証券会社のTDアメリトレード(TD Ameritrade)は、カスタマーが Amazon Alexa で株を購入できるサービスを開始する。この機能は実験的な試みとなっており、今回、同社が音声による取引機能を追加した目的は、カスタマーが同社に関わる機会を増やすことと、同プロセスを通じた実験から学習することだ。
証券会社のTDアメリトレード(TD Ameritrade)は、カスタマーがAmazon Alexaで株を購入できるサービスを開始する。
この機能は実験的な試みとなっており、今回、同社が音声による取引機能を追加した目的は、カスタマーが同社に関わる機会を増やすことと、同プロセスを通じた実験から学習することだ。消費者向けの小売企業各社も同様の動きを見せており、音声機能は通信や取引のプラットフォームで増えつつある機能のひとつとなっている。これまでもカスタマーはテキストやツイート、FacebookのMessenger(メッセンジャー)、モバイルアプリで取引を行うことができた。そうしたカスタマー向けのツールボックスに新たに加わるのが音声機能というわけだ。
TDアメリトレードのデジタル戦略、実験およびイノベーション部長を務めるスナーニャ・トュートヤ氏はこの取り組みについて「当社のオムニチャネル戦略における新たな一歩」であると表現し、「イノベーションは机上だけでは起こせない。商品や実験を、実際に世の中に投入する必要がある。カスタマーからのフィードバックをもとにして完成度を高めていくつもりだ」と語る。
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「ボイスコマース」の現状
同社が音声取引機能の提供を開始したのは10月23日だが、同社にはこれまでも2年間に渡り、株価や市場の最新情報についてAlexaで提供を行ってきた。同サービスではアカウント情報を入力して、ログインせずとも市場の最新情報をリアルタイムで閲覧できる。だがログインすれば、さらにカスタマー本人の好みや購入履歴に基づいたコンテンツが提供される仕組みとなっている。
TDアメリトレードは、ほかの消費者向け企業と同様、カスタマーからの採用率を伸ばすことに苦心している。2018年8月のインフォメーション(The Information)の報告によると、Amazon Alexaのインテリジェントアシスタントを搭載したデバイスを使用している人のうちで、アシスタントを購入に使った人は、たったの2%に過ぎない。さらにその2%のユーザーのうちの90%は再びアシスタントで購入を行っていない。
だがトュートヤ氏は、商業分野で音声機能の採用が進んでいないからといって、投資を拒む理由にはならないと指摘する。音声プラットフォームがユーザーに浸透する前に企業として学ぶことができれば、成功につなげられる。現時点で音声プラットフォームは初期段階だ。カスタマーはユーザー体験となる要素を把握しようとしている。同社はいまのうちにカスタマーが音声をどのように利用しているかを見定めたいと考えている。時間が経てば、人工知能(AI)と機械学習の技術によって需要との隔たりはなくなり、音声によるカスタマー向けの新たなビジネスチャンスが生まれるだろうと同氏は予測しており、次のように語った。
「5、6年前にモバイルアプリは目新しい、あったら便利なもの程度に考えられていた。それがiPhone5、6が発売されて、無ければお話にならない必須サービスとなった。人工知能と機械学習、そしてスマートスピーカーの普及によって、ボイスコマース(音声を使った購買体験)の分野が生まれつつある。『近くに電話がなくても会話だけで売買がしたい』という需要を満たす分野だ」。
発見に便利なツール
キャピタル・ワン(Capital One)、USAA、チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)といったファイナンシャルサービス各社も音声サービスに進出を試みているが、実装における問題に直面している。技術が新しいことや、ユーザーの理解がなかなか進まないことが原因だ。現時点で、音声によるやりとりは消費者向けに用意されている通信と取引方法のひとつとして追加されている。これは大手小売企業が、各カスタマーがもっとも利便性の高い手段を見つけられるように複数のオプションを用意しているのと同じ構図だ。
ホーム・デポ(Home Depot)のオンラインおよびモバイル商品部門でシニアディレクターを務めるマット・ジョーンズ氏はつい先日、米DIGIDAYに対して次のように語っている。「カスタマーは自分たちが選んだ方法でこちらとやりとりするようになる。当社にとって極めて重要なのは、ストアやモバイル、オンラインでカスタマーに素晴らしい体験を提供することだ。良い商品を、良い場所で、良い価格で用意したら終わりではない。重要なのは、カスタマーがそのブランドで体験する、エンドツーエンドの全体験だ」。
音声によるB2Bアプリの開発を手がけているシアトロ(Theatro)でシニアバイスプレジデントを務めるアダム・シルバーマン氏は、現在、音声サービスは商品について調べるときに便利なツールとなっていると指摘する。カスタマーがウェブやモバイルデバイスで購入する前の、ファネルの初期段階における調査ツールだ。
「音声は、取引を完了させるためではなく発見するために使うほうが便利なツールとなっている」と、シルバーマン氏は語る。「取引自体はスマートフォンやデスクトップで取引を行うだろうが、音声ツールは意図に沿った情報を提供してくれる。ショッピングで得られる感覚と非常に近い。現時点では、音声はファネルの一番初期段階に位置している」。
音声認識のあるべき姿
デジタルエージェンシーのバーバリアン(Barbarian)で最高技術責任者を務めるチャック・フレッチャー氏は、音声認識は消費者の利用を増やすことは課題として残るものの、取引において魅力的なツールとなるかもしれないと指摘する。市場の動きにあわせて迅速に決断する必要がある層にとっては、とりわけ魅力的だという。また同氏は、ユーザーの採用率は、技術の進歩にあわせて増加していくだろうが、音声認識の商用ツールの展開については、どういった場面で実用に耐えうるかを各企業は慎重に検討すべきだとし、次のように語った。
「音声認識の利用者が増えるにつれて、音声利用への抵抗はなくなっていくだろう。だが商用利用において、どの分野が音声と相性が良いかを考えるべきであることに変わりはない。たとえばAmazon(のAlexa[アレクサ])であれば、トイレットペーパーやタオルといった一般的な商品を注文するのであれば問題はないだろうが、カスタマーが(商品を)実際に見たいという場合もある。人間は視覚に強く依存する生き物だ。購入ボタンを押す前に、実際に見て確認しなければ安心できない場合もあるだろう」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:SI Japan)