米国ではこのところ百貨店の悪いニュースが続いている。新型コロナウイルスのパンデミックは、すでに明らかになっていたトレンドをますます加速させているに過ぎない。そのトレンドとは、百貨店の時代が終わりつつあるというものだ。
百貨店のロード・アンド・テイラー(Lord & Taylor)が8月2日、親会社のル・トート(Le Tote)とともに破産を申請した。米国ではこのところ百貨店の悪いニュースが続いており、同社の破産もその一例といえる。新型コロナウイルスのパンデミックは、すでに明らかになっていたトレンドをますます加速させているに過ぎない。そのトレンドとは、百貨店の時代が終わりつつあるというものだ。
このようなトレンドが見られるようになったのは、113年の歴史を持つ老舗百貨店のヘンリー・ベンデル(Henri Bendel)がすべての店舗を閉鎖した2018年からだ。当時、百貨店以外の小売業界はすでに苦境に立たされていたが、百貨店が窮地に陥っている兆しが現れたのはこれが初めてだった。
さらに、2019年8月にバーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)が破産したことで、百貨店の世界に大きな変化が起こっていることが誰の目にも明らかになった。かつて1年に平均8億5000万ドル(約902億円)を売り上げていたバーニーズが、2億7000万ドル(約286億円)というはした金でオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group)に買収されたのだ。そして、今年の2月までに、ニューヨークにある旗艦店を含むすべての店舗が閉鎖された。かつてバーニーズは、文化の中心地であり、ニューヨークの超高級デパートの代名詞だった。そのバーニーズが、ニューヨークの家賃の高騰やデジタルファーストの消費者の増加に対応できずに没落した事実は、その後に起こることを十分に予感させるものだった。
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バーニーズが買収されて以来、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)とステージ・ストアズ(Stage Stores Inc)、それにJ.C.ペニー(J.C. Penney)が破産しており、ロード・アンド・テイラーはこの3社に続くことになった。そのほかの百貨店は、なんとか営業を続けているものの、規模を縮小している。ニーマン・マーカスは、2019年にニューヨークのハドソン・ヤードでオープンした店舗を含め、4つの店舗を完全に閉鎖した。一方、J.C.ペニーは154店舗を閉鎖、ステージ・ストアズはすべての店舗を閉鎖した。メイシーズ(Macy’s)は3月に30近くの店舗を閉鎖し、店舗数を昨年の680店から555店に減らしている。サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)は、新型コロナウイルスの影響で売上が落ち込んだため、外部の融資を仰がなければならなくなった。ノードストローム(Nordstrom)は、パンデミックが始まってから収益が40%減少し、16店舗を閉鎖する計画を5月に発表している。
「百貨店の状況はきわめて悲惨」
小売業界は以前からアップダウンを繰り返しているが、百貨店はそのなかでもっとも大きな打撃を受けている。2019年8月には、大手小売企業のほとんどが黒字決算を報告したが、百貨店は蚊帳の外だった。もちろん、ブルーミングデール(Bloomingdale)やバーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)、サックス・フィフス・アベニューなど、店舗を維持して生き残っているところもある。また、米国外の百貨店はここまで状況が悪くないようだ。しかし、米国にある昔ながらの百貨店は、かなり厳しい状況にあると見ていい。
「百貨店の状況はきわめて悲惨だ」というのは、小売ソフトウェア企業のエンビスタ(enVista)で小売担当シニアバイスプレジデントを務めるジーン・ボルナック氏だ。「今の経済情勢では、全国的な百貨店チェーンの多くが消滅するか、大規模なリストラを行うことになる可能性が高い。彼らは危機の前から不安定な財務状況にあったため、大規模なリストラなくしては、危機の後に成長することはほぼ不可能だろう」。
また、消滅する百貨店が増えたために、業界にすきま風が吹き始め、小売店の家主が実入りのいいテナントを見つけられなくなったことが、小売業界全体にさらなるダメージを与えている。
ターンアラウンド・マネージメント・アソシエーション(Turnaround Management Association)のCEO、スコット・スチュアート氏によれば、家賃が高いうえに家賃交渉や倒産をめぐる法律が厳しいことが、間接費を押し上げ、少ない利幅に追い打ちをかけているという。しかも、今はeコマースの重要性が増すばかりだ。ハドソンズ・ベイ(Hudson’s Bay)のCEOを務めるヘレン・ファルクス氏など、百貨店業界のベテランたちは、自分たちがあまりにも長いあいだeコマースを軽視してきたことを認めている。
「ますます後回しにされている」
だがおそらく、百貨店にとって最大の問題は、ファッションのエコシステムで彼らが果たしてきた役割が徐々に奪われていることだ。これまでの数十年間、新しいブランドが一般の人々から注目を得るには、サックス・フィフス・アベニューのような大きな百貨店の店舗にコレクションを購入してもらうのがもっとも効果的だった。しかし今、人々がブランドを発見する場所は、インスタグラム(Instagram)などのオンラインが大半を占めており、ブランドの構築もD2C(Direct-to-consumer)レベルで独自に行うことができる。
2013年にバーニーズでスタートしたフェルナンド・ジョルジ(Fernando Jorge)のようなブランドは、百貨店から飛び出して直販に力を入れたり、ネッタポルテ(Net-a-Porter)や マッチズファッション(MATCHESFASHION)のようなオンラインパートナーと提携したりしている。
「20年前の百貨店は、アパレル製品やビューティー製品を求める米国中の消費者が最初に目を向ける場所だった」と、市場調査会社ユーロモニター・インターナショナル(Euromonitor International)のシニアリサーチアナリスト、ボブ・ホイラー氏はいう。「今の百貨店は、ますます後回しにされているのが現状だ」。
[原文:The end of the department store era]
DANNY PARISI(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)