スキンケア業界に押し寄せる インクルーシビティの波:有色人種向けブランド、トピカルズの野望

いまや、ベンチャーキャピタルと未公開株式投資会社までもが不公平や不平等の永続化に加担していると批難を受けているが、変化の兆しも見えている。間もなく創業する黒人経営のビューティブランド、トピカルズ(Topicals)はその一例であり、大いなる賭けに出ようとしている。

トピカルズは8月7日、自社D2Cサイト、Nordstrom.com、そしてノーズトロム(Nordstrom)のポップインストア4店において営業を開始する。同社はベンチャーキャピタルのレアラーヒプー(Lerer Hippeau)をはじめ、NetflixのCMOを務めるボゾマ・セントジョン氏、起業家ハンナ・ブロンフマン氏などから、すでに100万ドル(約1億560万円)の資金を調達している。また、共同創業者兼CEOのオーラマイド・オロウ氏はいまも、より多くの有色人種女性から出資を募り、創業までの最後の2週間でさらに資金を集めるべく動いている。業界の事情通が米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(GLOSSY)に語ったところによれば、少なくともあと100万ドルは調達できる見込みだという。

トピカルズはCEOのオロウ氏とCPOのクローディア・テン氏(ふたとも23歳)が共同で興したビューティブランド。昨今メイクアップ業界を騒がせているコンセプトである、インクルーシビティ(包括性)をスキンケア業界へも持ち込みたいと考えている。同社の基軸は、BIPOC(黒人、先住民族、有色人種)が抱える、湿疹や色素沈着症、乾癬といった慢性的皮膚トラブルの改善に置かれている。

共同創業者のふたりは、幼い頃から皮膚疾患(オロウ氏は色素沈着症と毛嚢炎、テン氏は重度の湿疹)に悩まされてきた。ふたりとも、皮膚科学の分野で働きたいと考えていたが、前者は2015年から2017年にかけて、オーガニックスキンケアブランドのシアモイスチャー(SheaMoisture)の若い女性向け姉妹ブランド、シアガール(SheaGirl)の共同創業に携わったことを機に、針路の変更を決めた。そのときのパートナーでUCLA(University of California, Los Angeles)の学友リシェル・デニス氏は、シェアモイスチャーの創業者リシュリー・デニス氏の娘だった。

「然るべき扱いを受けていないコミュニティのために働くのがどういうことなのか、そのときに初めて理解した。私たちのビューティエクスペリエンスは、白人女性のそれとはまったく違う」とオロウ氏。「その知見、そしてビューティブランドを起こした経験を武器にすれば、自分たちのような女性、つまり慢性的な皮膚疾患を持つ人々のために何かできるのではないかと考えた」。

あああ

向かって左がテン氏、右がオロウ氏

悪習を変えることが第一

米国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination) Surveyによれば、アフリカ系アメリカ人の子どもの19%以上がアトピー性皮膚炎を患っている一方、白人の子どもは16.1%、アジア人の子どもは7.8%と比較的少ない。また、子供のアトピー性皮膚炎発症率も、アフリカ系アメリカ人のほうが白人よりも1.7倍高い。ところが、テン氏は臨床研究に携わるなかで、有色人種が臨床試験において低代表とされていることを知った。

実際、国立マイノリティ健康格差研究所(National Institute on Minority Health and Health Disparities)によれば、マイノリティは臨床試験の参加者の10%にも満たない。さらに(米国においては)皮膚科医は往々にして、有色人種の皮膚の治療について、十分な教育を受けていない。たとえば、米皮膚科学会誌『Journal of the American Academy of Dermatology』の調査によると、臨床医学研修プログラムのディレクターのうち、彼らが担当した研修医が、有色人種患者の診察や治療に関する特定の経験をしたと報告した者は、わずか12.2%だった。

「こうした悪習を変えることを、トピカルズは第一に考えている」とテン氏。「非常に人気が高い、あるいは広く使われている成分のなかには、有色人種の肌にひどい副作用を起こしかねないものもある。その代表例であるハイドロキシンが、色素沈着のいわば特効薬として定着している現状は、有色人種の使用を想定した研究不足という事実を物語っている」。

ワクワク感も忘れない

そこでトピカルズは、全商品の全成分に対し、あらゆる色の肌を使った臨床試験を確実に実施している。「どのような色の肌にも優しい、より良い商品を作りたいと考えた。ただそれと同時に、使うのが楽しい、ワクワク感も得られるものにしたかった」とオロウ氏はいう。

