広告なしでエンターテインメントを楽しむことが容易になっている現在、TVやストリーミングプラットフォーム向けのコンテンツで、消費者の関心を引こうとするブランド企業が多く見られている。ペプシ(Pepsi)やアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)などがそうだ。
ペプシ(Pepsi)はバイアコムCBS(ViacomCBS)と提携し、新フレーバーであるペプシ・マンゴー(Pepsi Mango)のプロモーションを目的とした、新しいリアリティデート番組を2021年4月からスタートさせる。番組の詳細はいまのところ不明だが、ペプシは最近、こうしたブランデッドエンターテインメントに力を注いでいる。同社はすでに、テレビ番組『チェリーズ・ワイルド(Cherries Wild)』や、映画『アンクル・ドリュー(Uncle Drew)』などでも消費者へのリーチを伸ばす戦略を展開中だ。
「メディアの分散化が進み、広告を飛ばして必要なコンテンツだけを見ようとする消費者が増えたとはいえ、広告にはまだ役割が残されていると思う」と、ペプシのマーケティング担当 バイスプレジデントを務めるトッド・カプラン氏は語る。同氏は、新番組が新しいフレーバーのプロモーション戦略のひとつに過ぎないことを強調したうえで、次のように付け加えた。「とはいえ、消費者とのエンゲージメントを強化しより深くつながるためには、彼らに寄り添った方法で語りかける必要がある」。
広告なしでエンターテインメントを楽しむことが容易になっている現在、テレビやストリーミングプラットフォーム向けのコンテンツで、消費者の関心を引くマーケティングアプローチを選ぶ企業はペプシだけではない。
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たとえばアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)は、俳優/コメディアンのリル・レル・ハウリーが司会を務める新番組『ノット・ア・スポーツ・ショー(Not A Sports Show)』を、新たなストリーミングプラットフォームのフィクト(Ficto)で放送予定だ。また、玩具メーカーのマテル(Mattel)は、リアリティコンテスト番組の『バービー・ファッション・バトル(Barbie Fashion Battle)』を制作中。ショッピファイ(Shopfy)も、Disney+(ディズニープラス)で新たなドキュメンタリー番組『オウン・ザ・ルーム(Own the Room)』を放送中だ。さらにナイキ(Nike)は、ドキュメンタリー番組『ザ・デイ・スポーツ・ストゥッド・スティル(The Day Sports Stood Still)』を、2021年3月末からHBOマックス(HBO Max)で放送開始するなど、多くの企業が同様のアプローチを展開している。
変化するブランデッドエンターテインメント
こうしたブランドが目指すゴールは、消費者が見ているエンターテインメントを広告で邪魔することではなく、広告そのもので消費者を楽しませながら、ブランドの魅力を伝えることにある。マーケターが、広告とエンターテインメントの融合を図るのは目新しい手法ではなく、いわゆるソープオペラ(日本の昼ドラのような番組)も、そもそもはP&G(Procter & Gamble)がスポンサーとなって生まれたものだ。もちろん、その手法には変化が見られている。最近では、短編映画やAR(拡張現実)を打ち出した、ブランデッドエンターテインメントが見られている。また、ストリーミングや無広告コンテンツが一般化しつつある現在、マーケターたちはテレビ番組や映画で、長尺のストーリーを伝える方向にシフトしはじめている、と複数のエージェンシー幹部も指摘している。
マーケティング支援や投資ビジネスを展開するグループ企業、ホイールハウス(Wheelhouse)のCMOで、ホイールハウス・ラボ(Wheelhouse Labs)のプレジデントを務めるダン・サンボーン氏は、こうした動向を次のように分析する。「消費者は、互いに差別化を図ろうとしのぎを削るストリーミングプラットフォームを、自由に選ぶことができる。おうち時間を楽しみたい消費者にブランドがリーチしたいなら、リニアテレビだけではなく、ディスカバリーが提供するディスカバリープラス(Discovery+)といった、オンデマンドプラットフォームでの番組提供も考える必要がある。このシフトは今後も続くはずで、コミュニケーション戦略を見直すブランドが出てくるだろう」。
同氏はさらに次のように続けている。「ストリーミングサービスの出現によりクリエイターの数も増え、ブランドからのコンテンツ制作のニーズは、これまで以上に高まっているし、今後も高まり続けるだろう」。
「ストーリーとコンテンツを優先せよ」
こうした状況が続けば、より多くのマーケターが、コンテンツ制作に積極的になることが予想される。その際、「30秒のスポット広告を長編化」するのではなく、適切なストーリーを伝えることを重視するべきだ、と指摘するのは、TBWA\シャイアット\デイ・ロサンゼルス(TBWA\Chiat\Day Los Angeles)のクリエイティブ&コンテンツグローバルディレクターを務める、セオドア・アルヒオ氏だ。
ハイブリッドクリエイティブスタジオ、キャヴィアート(Caveat)の共同創業者で、チーフクリエイティブのエヴァン・スレイター氏もこれに賛同する。「視聴しているコンテンツが、ブランデッドエンターテインメントかどうかを気にする消費者はいない」と述べ、大切なのは見たいと思わせるコンテンツを作ることだ、と付け加える。同社は先頃、電子機器メーカーのビューソニック(ViewSonic)のために、シットコム風コンテンツ『ザ・フィンチャーズ(The Finchers)』を制作したばかりだ。「効果は上々で、エンターテインメントとして楽しませながら、消費者の関心も大いに引くことができている」とスレイター氏は説明する。
多くのマーケターが、エンターテインメントと広告の融合を図るなか、エージェンシー幹部や業界ウォッチャーが揃って指摘するのは、紋切り型のマーケティングメッセージよりも、人びとに求められるストーリーとコンテンツを優先せよ、という点だ。TV番組やドキュメンタリー、映画はブランド構築を目指すマーケターにとって依然として効果的なツールなのだ。
「広告とは、何を買うべきかを伝えるもの。そしてコンテンツとは、ブランドが何を象徴するかを伝えるもの。コンテンツは、ブランド構築のツールだ」とアルヒオ氏はまとめた。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)