえば、ウェルカムクーポンについて、複数のプラットフォームで消費者に連絡すると混乱が生じる。データとメッセージを一カ所に集め、コミュニケーションを追跡することは有益となるだろう。
マーケティングチャネルの強みを生かした戦略を立てる。
SMSメッセージは、顧客への効果的なリマインダーとして機能する。eメールよりも緊急性が高く、パーソナルだ。
この業界はどこへ向かっているのか?
何よりも、後手に回るのではなく、先手を打ったマーケティング戦略を立てるべき時だ。
Glossyビューティxウェルネスサミットの講演者らは、顧客体験のカスタマイズ、SMSを含む新たなコミュニケーション手段の活用、効果的なインフルエンサーマーケティングプログラムの作成に関するインサイトを共有した。
また、ますますダイナミックで多様化していくコミュニティとつながるという課題についても、議論が行われた。消費者のデモグラフィックは、ブランドの透明性に関して強い価値観と高い期待を持つ若い世代へと、大きくシフトしている。そして、メッセージング、教育、選択チャネルを問わず、パーソナライズされたコミュニケーションへのニーズは高くなっている。
[原文:The Future of Beauty & Wellness: Marketing is becoming more nimble, proactive]
KALEIGH MOORE(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子) Photo courtesy of Neutrogena