オンラインで産声をあげ、ソーシャルメディアマーケティングに依存するネット直販(direct-to-consumer:以下、D2C)ブランドにとって、顧客の獲得にかかるコストの上昇(とくにFacebookとGoogle)は、彼らがいま直面している最大の問題のひとつだ。
オンラインで産声をあげ、ソーシャルメディアマーケティングに依存するネット直販(direct-to-consumer:以下、D2C)ブランドにとって、顧客の獲得にかかるコストの上昇(とくにFacebookとGoogle)は、彼らがいま直面している最大の問題のひとつだ。
アイウェアブランドのワービー・パーカー(Warby Parker)や、ソックスメーカーのボンバス(Bombas)をはじめとする初期のD2Cブランドは、デジタル広告を介して顧客を獲得することにより、あっという間にスケールアップに成功した。その結果、FacebookとGoogleは、ほぼすべての若いD2Cブランドが広告に費やせる資金を手にするやいなや最初に立ち寄るプラットフォームとなった。FacebookとGoogleに出稿するブランドが増えれば、それだけ広告費は高くなる。たとえば、マーケティングソフトウェア企業のアドステージ(Adstage)が行った自社のFacebookインプレッションデータの分析によれば、Facebookニュースフィード広告のCPC(クリック単価)の平均は、0.43ドル(2018年第2四半期)から0.64ドル(2019年第2四半期)へと上昇している。
しかし、D2Cブランドが直面している顧客獲得に関する課題は、コストだけにとどまらない。たしかに、FacebookもGoogleも顧客獲得に割高な手段かもしれない。しかし、そのスケールゆえに、D2Cブランドがこれらプラットフォームの使用を完全にやめることはできない。したがって、ブランドが新たなマーケティングに投資するには、ただ単に安価なだけではダメだ。そのチャネルは同時に、FacebookとGoogleによる複占が一般的に苦闘する何かにおいて優れていなければならないのだ。その何かとは、顧客が事前にクリックしたどんなウェブサイトよりも、彼らの関心と深く結びついている商品の発見を顧客に促すことかもしれない。あるいは、単に誰がクリックしたのかではなく、広告がどのくらいアフェクティブ(感情的)なのかを判断するための指標を与えることかもしれない。
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「これは、D2Cが今後直面するシステミックな(全体に影響を及ぼす)問題だ」と語るのは、先日一般公開されたショッピングアプリ「Mavely」の共同創業者でCEOのエバン・レイ氏だ。「その結果、これらさまざまな企業はどこもいま、顧客獲得のための別のアウトレットを探している」。
新しい顧客獲得プラットフォーム
今日の成長の早いD2Cスタートアップ各社は、ピンタレスト(Pinterest)やさまざまなストリーミングサービスなどのプラットフォームから、なぜそこが顧客獲得に優れた場所なのか(そして安価なのか)といった売り込みを耳にすることになるだろう。新たなスタートアップの登場は途切れることがない。「マベリー(Mavely)」や「ベリショップ(Verishop)」などのショッピングアプリや、DTXカンパニー(DTX Company)などのマーケティング企業はいま、これらスタートアップに売り込みをかけている。その内容は、たとえば、もっと安価に顧客を獲得できる、従来型のソーシャルや検索ベースのデジタルチャネルではリーチできない顧客にリーチできるといったものだ。
マベリーがブランドに向けて発信するメインピッチの中心にあるのは、顧客獲得にかかるコストの安さだ。ベッドシーツブランドのブルックリネン(Brooklinen)やビタミンブランドのリチュアル(Ritual)、イタリアンシューズブランドのエムジェミ(M. Gemi)をはじめとする約100社のブランドが現在、マベリーで商品を販売している。マベリーは、各購入からアフィリエイト手数料を取ることで収入を得ている。レイ氏によれば、テスト段階では、ブランド各社はインスタグラム(Instagram)よりも約3分の1~2分の1少ないコストで顧客を獲得できていたという。
またマベリーは、そこが新規顧客に口コミでリーチできるようにデザインされたプラットフォームであることもブランド各社に売り込もうとしている。GoogleやFacebookの広告で顧客に畳みかけることでは、それは達成できるものではない。ユーザーは、家族や友人をマベリーに招待すれば、彼らの購入から5%の還元が受けられる。
あるブランドの顧客がその後、自分とセンスが似ていることがわかっている人たちのおすすめにもとづいて、別のブランドの商品を見つけられること。マベリーが期待しているのは、まさにこれなのだ。
D2C専門のショッピングセンター
一方、他ブランドの「おこぼれ」に可能性を見出しているD2Cブランドもある。デジタル広告を通してリーチできる、共通点のないユーザーで構成されるグループに比べると、こうした顧客のほうが彼らから買う確率が高く、ロイヤルティも高いに違いないと確信しているからだ。