ミレニアル層を意識したブランディングを展開する近接カテゴリーの製品(ボディウォッシュ、デオドラント、歯磨き粉、セクシャルウェルネス製品)と違い、皮膚の改善を目的とする商品は依然、外見、雰囲気ともに、医薬品に近い。たとえば、米国皮膚炎協会(National Eczema Association)認定のセラヴィ(CeraVe)やMG217といった保湿クリームは、ドラッグストアで販売されているが、容器は白を基調としており、文字のフォントも薬を連想させる。

一方、トピカルズが創業と同時に発売するふたつの商品、乾燥および湿疹に悩む人向けの「ライクバター(Like Butter)」と、いわゆるシミに悩む人向けの「フェイディド(Faded)」は、 ドランクエレファント(Drunk Elephant)や、グロッシアー(Glossier)に近い雰囲気を醸している。ガシーレンカー(Guthy Renker)といった大手も、2019年8月に新シリーズ、シーカームスキン(Sea Calm Skin)を投入するなど、この類の商品のアップデートを図っている(もっとも、シーカームスキンのデザインは控え目ではあるが)。

「皮膚の慢性的な疾患には、これといった治療法がないことが少なくない。そのため、弊社が目指したのは完璧な皮膚や疾患の治癒を約束するブランドではない」とオロウ氏はいう。

2019年8月以来、オロウ氏とテン氏は多様な色の皮膚を対象とした臨床試験および成分配合に留まらず、コミュニティとの対話の創出にもフォーカスしてきた。トピカルズは1万以上におよぶeメールニュースレターのベース、6000人以上のTwitterフォロワー、3100人近いインスタグラムフォロワーを有しており、たとえば、メールやソーシャルポストを利用し、「フレアアップ(晴れ上がり、湿疹などを意味する言葉)」といった、ニキビの症状に付随するネガティブなイメージの改善に努めている。

コミュニティに密着したブランディング

また、オロウ氏とテン氏によれば、同社はコミュニティに密着したブランディングを実施しており、Z世代とミレニアル世代に向けたコンテンツも、ソーシャルメディアを通じて発信している。たとえば、催涙ガスが皮膚や粘膜に炎症を起こす仕組みを教えているのは、両氏ともに、自身のブランドのファンがBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)に賛同する抗議運動に参加する可能性は高いと見ているためだ。

同社による最初のTwitter投稿には、959のリツイートと、多くのコメントがあった。同社はまた、新型コロナ禍中、バーチャルな「外泊」やインタラクティブ占星術ゲーム「サン・スキン・アンド・スターズ(Sun, Skin and Stars)」など、デジタルでのみ楽しめる活動をいくつか提供している。後者では、顧客が自身の誕生日と肌の悩みを3つ書くと、お勧めの成分を含め、それぞれの悩みに応えるアドバイスが返ってくる。

ビューティ業界は「あまりにも多くの商品」を次々と市場に投入し、慢性的な肌トラブルを抱える消費者を(そして、その他のすべての消費者も)困惑させることが少なくないと、テン氏はいう。そこで、トピカルズは盤石なプロダクトロードマップを維持しつつも、症状や使う人の気持ちにフォーカスした商品開発を行なっていくという。

スキンケア界の先駆者に

若年層や有色人種の女性および男性に向けた、セラヴィやMG217のような商品作り、というアイデアはこれ以上ないほど明快なのだが、それでもトピカルズが資金調達に至るまでの道のりは、まったくの平坦ではなかった。オロウ氏によれば、2年間、苦闘の連続だったという。

「これは嘘でも誇張でもなく、まさに闘いだった。100人を越す投資家から『ノー』の返事を聞かされた」と、オロウ氏は2018年8月からはじめた資金調達の歩みをふり返る。「これは多くの人が気付いていないのだが、有色の皮膚に向けた商品開発の努力は、ビューティコミュニティのあらゆる人々に向けたより良い商品作りに繋がる。リアーナとLVMHによる新ブランド、フェンティ(Fenty)が、多様な肌色に対応する40色のファンデーションを発売し、メイク業界の話題をさらったが、それとスキンケアが無関係と考えるのは間違っている。各業界がそれぞれに向上を目指さなければならないし、もしも自社ブランドの商品が有色の皮膚に良くない、もしくはダメージさえ与えているという場合は、なおさら状況を変えていくべきだ。我々はスキンケア界にそうした考えを持ち込む先駆者になる」。

[原文:The fight for inclusivity finally comes to skin care

PRIYA RAO(翻訳:SI Japan、編集:Kan Murakami)