ターゲット が開拓する、卸売/小売の新しいパワーバランス:「ネット専業」ブランドの誘致手法

米小売大手ターゲット(Target)が取引条件を刷新し、いわゆるDTC(Direct to Consumer:ネット専業)ブランドに積極的な売り込みをかけており、卸売/小売分野における新たなパワーバランスを体現する存在となっている。

ターゲットは現在、キャスパー(Casper)、ハリーズ(Harry’s)、バークボックス(Barkbox)、クイップ(Quip)、ネイティヴ(Native)など、以前はオンライン販売のみだったブランドの商品を店頭販売している。いずれもオンラインショッパーなら、いや、ソーシャルメディア上でターゲット広告を受け取ったことのある者なら、誰もがひと目でそれとわかる個性を有するブランドだ。これらブランドはまた、一般の店頭よりも低価格での日用品の提供を謳っている。彼らはそれぞれ固定客を掴んでおり、DTC戦略のおかげで、ファーストパーティの顧客データを有している。

こうしたブランドは、デジタル市場への足がかりが欲しいターゲットにしてみれば、魅力にほかならない。かたやデジタルブランド勢も、FacebookとGoogleの広告費が上昇し、オンライン業界の成長率が下がるなか、ブランドアウェアネスと顧客獲得数を上げるために、新たな小売店を必要としている。彼らはまた、現金流入も必要としている。たとえば、ターゲットは2017年、キャスパーに7000万ドル(約78億円)を投資した。ターゲットの広報担当によれば、同社は全カテゴリーにおいて、店舗に置くべき新たなデジタルブランドを「積極的に」探している。

「DTC販売におけるカニバリゼーション(共食い現象)の存在は疑いようのない事実であり、現在はそれがターゲットで起きている。ただ、これは我々のあずかり知らない問題だ――我々の望みは、消費者が買い物をしたい場所にいること、それに尽きる。そして現在、ターゲットにおける我々の販売シェアは、商品棚に占める割合よりも大きい」と、ネイティヴ・デオドラント(Native Deodorant)のCEO、モイツ・アリ氏は語る。同社は現在、ターゲットの店舗とTarget.comで販売を行なっている。

ターゲットやウォルマート(Walmart)、ノードストローム(Nordstrom)といった米小売大手は現在、多くの場合、卸売マージン抜きで起業したデジタルブランドを受け入れるため、既存のルールを書き直している。ノードストロームのマーチャンダイジング部門GMは、グレイツ(Greats)やリフォーメーション(Reformation)といったアパレルブランドに対し、在庫問題をよりスムースに処理するため、「古いルールブックを捨て」、全店での販促義務を課さず、売れ残り品の買い戻しも求めない旨の発言をしている。ウォルマートもかなり強気の姿勢を見せ、メンズアパレルブランド、ボノボズ(Bonobos)の創業者で、デジタルブランドを統括するウォルマートeコマース部門の現トップ、アンディ・ダン氏の下、DTCブランド勢の獲得に向けて積極的に動いている。

ターゲットの場合、DTCとの新たな友好関係の仕組みを理解するには、健康・美容分野を見れば一目瞭然だ。同社の店頭には現在、ハリーズ、クイップ、ネイティブ・デオドラントのほか、ビューティカウンター(Beautycounter)とオアズ&アルプス(Oar+Alps)が並んでいる。キャスパーの枕とは違い、こうしたブランドの商品――カミソリ、歯ブラシ、デオドラント化粧品――は、どれも定期的購入が欠かせないものであり、これはつまり、店舗販売に関するデータを継続的に入手できることを意味する。P&Gやユニリーバ(Unilever)といったCPG(消費財)メーカーが新興デジタルブランドの動向をチェックし、買収に値するか否か見定めているなか(ユニリーバは、ダラー・シェイブ・クラブ[Dollar Shave Club]を、P&Gはネイティブ・デオドラントをそれぞれ買収している)、ターゲットをはじめとする巨大小売店での成功は、そうした商品の高パフォーマンス性と長期的なブランドロイヤルティの明確な指標となっている。

サブスクリプションに関する契約

「DTCビジネスにとって、ターゲットにおける成功事例は、『これが成功例です』と言えるだけのデータを武器に、高い交渉力を持てることを意味する」と、投資会社/デジタルエージェンシーのブリッシュ(Bullish)創業者マイク・デューダ氏は語る。同社はハリーズおよびキャスパーとも業務実績がある。「強力な後ろ盾があるのと同じだ。一方、この点において、ターゲットの動きは実に賢明といえる。ブランドとの協力の仕方に関して、10年前にはおそらくは考えられなかったレベルの柔軟性を備えている」。

デジタルCPGブランドは一般に、少数単位での個別購入ではフルフィルメント費が高く付く商品のリピート購入を確実なものにするために、サブスクリプション制度を導入している。こうしたサブスクリプション商品に関するターゲットの柔軟な姿勢もまた、魅力的なブランドを獲得する同社の巧みな交渉術を示す一例だ。

「サブスクリプションビジネスにとって、[小売販売は]優れた手本になりうる」 と、デジタルエージェンシーのレッド・アントラー(Red Antler)でCEOを務めるJBオズボーン氏は語る。「オンラインチャンネルにデジタルブランドがひしめき合うなか、小売業者とのパートナーシップは実行可能な顧客獲得戦略として、そして有効な低コスト戦略として、今後ますます重要視されるだろう」。

