デジタル化が進みコンテンツチャネルが爆発的に増えているいま、コンテンツのキュレーションと配信を指導することが、CMOの重要な役割となっている。また、コンテンツに対して果たす役割の重要性もかつてないほど高まっている。日々の業務やそのやり方に関する状況が、あまりにも突然かつ劇的に変化したからだ。
ベテランマーケターのアンナ・グリフィン氏は、国際的なニュース雑誌の編集長を務める友人と仕事の話をしていて、あることに気づいた。それは、お互いの仕事がとてもよく似ているということだ。実際、マーケティング責任者が自分のチームで編集長の役割を担うケースが増えている。
「我々の仕事の主な役割は、チームのすべてのクリエイターが良質なコンテンツを制作できるようにすることだ。また、さまざまなトピックを担当する大勢のライターが、たくさんの工程を経て効果的かつ効率的にコンテンツを制作し、アプリ、ウェブ、テレビ、ストリーミング動画、印刷物、モバイルなど、さまざまなプラットフォームで配信できるようにする必要がある。しかも、こうして作られたすべてのコンテンツが、当社を選んでくれた購読者や顧客にとって関連性の高いものでなければならない。なぜなら、コンテンツは共感を呼び起こすものだからだ」と、エンタープライズプラットフォームを手がけるスマートシート(Smartsheet)でCMOを務めるグリフィン氏は、同社が昨年10月に開催した「エンゲージ(Engage)」カンファレンスで述べている。
会社のメッセージを的確に伝える
デジタル化が進み、コンテンツチャネルが爆発的に増えているいま、コンテンツのキュレーションと配信を指導することが、マーケティング責任者の重要な役割となっている。また、パンデミックが働き方の未来を形成したこの1年間に、CMOがコンテンツに対して果たす役割の重要性はかつてないほど高まっている。日々の業務やそのやり方に関する状況が、あまりにも突然かつ劇的に変化したからだ。
Advertisement
フロリダ州タンパを拠点とするビジネスアウトソーシング大手のサイクス・エンタープライゼス(Sykes Enterprises)では、CSO兼CMOのイアン・バーキン氏が、4種類のライブストリームや自身のポッドキャストの制作など、多くのコンテンツ制作を日常的にこなしている。また、同社のさまざまな動画を作成したり、ニュースレターや業界レポートを発行したり、ソーシャルメディアでのプレゼンスを管理する役割も担っている。
バーキン氏によれば、コロナ危機下で会社のメッセージを伝えるにあたっては、2つの苦労があったという。「会社のメッセージの内容を、状況にすばやく合わせ、かつ人間味のあるものにしなければならなかった。状況にすばやく合わせる理由は、常にさまざまな方向に目を向けて最新の状況を把握し、敏感に対応しなければならなかったからだ。また、人間味を持たせる理由は、世界中の人が同じ境遇にあるという、歴史的に見てきわめてまれな状況にあったからだ」とし、こう続ける。「私たちの誰もが慰めを必要としていた。その必要性に応えるため、会社のメッセージを、消費者としてではなく人間として彼らと関わり、サポートするものにしなければならなかった。この一連の取り組みを指揮することが、CMOの仕事になったのだ」。
バーキン氏によれば、このようなコンテンツが人々の共感を呼ぶ度合いが、企業の将来にますます影響を与えるようになっているという。「マーケティングには、アトリビューションと明確な成果、そして(企業が)行っている投資への影響を示す責任がある」と、バーキン氏は話す。「視聴数やクリック数、それにエンゲージメントを見れば、我々が発信しているコンテンツが、ターゲットオーディエンスの注目を集めていることは間違いない」。
「コンテンツマーケティングの強化は重要な仕事」
そのほかのCMOも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で自分たちの役割が変化したと考えている。「パンデミックの影響でCMOの責任は増えている。その筆頭がコンテンツエコシステムのキュレーションに関する分野だ」というのは、440億ドル(約4兆8000億円)規模の投資を手がける資産運用会社ブラッケンリッジ・キャピタル・アドバイザーズ(Breckinridge Capital Advisors)のCMO、ドミニカ・リベイロ氏だ。
ブラッケンリッジ・キャピタル・アドバイザーズはパンデミックの発生から数カ月間、危機的状況で顧客に効率よく情報を提供するために、債券市場の変動に対応したキャンペーンをすばやく実施した。このキャンペーンの一環として、同社はソートリーダーシップに関する記事を20本以上配信したほか、顧客と人間的な交流ができる機会を設けたり、ライブウェビナーを開催したり、積極的なメディア対応をおこなったりしたという。
「CMOという立場で考えたとき、我々が責任を負っているのは、顧客の維持、顧客満足度、新規ビジネス、ブランド認知度といった分野だ。だがいまでは、コンテンツマーケティングの強化という手ごわい取り組みにも乗り出している。これはいまやCMOの仕事の重要な要素だ」と、リベイロ氏は語った。
さらに、テクノロジーとデータの発展によって、コンテンツ関連の意思決定に必要な情報がテクノロジーやデータから提供されるようになったとリベイロ氏はいう。そればかりか、マーケターがAIなどのテクノロジーを駆使して、顧客の共感を呼びそうなトピックを見極め、そのテーマに関連したコンテンツを制作しているのが現状だ。ブラッケンリッジでは、リベイロ氏が立ち上げた編集委員会が毎月会合を開き、84名のスタッフから寄せられたメッセージやコンテンツのアイデアを検討している。同氏はこの会合を、「役割やレベルに関係なく社内の全員から意見を聞く機会」として活用している。
コンテンツも素早い対応が必要
2920億ドル(約31兆8500億円)の資産を管理するBNYメロン・ウェルス・マネジメント(BNY Mellon Wealth Management)でマーケティングとコミュニケーションの責任者を務めるキルティ・ネイク氏も、CMOのコンテンツ業務におけるデータの重要性がかつてなく高まったとの意見に同調する。「最終的にはデータが戦略を後押しする。今日のマーケティングでは、インテリジェンスやリアルタイムのエンゲージメントデータがますます利用され、これまでにないほどコンテンツ制作プロセスに役立つ情報が得られるようになった」と、同氏は語った。
さらにネイク氏は、パンデミックの影響で、マーケティング責任者がコンテンツに対して果たす役割の重要性がますます強調されていると話す。「CMOは状況の変化にすばやく対応することを常に求められるが、コンテンツの所有についても同じだ」と、同氏はいう。「単なる製品プロモーションや広告宣伝をしていればいい時代は終わった。マーケティングで必要なのは、メッセージを広め、コンテンツをさまざまなフォーマットで宣伝することだ」。
TONY CASE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島 翔平)