レストランチェーンのTGIフライデー(TGI Fridays)は、レビューサイトのイェルプ(Yelp)でカスタマーが不満をぶちまける前に、不満の解消につとめる取り組みを進めている。10月第1週、同社はスマートフォンを模したデバイスを店舗に用意し、食事に関する率直なレビューの募集をはじめた。
レストランチェーンのTGIフライデー(TGI Fridays)は、レビューサイトのイェルプ(Yelp)でカスタマーが不満をぶちまける前に、不満の解消につとめる取り組みを進めている。
10月第1週、同社はスマートフォンを模したデバイスを店舗に用意し、食事に関する率直なレビューの募集をはじめた。カスタマーが注文した食事とサービスに点数をつけてもらい、食事やサービス全体に関してコメントを募集する取り組みだ。コメントが付くとマネージャーに通知がいき、カスタマーに感謝を述べたり、どうすれば改善できるか話し合ったりできる。
カスタマーフィードバックのより積極的な形といえるだろう。同社はカスタマーが店を出る前に、何を考えているのかを知ろうとしている。そうすることで、また店に来てもらえるよう、不満点にその場で対処できるからだ。ほかにもデータ面でもメリットがある。同社はカスタマーのメールアドレスの記入欄も設けており、それによってカスタマーの注文、よく行くレストラン、レビューにもとづいてデジタルプロフィールを作成できる。
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TGIフライデーでチーフエクスペリエンスオフィサー(CXO)を務めるシェリフ・マイチャス氏は、「リアルタイムでゲストとやりとりすることは極めて重要だ」と指摘する。
レビューシステムの仕組み
カスタマーのレビューは、マイチャス氏がTGIフライデーの「データレイク」と呼ぶカスタマーデータベースに集められる。このデータベースにはPOSデバイス、ロイヤルティプログラム、ソーシャルメディアから集められた情報などが集められている。こうした情報を活用して、同社はデジタル上で「客の人物像」を作り上げる。そして同社からのメッセージの受け取りに同意しているカスタマーには、AIプラットフォームが作成したカスタマー個人向けのマーケティングメッセージを送る。
同社が使用するリアルタイムのフィードバックデバイスは、イギリスを拠点とするデータ分析企業、ヤンピンゴー(Yumpingo)が開発したものだ。このデバイスは、データを駆使したデジタルファーストな企業へと変わろうとしているTGIフライデーの最新の取り組みだ。10月第1週に新たなCEO(ルビー・チューズデイ[Ruby Tuesday]の前CEO、レイ・ブランシェット氏)を迎えたTGIフライデーだが、同社は昨年度、アメリカで13億ドル(約1465億円)の売上を達成したと報道されている。前述のフィードバックデバイスから得られた情報は、同社がパーソナライズしたサービスを提供するため、複数の手段でカスタマーから集めている巨大なデータプールに加えられるという。
カスタマーに対応する事業すべてに言えることだが、競争の激しい市場で優位に立つためには、カスタマーを知ることが欠かせない。マイチャス氏によると、TGIフライデーはすでに特定の客層にターゲティングを行うという段階は終え、カスタマー個人へのターゲティングに移行しているという。これを支えているのが客個人の好みや振る舞いに関するデータだ。
ワン・トゥ・ワンを具現化
マイチャス氏は、「ベビーブーム世代や子持ちの母親、ミレニアル世代といった層にターゲティングする段階は終わった。いまは一人ひとりにターゲティングを行っている。こうした1対1のやりとりを可能にしているのがデータだ」と語る。
同氏によると、同社はこれまでもフィードバックを集めてきたが、そのときはカスタマーのレシートに記載されたリンクからレビューしてもらう、別の企業に社員の派遣を依頼し、カスタマーとして食事をしてもらい感想を聞くといった方法だったという。こうした手法で集まるコメントは、どうしても限られた範囲の内容になってしまう。さらに情報を活かし顧客体験を向上するにしても、そのカスタマーはすでに店を出た後だ。カスタマーがメールアドレスを提供した場合、レビューで集めたデータからデジタルなカスタマープロフィールを作成し、マーケティングメッセージや販売促進のターゲティングに活用することができる。
ヤンピンゴーは現在、ミッチェルズ・アンド・バトラーズ(Mitchells & Butlers)、ワガママ(Wagamama)、バード・アンド・ハーベスター(Bird and Harvester)といったイギリスのレストランチェーンと提携。ヤンピンゴーのCEO、ゲリー・グッドマン氏によると、1分で実施できる同社の調査への解答率は、同社のデバイスを用意したテーブルの65%にものぼるという。同氏は提携企業のなかにはデバイスによって売上が向上した企業もあると語る。その一例がバード社だ。同社では、デバイスによって同一店舗での売上が8%向上した。
カスタマー分析力が武器に
TGIフライデーのようなカジュアルなレストランチェーンの売上は低下しており、カスタマーをつなぎとめておくために技術的なイノベーションを導入するケースが増えている。一方、パネラ・ブレッド(Panera Bread)やマクドナルド(McDonald)、ダンキンドーナツ(Dunkin’ Donuts)をはじめとするファーストフードチェーンは予約注文、モバイル決済やカスタマーデータの最適化といった機能拡充を進めている。そんななか、TGIフライデーは「データウェアハウス」に重点を置き、カスタマー分析力の向上が売上増につながることに賭けていると、レストランコンサルタント企業アーロン・アレン&アソシエイツ(Aaron Allen & Associates)のCEOアーロン・アレン氏は指摘する。
「カジュアルなレストランチェーンはいま、救命ロープを探して、必死に水のなかをもがいているような状態だ。そんななか、技術も各社が求めている救命ロープのひとつとなっている」と、アレン氏は分析。「データウェアハウスは『速度、便利さの向上と組織のスマート化』の方向性を定め、企業として切り抜けるための戦略を支える技術だ」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)