スポーツが戻ってきた。MLBは7月23日に、NBAは7月30日、NHLも8月1日に再開した。さらにNFLも9月に開幕する予定だ。だが米国ではNFL選手でも59人の感染が確認されるなど、新型コロナウイルスの感染者が増加しつつあり、こういったリーグ戦の再開が再び白紙に戻る恐れもある。
スポーツが戻ってきた。MLBは7月23日に、NBAは7月30日、NHLも8月1日に再開した。さらにNFLも9月に開幕する予定だ。だが米国ではNFL選手でも59人の感染が確認されるなど、新型コロナウイルスの感染者が増加しつつあり、こういったリーグ戦の再開が再び白紙に戻る恐れもある。
ではそういった場合、広告費用はどうなるか。「毎日メールでそういった問い合わせを受け取るが、答えるのは難しい」と、あるエージェンシー役員は語る。1回目の中断と2回目の中断で、広告主の対応が変わる可能性もあるためだ。3月に人気スポーツのリーグ戦が中断したときは、大半の広告主は広告費用を引き上げることはせず、リーグ戦の再開を待つ構えだった。だが今回は、事業の回復にその資金を使おうと考える企業が増えると思われる。エージェンシー役員5名にインタビューを行ったところ、動画配信プラットフォームを含め、テレビ広告市場はこうした要求が大量にあった場合に十分に対応できない可能性があるようだ。
「スポーツ中継に変わるようなコンテンツはない。たとえばYouTubeなら大丈夫だと思いたいが、それでもスポーツの変わりにはならない。NFLのように数千万人が3時間、同時視聴するコンテンツはほかでは再現不可能だ」と、前出のエージェンシー役員は語る。
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各社が、人気スポーツの試合でキャンペーンを展開するために費やすコストは、合計で数十億ドル(数千億円)にもなる。スポーツ中継では、長時間にわたり多数のオーディエンスにリーチできるためだ。カンターメディア(Kantar Media)によれば、広告主はNFLの直近のシーズンだけでも46億ドル(約4800億円)を使っている。一方、NBAやNHL、MLBを合わせた費用は20億ドル(約2100億円)となっている。
広告主にかかる大きな重圧
考えられる最悪のケースは、コロナ禍が終息せず、人気スポーツリーグがすべて今年中に再開できなくなることだ。そうなると、広告主がその資金を使わずにいるとは考えにくい。
各社は、ここ数カ月で失った事業の損失を補填する必要に迫られており、第3、第4四半期に売り上げを伸ばさねばならないという大きな重圧を感じている。なかには、スポーツなどの大規模イベントが秋ごろに再開されるのを期待し、それまで商品発売を延期した企業もある。
「3月頃は、スポーツだけでなく何もかもが動いていなかった。だが現在、企業活動はある程度再開している。宣伝をスポーツだけに頼るわけにはいかないだろう」と、ふたり目のエージェンシー役員は語る。再びスポーツイベントが中断されるようなことがあれば、バイヤーもセラーも数十億ドル(数千億円)規模の広告費用を別のチャネルにつぎ込む可能性は高い。
テレビのかわりになるもの
こうした広告費用の流入先としてまず考えられるのが、テレビ局の他番組だ。ディズニーやNBCユニバーサル(NBCUniversal)、ワーナーメディア(WarnerMedia)、バイアコムCBS(ViacomCBS)といった各局は、ゴールデンタイムの番組やニュース、エンタメ番組といったさまざまな選択肢を提示できる。だがニュース番組でのキャンペーン展開に二の足を踏む広告主も多く、さらに今後は11月の米大統領選挙が近づくにつれて政治報道が増えるため、その傾向はさらに強まるだろうと、エージェンシー役員たちは口を揃える。
さらに、番組制作の現場も活動が制限されているため、十分なオーディエンスを引きつけられる新しい番組を提供できるのか、疑問の声も上がっている。「ワーナーやディズニーでキャンペーンを展開をするのはやぶさかではないが、スポーツのような高視聴率を出すのは容易ではないかもしれない」と、3人目のエージェンシー役員は語る。
またふたり目の役員も、 「『マッシュ(M*A*S*H:ブラック・コメディの医療ドラマ[参考:Wiki]』のような超高視聴率の番組は、もはや存在しない。単純にスポーツ中継の代替として計算できる番組はないのだ」と述べる。
通常テレビ局との契約には、広告主が購入した番組が放送されなかった場合、契約を破棄できる条項が含まれている。広告主が今回これを使用する可能性は否定できない。「すでに各社は長期にわたって広告費用を使わずに待っているのだ。これ以上引き止めるのは容易ではない」と4人目のエージェンシー役員は語る。
ストリーミングが受け皿に
テレビ番組が駄目な場合、ほかに広告費用の受け皿になるサービスはあるだろうか? エージェンシー役員らの見解は、ストリーミングサービスだ。3月からストリーミングの視聴者数はうなぎのぼりとなっており、すでに広告費用の流入がはじまっている。Huluを提供するディズニー、プルートTV(Pluto TV)やCBSオールアクセス(CBS All Access)を提供するバイアコムCBS、トゥビテレビ(Tubi TV)を提供するFOX等、広告対応のストリーミングサービスを展開しているテレビ局もあり、そういったところでは広告費用を保持しつづけられる可能性が高い。「クライアントにとって価値あるメディアであれば、同じメディア企業のなかで広告費用をまわすのが普通だ」と5人目のエージェンシーの役員は述べている。
だが広告主のストリーミングサービスへの需要は限られている場合も少なくない。「NBAへの広告費用1000万ドル(約10億円)を、Huluに再投資できるとは限らない」と3人目のエージェンシー役員は語る。
それ以外にもほかのストリーミングサービスやAmazon、ロク(Roku)、サムスンのスマートテレビ、広告配信機能を持つストリーミングアプリなど、選択肢はさまざまだ。3月以降、ストリーミングサービスの利用者は増えているが、ひとり目のエージェンシー役員は社内外でテレビ局を調査したところ「そのうち半数ほどはスポーツコンテンツの視聴者だった」という。
毎月何十億人もの人が利用しているFacebookやYouTubeといったプラットフォームも候補として考えられる。だがテレビのスポーツ番組の広告主は、番組の重要性のレベルを意識しており、SNS上の動画プラットフォームへの投資がどれくらい効果を及ぼすかについて見定める必要があるだろう。
「スマートテレビやOTTのプレミアムコンテンツへの注目が集まるのは間違いないだろう。YouTube Selectも、その選択肢として考えられる」と3人目エージェンシー役員は語る。YouTube Selectは、非常に人気の高いチャンネルだけを対象として絞り込むことができるからだ。
代替できる動画コンテンツはない
だがいずれにせよ、スポーツが再び中断して広告費が変動した場合に、テレビやストリーミング、オンライン動画といったチャネルにすべてを補えるほどのキャパシティはない。
「市場のニーズを十分に満たせるような動画コンテンツは存在しない」とエージェンシー役員たちは断言する。「NFLは毎年、米国の視聴率トップ100番組のうち半数以上を占めている。1枠あたり30万から60万ドル(約3150万から6300万円)の広告枠が1試合あたり82枠もあり、それが何試合もある。圧倒的な規模なのだ」。
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:Kan Murakami)