CD総売上枚数4,000万枚以上を誇る、世界の歌姫テイラー・スウィフト。若干25歳の彼女に与えられた才能は12歳のときに覚えた作詞・作曲だけに留まらない。そのソーシャルパワーを生かしたマーケティング手法は、ブランド企業のマーケターにとって、目からうろこのものばかりだ。5つの視点で解説する。
CD総売上枚数4,000万枚以上を誇る、世界の歌姫テイラー・スウィフト。若干25歳の彼女に与えられた才能は12歳のときに覚えた作詞・作曲だけに留まらない。SNSを利用したソーシャルメディアマーケティングの手法も、世界一洗練されているのだ。
2014年、テイラー・スウィフトは、いかにソーシャルメディアを使いこなすべきか、世間に知らしめた。その活動の後押しによって、最新アルバム『1989』の第1週売上で自己最高を打ちたて、過去のアルバムも含め同期間にミリオンセラーを3度達成した唯一のアーティストとなったからだ。
なにしろTwitter、Facebook、YouTube、Tumblr、そしてインスタグラムにおいて、スウィフトのアカウントのフォロワーは、延べ1億4,000万以上。まさに「ソーシャルモンスター」である。しかも、そのソーシャルパワーを生かしたマーケティング手法は、ブランド企業のマーケターにとって、目からうろこのものばかりなのだ。5つの視点で解説しよう。
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#Taylurking ―近況報告だけがすべてではない―
ブランド企業やセレブたちのほとんどが、ソーシャルメディアで発信しているのは、自らの近況や宣伝のことばかりだ。しかし、テイラー・スウィフトは違う。ミレニアル世代(アメリカにおける10代、20代の若者の総称)が「シェア」という文化のなかで育ってきたことをよく理解しているのだ。
スウィフトのTwitterフィードを例にとってみよう。そこには、#Taylurkingというハッシュタグで投稿された、彼女の歌をカバーした名も知れぬアーティストや、彼女の歌を使用したウエディングビデオ、さらにファンによる多くのコラージュ画像などの「リツイート」で埋め尽くされている。
また、Tumblrでは、ファンの投稿に対して、常にコメントし続けている彼女。去年のクリスマスには、ランダムにファンをピックアップしてプレゼントを贈るというイベントも試みた。言うまでもないが、その活動の様子はYouTubeで公開され、1,700万回以上再生されている。
#愛おしいもの ―ファンを友達のように扱うべし―
エンタメ情報メディアVulture.comの記者リンジー・ウェーバーは、次のようなことを記事に書いている。「テイラーは、SNSでやるべきことを理解し、楽しんでいる。ファンを友達のように扱えば、彼らがサポートしてくれるようになることを十分に知っているのだ」。
たとえば、2014年から運用を開始した、スウィフトのTumblrアカウントがいい例だ。ファンがコラージュのGIF画像を作成できるよう、あえてファニーな画像やGIF動画を投稿している。
このフランクさによって、一部の冷笑的なインターネットの住人からは、攻撃を受けるかもしれない。しかし、そういったネガティブな反応を受け入れれば受け入れるほど、彼女の人気は増すものだ。もしブランド企業がユーモアを受け入れて、あえてツッコミどころを用意したら、ソーシャル・メディアで成功できる可能性は高い。
#トレンドを生み出せ ―重大発表をSNSで行おう―
2015年、グラミー賞はノミネート候補者を発表するためにTwitterを活用した。また、米Netflixのリード・ヘイスティングスCEOは、自社の株価を引き上げる重大発表をFacebookで行っている。
同様にテイラー・スウィフトも、2014年8月、アルバム『1989』のリリース2カ月前に、インスタグラム経由でちょっとしたプロモーションを行った。アルバムに収録される曲の歌詞の一部を手書きで披露し始めたのだ。
最初の投稿こそノートへの書き込みであったが、この投稿はどんどんエスカレート。リリース当日の17時間前には、自らの太ももに貼ったバンドエイドに歌詞を書き込むところまで発展した。なお、このスウィフトの投稿は65万の「いいね!」および、11,471件のコメントを獲得している。
#1989lyricsというハッシュタグで開始された、このプロモーション。興味をもったファンは、次はどんな内容の歌詞が、どんな方法で披露されるのか、追い続けたくなるような仕組みをもっている。
また、そんなスウィフトの投稿に追従して、『1989』の歌詞でオリジナル画像を作るファンも続出した。2014年10月のアルバム発売までに、#1989lyricsへ投稿された作品数は、累計13,755件。その先の拡散数のことも考えると、バイラルプロモーションの成功例としてはモンスター級といっても過言ではないだろう。しかも、コストはほとんどかかっていないのだ。
#猫成分 ―おそらくブランドには猫が必要だw―
可愛らしい猫の投稿が、ウイルス性のパワーを持つことは否定できない。猫はソーシャルメディアのなかでも特に人気の動物で、テイラーもその恩恵にあずかっている。飼い猫の散歩をするときや、猫のための買い物をするとき、また自宅周辺に生息するかわいい猫に出会ったとき、おそらく意図的にその強大なパワーを利用しているのだろう。
猫と一緒のテイラー・スイフトの写真と、それ以外の彼女の写真、どちらに価値があるか、パパラッチに聞いてみるといい。彼女の飼い猫であるオリビアとメレディスの情報は、ファンの間で広く知れ渡っている。そうした猫成分がまた、テイラー・スウィフトのブランド勢力を拡大しているのだ。
#SNSはすべて異なる ―プラットフォームの差異を学べ―
Twitter、Tumblr、Facebook。それぞれのユーザーは、まったく異なる。それはもはや自明の理なのに、いまだブランド企業のアカウントでは、同じコンテンツを使いまわすようなクロスプロモーションが、繰り返し行われているのだ。
リーソスがないのは理解できる。SNS運用は、それなりにコストがかかるものだ。しかし、あえてそこを押し通し、それぞれのサービスに特化したソーシャルチームを用意すれば、予想以上の効果を期待できるはずだ。
もちろん、我々はスウィフトのように、数百万ものフォロワーを抱えているわけではない。しかし、フォロワーはフォローしたアカウントに対して、少なからず関心を抱いているはずだ。そうでなければ、フォローしない。そんな彼らを信頼するのも、大切なことだろう。
テイラー・スウィフトは、それぞれのソーシャルサービスに合わせた形で、ファンと交流するためのユニークな方法を常に探している。サービスごとに異なった戦略的を立て、その場に特化されたファンと深く絡み合うことで、より強固な繋がりを構築しているのだ。
Joshua Swanson(原文 / 訳:岸本実希)
photo from taylorswift.com