ストリートウェアが口火となったマーケティング戦略のひとつに「ドロップモデル」がある。これは新しい限定商品を素早くリリースするという手法だ。ストリートウェアがはじめてすぐに、他のファッションブランドたちも採用しはじめた。いまやこのトレンドは、ラグジュアリーブランドやストリートウェアブランド以外にも飛び火している。
ストリートウェアの台頭によって盛んになったマーケティング戦略のひとつに「ドロップモデル」がある。これは新しい限定商品を素早くリリースするという手法だ。ストリートウェアがはじめてすぐに、他のファッションブランドたちも採用しはじめた。いまではこのトレンドは、ラグジュアリーブランドやストリートウェアブランド以外にも飛び火している。
ファーストフード大手のシェイクシャック(Shake Shack)からサブスクリプション制の歯ブラシ配送ビジネス、クイップ(Quip)に至るまで、さまざまなカテゴリーの企業がドロップモデルを採用している。新しいアイテムをソーシャル上でローンチし、すぐに売り切れになることを期待しているのだ。限定リリースは、ソーシャル上の話題という形で、マーケティングの盛り上がりを作ることができる文化的現象として成立している、というのが彼らの思考だ。
「ドロップ文化は消費者の購買心理のなかに染み込んでいる」と語ったのは、PMXエージェンシー(PMX Agency)の共同CEOでありファウンダーであるクリス・パラディス氏だ。「ドロップは最初はスニーカーとファッションではじまった。人々が持つ情熱に『熱狂』を加えた。消費者向けブランドにも採用されたのは最近の現象だ」。
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飲食業界での採用が活発
シェイクシャックは、ドロップモデルをアプリのインストール誘導に活用している。プライドシェイクやチリバーガーといった新しい6種のアイテムのローンチ、そしてホット・チキン・サンドイッチの再販売の際にアプリを使ったのだ。デジタル・顧客体験部門ディレクターであるアビー・レイダー氏によると、新アイテムのドロップのたびに「非常に高い」アプリのインストール数を観測しており、ソーシャルメディア上でのエンゲージメントも高くなるという。また売上の大部分を占めるレストランでの販売に導入する前に、新アイテムをテストする手段としても機能していると、レイダー氏は言う。
Hot off the press: We’re bringin’ Hot Chick’n back (+ you can get it hotter than ever)! 🙌 Our spiciest menu addition (a crispy chicken breast dusted with guajillo + cayenne pepper, topped with slaw + pickles) lands exclusively on the app on 9/17. Let the countdown begin…🔥 pic.twitter.com/YrhvLDcLYX
— SHAKE SHACK (@shakeshack) 2018年9月10日
タコスチェーンのドストロス(Dos Toros)も似たような方法でドロップモデルを活用している。賞金がもらえるクイズアプリ「HQトリビア」のリアルタイムなエンゲージメントにインスピレーションを受けた形で、アプリ「ブリトータイム(Burrito Time)」を8月にローンチし、通知を受け取って最初にアプリを開いたユーザー10人に無料でブリトーを提供するキャンペーンを開始した。1000個ほどのブリトーをニューヨークとシカゴの18のロケーションにおいて無料で配布したあと、10月第1週に同社はこのキャンペーンを終了した。
ドストロスとこのキャンペーンに取り組んだ、ミスチフ(Mschf)の戦略・ディストリビューション部門ディレクター、ダニエル・グリーンバーグ氏によると、このアプリはドストロスの完全版アプリをローンチする前に、彼らが十分な話題性を生むことができるかどうかのテストとして機能したとのこと。アプリは1万回ダウンロードされ、キャンペーンが終わった現在でも数千人がアプリをスマートフォン上でキープしているとのこと。アプリをリワードプログラムで盛り上げるという手法は、他のファーストフードとレストランブランドも採用してきた。この分野で競争するために、さまざまな支払いオプションやデリバリーオプションを揃え、自社データをもっと入手しようという考えだ。
「非常に自然なやり方だ」
サブスクリプションでシンプルな電動歯ブラシを定期的に受け取れる歯ブラシビジネス、クイップ(Quip)の場合は、インスタグラム(Instagram)にその話題の場を見つけた。ここ数カ月のあいだに彼らは、3つの特別版歯ブラシをローンチしている。
クイップにとって、ドロップモデルは、他社とパートナー関係を結び、限定アイテムを生み出すチャンスだ。チャリティ団体とのコラボレーションとなった金色の歯ブラシもすでにリリースされた。HIV関連の非営利団体REDとのコラボレーションでは、濃い赤色のアイテムを出している。
「定期的なリズムに乗ってきた。ユーザーからのフィードバックは常に欲しいし、それによってすぐにユーザーについて測定をする。アイテムをドロップするのは非常に自然だ」と、クイップのブランドマネージャーであるエリオット・フライアー氏は言う。
ネガティブな見方
しかしドロップモデルには課題がないわけではない。このモデルの成功・失敗を測る指標は話題性であるため、アイテムを限定にすることに意味があるわけだが、関係者のなかには限定になどせずに、とにかく最大限売り上げるほうが良いのでは、と考える者もいる。
「我々がこれまで直面してきた課題のひとつは、アプリでのローンチに向けてプロダクトがちゃんと確保できるよう、内部で調整を確実にする点だ。これは全力で、アプリとレストラン両方でプロダクトを展開するのとは違う。後者の方が売上は大きくなる」と、シェイク・シャックのレイダー氏は言った。
テクノロジー面でもトラブルになることがある。ドストロスのアプリの場合、彼らが予想していたよりも多くのユーザーが通知を受けてアプリを開いてしまう、という状態を経験した。
グリーンバーグ氏はこの戦略が通用しないプロダクトもある、と指摘する。彼によると、プロダクトが高すぎず、簡単に配布・販売することができる場合にだけ、ドロップモデルは容易に活用することができるとのことだ。食品会社が特にドロップモデルに食いついているのはそれが要因だろう。「BMWやアウディをドロップすることはできない」と彼は言った。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)