ハイテクマットレスブランド、エイトスリープ(Eight Sleep)の共同創業者で、ブランド/マーケティング部門のバイスプレジデントであるアレクサンドラ・ザタライン氏は、同ブランドが実店舗第1号のオープンを決断したとき、D2Cブランドを集めたショッピングセンターであるショーフィールズ(Showfields)にスペースをオープンすることにしたと述べる。その理由は、同じような発見に目を向けるほかのブランドからのトラフィックを獲得できる場所に出店したかったからだ。エイトスリープがショーフィールズに出店して4カ月が経つが、これまでに獲得したビジターの約3分の2は、他ブランドのスペースをチェックするために訪れた人々や、ショーフィールズのコンセプトに引き寄せられて訪れた人々だという。
「エイトスリープのようなブランドにとって、これは大きい。我々にはまだ、自社店舗へのこうしたトラフィックを支えられるだけの予算はない」と、ザタライン氏は語る。したがって、エイトスリープはさらなるマーケティングパートナーシップの確立や、さまざまなブランドが集う小売スペースでの販売に関心を抱いているという。こうしたスペースで、エイトスリープのユーザー属性と類似する、ほかのブランドの既存の顧客を新規の顧客として獲得できると、同ブランドは考えているのだ。
アトリビューションも大きな課題
ほかのマーケティングチャネルに目を向けるブランドが考慮すべきもうひとつのポイントは、新たな広告チャネルからどのような指標が得られるのかということだ。FacebookやGoogleなどのクリックベースのアトリビューションチャネルで成長することが習慣化しているブランド各社は、何人が彼らの広告を見て、最終的に彼らの商品を買ったと思われるのかを正確に把握できるプラットフォームを介して出稿することに慣れている。しかし、D2Cブランドはいま、クリックベースのアトリビューションは、顧客が購入前に商品の情報へ触れた可能性がある、ほかのすべての場所を説明するのに十分な働きをしていないと、次第に思いはじめている。
これをきっかけとして、DTXカンパニーは新たなテクノロジープラットフォーム「アンボックス(Unbox)」をD2Cブランドに売り込むようになった。このプラットフォームは、テレビやダイレクトメールカタログなどの従来型チャネルが持つ価値に対する理解を深め、それに基づいてマーケティングを行うことに役立つとしている。DTXカンパニーは年内に、カンファレンスやフットボールの試合などのイベントで、オフラインアクティベーションを開始することになっている。これらのイベント会場で、顧客はQRコードをスキャンして商品を買うことができる。顧客はブランドのウェブサイトへ誘導され、これによって、同社は顧客がブランドとどのように相互作用しているのかに対する理解を深められる。
DTXカンパニーでCRO(最高売上責任者)を務めるジム・ノートン氏は、現在「20から30」のブランドがテストモードでアンボックスを使用していると述べる。「アパレル企業のインホームカタログの成功例や、ビタミンやヘルス/ビューティ商品のサブスクリプションの屋外広告キャンペーンの成功例に関するインサイトを共有」できるだけのデータもすでに集まっているという。
TOFU型のプラットフォーム
とりわけ成長中のD2Cブランドは、クリックベースのデータ以外の指標に目を向けることにますます関心を抱きつつある。グラビティプロダクツ(Gravity Products)でデジタルマーケティング/グロース部門のディレクターを務めるカラリン・ザモラ氏は、グラビティプロダクツの製品ラインが拡大するにしたがって(同社は単一製品「グラビティブランケット[Gravity Blanket]」でスタートしたが、現在は枕やスリープマスクも販売している)、同氏のチームは、顧客獲得の成功を示すひとつの指標として、生涯価値(LTV)を綿密に追跡してきたと、メールのなかで述べている。またグラビティは現在、マーケティングキャンペーンの効果の追跡にあたって、CPA(cost-per-action)ではなく、ROAS(広告費用対効果)への依存度を高めている。
こうしたことから、それをバリュープロポジションとして売り込むTOFU(トップ・オブ・ザ・ファネル)型のプラットフォームが増えている。ピンタレストもそのひとつだ。D2Cブランドを扱うピンタレスト販売チームを率いるケイティ・ドンブロウスキ氏は先日、D2Cブランドはピンタレストで顧客生涯価値を高めることができると確信していると、モダンリテール(Modern Retail)に先日語った。その理由は、ほかのプラットフォームと比べると、ピンタレストを訪れる顧客は購入意図を持っているからだという。D2Cブランドのマーケティング費を獲得しようとするプラットフォームが増えれば増えるほど、プラットフォーム各社は、ブランド各社がそこで獲得する顧客の価値が、これまでの主流だったFacebookやGoogleで獲得するそれよりも価値があることを説明すべく、ピッチに磨きをかける必要がある。
「多くのブランドが悪戦苦闘していることのひとつは、生涯価値を生み出さない、速くて安価な顧客獲得だと思う」と、DTXカンパニーのノートン氏は述べている。
Anna Hensel (原文 / 訳:ガリレオ)