クイップはターゲットで電動歯ブラシのスターターセットの店頭販売を開始した際、ターゲットの顧客を自社サイトに誘導するため、自社サイトにサインアップしなければ、歯ブラシの交換ヘッドを購入できないようにした。ターゲットで入手したコードを使って顧客にアカウントを作らせ、ターゲットには交換ヘッドを販売させず、クイップのサブスクリプション会員にならなければ、ヘッドを注文できないようにしたのである。ただ、この件に詳しいふたつの情報筋によると、ターゲットはクイップになにも、ただで大量のサブスクリプション契約をさせたわけではない。ターゲットは自社店舗での購入から生まれたすべてのサブスクリプション契約について、アフィリエイト収入を受け取っているという。ターゲットとクイップはいずれも、この件に関する詳細を明かしていない。

「小売業者は革新を求めている。彼ら自身もオンライン市場に進出しており、消費者にとってのオンラインブランドの簡便性や価値をめぐる業界の動きも、消費者とどれだけ緊密な関係が築けるかも、よく理解している」と、クイップのCEOで共同創設者のサイモン・イネヴァー氏は語る。「だからこそ、ターゲットは小売業のダイナミクスの変化に関する革新を求めていた。協議が難航したことはないが、機能させるために詰めるべきディテールは数多い。これは必ずしも前例があるものではないし、我々は企業であり、彼らも企業であり、ともに新たな試みにトライしている。今後も適切なバランスをキープしていくよう努めていく。そしてもちろん、その核には、最適なエクスペリエンスの創造がある」。

データの交換

デジタルブランドが従来の卸売ブランドよりも有利な小売契約を結ぶ一方、ターゲットをはじめとする小売大手は、巨大なリーチとフットトラフィックをいわば二束三文で手放している。

髭剃りブランド、ハリーズの場合、ターゲットでの販売開始前に、いくつか協定を結んだ。自社商品――シェービングジェル/ソープ、さまざま剃刀――をパーソナルケア製品売場に散在させるのではなく、消費者の目に付きやすいよう、ハリーズコーナーにまとめて陳列することを求めたのである。サブスクリプションに関しては、あくまでアドオンであり、同社のローンチモデルではなかったが、共同創設者ジェフ・レイダー氏いわく、自らターゲットに働きかけ、ターゲットのサイト上でハリーズのサブスクリプション契約を可能にし、ターゲットの顧客のうち何人がサブスクリプションを求めるのか、より正確に把握できるようにしたという。

「我々がターゲットにそれを促したのは、それに伴うデータが欲しかったからだ。消費者がどこにいても、我々の商品が手に入る状態が望ましいし、同時に最適なエクスペリエンスも創造したい」と、レイダー氏。「ハリーズのサブスクリプションを提供することでターゲットが利益を得るのであれば、全体として、より良いエクスペリエンスが創造できる」。

レイダー氏いわく、ハリーズとターゲットは定期的に顧客データを交換しており、店頭とオンライン双方での売上増を目指している。

巨大フットプリントの構築

小売店進出の狙いは、サブスクリプション増やオンライン顧客増に限らない。ネイティブ・デオドラントの場合、サブスクリプション契約はあくまで自社サイト上に限定し、ターゲットのサイトではサインアップさせていない。その代わり、同社はポジショニングに関して協議した――通路の入り口/出口に、自社専用の小売スペースを設け、商品と同じように、縦向きのロゴを前面に出すことを求めたのである。アリ氏いわく、ターゲットにおけるネイティブの売上は伸びており、それに比例して店内の小売スペースも広がっているという。

もっとも、アリ氏はネイティブを今後、チャンネル非依存型として確立していくために、ターゲットの顧客をサブスクリプション経由で自社サイトに呼び込みたい、とは考えていない。同社は近年、リテール分野におけるフットプリントも拡大しており、ウォルマート3000店で販売を開始している。

「ブランドを確立していく方法について、あえて限定はしたくない。オンラインでも店舗でも、常に販売が生じる状態にしていく。5年後、売上の6割をオンラインに、4割を卸売にする、というようなことは言いたくないし、これまでもその信念に基づいてやってきた。オンラインと店舗の割合は、あくまでも顧客に決めてもらいたい」。ネイティブはチャンネルごとの収益の内訳を明かしていない。

新興デジタルブランドとの提携を進めるなか、ターゲットは今後、確固たるブランドイメージと既存客を有するブランドとのあいだに、より個別化したマーチャンダイジング契約を結ぶ必要性に迫られることになる。ただし、デジタルブランドはオンラインではリーチできない顧客に届けるための小売流通を必要としている。

「ハリーズの商品をターゲットの店舗で購入してくれた人々は、ハリーズの評判は以前から聞いていたが、オンラインでは買いたくないと思っていたことが、ターゲットと提携してはじめてわかった」と、レイダー氏。「そうした顧客は、我々にとって、漸増要因にほかならない。我々がリーチできなかっただけで、彼らはもともとハリーズに興味を持っていたのだから」。

世界中どこにでもオンラインでリーチできると、そして、小売業の未来はデジタルだと思い込んでいたブランドにとっては、目からウロコの事実だろう。

「DTCブランドが勝利するには、必ずしもDTCにこだわる必要はないし、ターゲットが勝利するには、DTCブランドの受け入れも有効な一手になる」と、デューダ氏は語る。

HILARY MILNES(原文 / 訳:SI Japan)