ウェディングプランニングサイトのノット(The Knot)によれば、この3月から8月のあいだ、米国では100万の結婚式が予定されていたが、多くは何らかの形で見直しを余儀なくされている。その結果、カップルたちは結婚式を当初の計画よりも自分たちに合わせてカスタマイズするようになったという。
マイク・ベネット氏とミケーレ・クラウス氏は、新型コロナウイルスのパンデミックが起こる前から、今年の10月3日に300人を招いた結婚式を行う計画を進めていた。しかし、オレゴン州に住むこのカップルは、式の予定を前倒し、8月1日に親しい友人や家族だけのわずか12人の前で結婚することを決めたという。
「決断するのは簡単ではなかった」とベネット氏は語る。「すでにたくさんのお金をかけていたし、返金されるのはほんのわずかだ。難しい決断だがそうすることに決めたのだ」。結婚式当日、屋根の開いたトロリーが家の前でベネット氏とクラウス氏を迎え、式場となる屋外のガーデンスペースへと移動。そこからふたりにとって大切な場所へサプライズで移動する。
米国では、2020年に数十万のカップルが結婚する予定だが(ウェディングプランニングサイトのノット[The Knot]は、この3月から8月のあいだに100万の結婚式が予定されていると推定)、コロナ禍を受け彼らは、結婚式を当初の計画よりもカスタマイズするようになったという。業界の専門家らは、こうした傾向はパンデミックが終息しても続くのではないかと予測している。
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新たな結婚式のカタチ
ウェディングワイヤー(WeddingWire)のシニアクリエイティブディレクター、ジェフラ・トラムパワー氏は「結婚式で自分たちを表現し、ゲストにも良い体験をして欲しいと望むカップルが多い」と語る。「固定観念にとらわれない結婚式を、と考えるウェディング企業やカップルは以前から存在したが、必ずしも思い通りの結婚式ができない現状で、この傾向がさらに強まるのは間違いない」 。
業界の専門家によれば、ウェディング企業はここ5カ月のあいだ、バーチャルでの相談や自宅でのケーキテイスティングなど、結婚式を計画するための新しいサービスを生み出しており、こうしたサービスはパンデミック後も続くと考えられる。これは、その開催方法についても同様だ。たとえば、式場まで移動できない人のためにZoomでの結婚式への参加が可能となっており、これもパンデミック後も続いていくことが考えられる。ノットで編集長を務めるクリステン・マクスウェル・クーパー氏によれば、同サイトを通じ、10から15人で行う小規模な結婚式を指す「ミニモニー(minimonys)」を希望するカップルも少なくないという。
「COVID-19の以前から、家族だけで小規模な結婚式を行い、そのあとで大規模な披露宴を行いたいというカスタマーはいた。パンデミックによってそのトレンドがさらに広まった」。
結婚祝いのプレゼントに関するビジネスを展開するスタートアップ、ゾラ(Zola)でコミュニケーション担当ディレクターを務めるエミリー・フォレスト氏も、これに同意。「パンデミックとは関係無しに、結婚式にはもっとも親しい人だけを招き、その後に夢のような披露宴を、というやり方に魅力を感じる人が、現在多いのではないか」と同氏は語る。「パンデミックによって、この希望を叶えられるようになったという見方すら可能だ」。
未来を決めるのはカップル
ウェディング業界の企業や専門家らは、結婚式業界の未来がどうなるかはカップル達次第だと指摘する。ノットの調査によれば、2019年の婚約指輪と結婚式、披露宴費用は平均で3万3900ドル(約363万円)だったのに対し、現在の費用はおよそ3万ドル(約320万円)ほどまで落ち込んでいる。この金額がパンデミック前まで回復するのか、どのような結婚式になるかは飽くまでカップル次第なのだ。
とはいえ、パンデミックが終息すれば、再び大掛かりに祝うカップルが増えると予想され、現在の落ち込みが長続きするとは考えづらい。業界の専門家らも、結婚式の予算は元に戻るだろうと予測している。ウェディングワイヤーが5月に行った調査によれば、米国のカップルの95%は結婚式の予算を減らすつもりはないと回答している。
