過去5年間においてファッションクリエイティブディレクターの役割ははるかに流動的になっている。クリエイティブディレクターは、ファッションショーやマーケティングのルック・アンド・フィールを含め、ブランド全体のプレゼンスを形作ることが期待されている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ファッションクリエイティブディレクターという仕事は、長年、製品にフォーカスして、ブランドのデザインと感性を監督するという、きわめて単純なものだった。
ブランドの公の顔になるクリエイティブディレクター
しかし、時が経つにつれ、とくに過去5年間においてはその役割ははるかに流動的になっている。クリエイティブディレクターは、ファッションショーやマーケティングのルック・アンド・フィールを含め、ブランド全体のプレゼンスを形作ることが期待されている。ブランド創業者でもあるクリエイティブディレクターにとって、この職務は会社の大きな意思決定に対するコントロールを確保するものである。一方、ほかの人たちは、クリエイティブディレクターという肩書きはソーシャルメディアにおけるブランドの公の顔だと解釈している。ブランドを代表して、または独立したディレクターとして、幅広くコラボレーションしたり、音楽やデザイン、アートや建築など、ファッション以外の分野でそのクリエイティブな実力を発揮している人たちだ。
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このような変遷は、ファッションブランドが、より大きな公的プレゼンスと幅広いビジョンを持つクリエイティブディレクターを求めていることを意味している。ディオール(Dior)のキム・ジョーンズ氏、グッチ(Gucci)のアレッサンドロ・ミケーレ氏、ジバンシィ(Givenchy)のマシュー・ウィリアムズ氏らは、若いオーディエンスに語りかけることができる幅広いビジョンを持っている、この新しい若い世代のクリエイティブディレクターを代表している。
個人的な活動でもプレゼンスを拡大
モダンファッションの協働的でオープンな特性とソーシャルメディアの優位により、クリエイティブディレクターは場合によっては複数の役割を果たす必要があると述べているのは、ジェフ・ステイプル氏だ。同氏は、自身の名を冠したブランド、ステイプル(Staple)のクリエイティブディレクターであり、広範囲で多岐にわたる事業を追求する現代のクリエイティブディレクターの格好の例である。同氏は、ステイプルのほかに、スニーカーレンタルプラットフォームのキックスワールド(Kyx World)のクリエイティブディレクターも務めており、また、クリエイティブコンサルタント会社のリードアートデパートメント(Reed Art Department)を率いて様々な個人的なプロジェクトにも携わっている。
たとえば、この6カ月間で、同氏はステイプルのコレクションを発表、リードアートデパートメントでは家具ブランド、パーク(Parc)のラウンジチェアについてコンサルテーションを行い、また、キックスワールドをローンチ。それらの活動と同時に、ポッドキャスト「ビジネス・オブ・ハイプ(The Business of Hype)」を配信し続けている。
ステイプル氏は次のように述べている。「クリエイティブディレクターの仕事には、影響力とコラボレーションのキュレーションがある。80年代と90年代には、(クリエイティブディレクターの)吸収レベルは拠点を置く都市や旅した場所に限られていたが、今ではソーシャルメディアのおかげでファネルは地球レベルだ。そして、面白いアイデアのキュレーションはフルタイムの仕事になった。ヴァージル・アブロー氏や(ユニクロの)ジョン・ジェイ氏のようなクリエイティブディレクターは、世界中から取り入れた素材を紡ぎ上げて制作するので、とても影響力があるのだ」。
ステイプル氏のように、クリエイティブディレクターの多くは、デザインのほかにもオンラインやメディアでの個人的なプレゼンスで知られるようになっている。その例には、「スーパーウーマン」ポッドキャストを毎週配信しているレベッカ・ミンコフ氏や、クラブハウスで人気のショー、カルチャークラブ(Culture Club)を配信しているティファニー(Tiffany)のルバ・アブ・ニマ氏が挙げられる。
クリエイティブディレクターの自由なマーケティング
ティビ(Tibi)のクリエイティブディレクターであるエイミー・スミロビッチ氏は、ブランドの公的な顔になっている。同氏はパンデミック中にティビの新しい服を紹介するために、2020年4月、同ブランドのインスタグラムでライブストリーミングを開始した。7万人を超えるフォロワーに向けてスタイリングのアドバイスを定期的に投稿したり、ファッションの方向性についての意見などを共有している。スミロビッチ氏にとって、自分の個人的な興味や意見を最前線に押し出すことは、クリエイティブディレクターという仕事の制約なく自由で解放的な部分である。
「通勤中の電車からティビのパンツを履いている自分の姿を投稿する」とスミロビッチ氏。「すると、(オフィスに到着するまでに)その製品についてマーケティングチームはすでに投稿して、eコマースチームは製品をサイトのトップに移動している。あらかじめ計画していたのではなくて、自発的で思うように(マーケティングが)できる」。
故ヴァージル・アブロー氏の功績
クリエイティブディレクターの責任が変化していることは、その仕事の応募者の選択方法にも影響を与えてきている。オリヴィエ・ルスタン氏は、25歳のときにバルマン(Balmain)のクリエイティブディレクターに抜擢されたが、その時点では比較的経験は少なかった。しかし、マーケティングへの深い理解とインスタグラムにおける自分の強力なプレゼンスによって後押しされたと、同氏はヴォーグ・ビジネスに語っている。ルスタン氏のインスタグラムには500万人以上のフォロワーがいる。2019年、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)CEOのマイケル・バーク氏は、故ヴァージル・アブロー氏をアーティスティックディレクターとして起用した理由のひとつには、アブロー氏がマーケティングと刺激的な宣伝に対して元来理解していた点があったと述べている。
アブロー氏は、とどまることのないコラボレーションと広範囲にわたる関心を体現する現代のクリエイティブディレクターの最たる例の1人だろう。ルイ・ヴィトンとオフ-ホワイト(Off-White)でのデザインのほかにも、ナイキ(Nike)やジミー チュー(Jimmy Choo)のようなブランドとコラボレーションを継続し、イケア(IKEA)、エビアン(Evian)、エクイノックス(Equinox)、リモワ(Rimowa)、ヴィトラ(Vitra)のようなファッション以外のブランドとも幅広く協働した。
「アブロー氏は、自分のソースに関してとてもオープンだった」とステイプル氏。「彼のインスタグラムを見ると驚異的な数の人たちについて言及していた。大物かどうかや、知名度や認知度があるかを問わず、さまざまな人々だ。これをカニエ・ウェスト氏と比べてみよう。ウェスト氏は多くのアイデアを取り入れているが、誰を使ったかさえ記載していない曲もある。アブロー氏は、あらゆるスレッドについて、どこから来たものか、そしてどのようにそれらをまとめたかについて、オープンであり透明性を持っていたという点でとても先進的だった」 。
[原文:The evolving role of the fashion creative director]
DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)