加えて、秋にはまた以前のように結婚式が行われるだろうと予測する人もいる一方で、多くのカップルが結婚式を延期した結果、2021年にラッシュが来るという予測もある。ゾラは6月、Facebookコミュニティで6、7、8月に結婚式を予定している500組の婚約カップルに、アンケートを行った。76%は日時の変更を行わないと回答している。これは春に実施したアンケートと比較すると、30%増加している。
一方、22%はすでに延期を決定しており、2%はまだ考え中と回答。そして、結婚式を予定通りの日時に行う76%のうち、30%は親しい人間だけを招いて結婚式を行い、その後に大規模な披露宴を予定しているという。27%は予定していた結婚式会場が許す限り、一切変更せずに実施すると回答している。11%は一部ゲストを招待せず、人数を減らす予定だという。
また、専門家たちは参加者の健康や安全に配慮した式になるだろうと予想しており、クーパー氏も次のように語っている。「これまでも検討されてきたことではあるが、これを機に確実にニューノーマルに適した結婚式が実施されるようになるはずだ。参加者毎に取り分けられた形で食事が出るようになるだろうし、衛生面での配慮から、ビュッフェ形式はほとんどなくなるはずだ。手指消毒剤は参加時に配ったり、式場のスタッフが銀の大皿で配ったりと、さまざまな方法で配布されるのではないか。こういった変化があるのは間違いないだろう」。
ウェディング企業に残された懸念
カメラマンやケータリング業者、ヘアスタイリスト、フローリスト、メイクアップアーティストといった結婚式サービスを提供する側にとっては、現在の不透明な状況は大きな懸念となっている。
ロードアイランド州ニューポートを中心に活躍しているメイクアップアーティスト、アリソン・バルベラ氏は、18名のメイクアップアーティストが所属する企業を経営している。「昨年と比べて売上は60%減っている」とバーバラ氏は明かす。本来、2020年は大きな収益が見込めるはずだったという。というのも、米国では偶数の年に結婚したがるカップルが多く、2020年代のはじまりというのも、人気に拍車をかけるはずだったのだ。
「どのウェディング業者も大きな売上を見込んでいた。将来的にもいろいろな変化が起きるのではないかという懸念は間違いなくある」とバーバラ氏は語る。「結婚式は小規模になるのだろうか? そもそも結婚式をあげる人が減るのではないか? 先行きが見えないことが、最大の懸念となっている」 。
また、ウェディングカメラマンで、ロードアイランド州のウェディング業者のFacebookグループを管理しているコリ・マイケル氏は「ハグもダンスフロアもなく、ゲストはマスク着用で、離れた席に座るような無味乾燥な結婚式に何百万円も費やしたいとは思わない、そうしたカップルは多い」と語る。
さらに同氏は「年配のご家族を招きたいカップルが大半だが、150名以上のゲストを招待するのは、少なくとも当面のあいだ家族にとってリスクでしかない」と指摘する。また、作家であり経営者のフェイス・ポップコーン氏は、従来の結婚式の「重要性は下がるだろう」と予測する。「結婚式を延期して『ミニモニー』で結婚したカップルにとって、あとから大掛かりに祝うというのは、いまさら感が強いのではないか」と同氏は語る。「結婚式の形は変わるだろう。そもそも、パンデミックやそれに続く不況がなくても、結婚式に400万円近くつぎ込むというのはどうなのだろうか。私には疑問だ」。
かつてない好況の見通しも
そんな指摘の一方で、来年の結婚式業界がかつてないほど好況になる兆候も見えている。カップルの婚約がすぐにでも増えるのではないかという予測があるのだ。これは、米国で婚約が多いのは2月までで、それがコロナウイルスで延期された可能性があるためだ。また、業界関係者らは、来年に向けた計画を立てているカップルの話を、多く耳にするようになっているという。
「2021年の結婚式の新規受付はいまでも続いている」とバーバラ氏は語る。「来年以降に式を挙げたいと望み、計画しているカップルは間違いなくいるのだ。業界の今後を決めるのは、あくまでカップル達にほかならない」。
[原文:‘The biggest theme is uncertainty’: How coronavirus has changed the wedding industry]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:Kan Murakami)
Illustration by IVY LIU