アメリカのファッション協議会は、自身のサプライチェーンを公に知らしめるため、そのデザイナーの広大なネットワークへの働きかけを行っている。新製品をもっと頻繁に欲しい、そしてもっと環境に優しいファッションがほしいという願望をもつ顧客に直面しているデザイナーたちは、生産サイクルを考えることが求められている。
アメリカのファッション協議会、CFDA(The Council of Fashion Designers of America)は、自身のサプライチェーンを公に知らしめるため、そのデザイナーの広大なネットワークへの働きかけを行っている。
CFDAのCEOスティーブン・コルブ氏によると、ここ10年にふたつの問題が表面化し、デザイナーが顧客の行動に対応するうえで大きな変化を引き起こしているという。その問題のひとつは顧客の行動に合致したよりスピーディな生産サイクル、そしてもうひとつは昨今流行のワードである「サステイナビリティ(持続可能性)」に対する重要度が増していることだ。
CFDAはこのふたつの問題に対して根本から取り組むため、レクサス(Lexus)やDHLといったパートナーの協力のもと、サプライチェーンにリソースをつぎ込んでいる。CFDAの公式の物流パートナーであるDHLと共同で行った最近の調査によると、これまでのサプライチェーンや生産サイクルはサイロ化され、効率を損ねてしまっているという。顧客の変化に対応しようとする新しいデザイナーや知名度の高いブランドが前に進むためには、メーカーとの関係性を強め、データを理解し、顧客の行動に合わせて生産サイクルを調整し、また透明性を向上させることでサプライチェーンを抜本的に見直すことが必要だ。
Advertisement
「私たちは新しい生産サイクルを推し進めている」と、コルブ氏は語る。「数多くのデザイナーが効率の悪いサプライチェーンに起因する問題に対して行っていることは、空回りしている。サプライチェーンの最初から最後までを調整する方法を見出せないためだ。これはひと晩で変えられるようなものではない。だが、私たちは計画を進めている」。
新製品をもっと頻繁に欲しい、そしてもっと環境に優しいファッションがほしいという、ふたつの願望をもつ顧客に直面しているデザイナーたちは、顧客に対応するブランドの一部として生産サイクルを考えることが求められている。
戦略的なサプライチェーン
エバーレーン(Everlane)やアメリカンジャイアント(American Giant)のようなスタートアップは、昨今ファッション業界で話題となっている透明性の向上のための手助けを行っている。彼らは価格決定モデルやサプライチェーンのパートナーを公にしているが、その狙いは、小売業界内におけるサステイナビリティの将来を見据えて意識の強い顧客を囲い込み、ついてきてもらうところにある。H&Mやザラ(Zara)、そしてギャップ(Gap Inc.)などの巨大企業も同じような動きを見せており、ファスト・ファッションブランドとして透明性やサステイナビリティを高めていると主張することで、異議を唱える者を寄せつけないようにしている。
高級ブランドのデザイナーにまでこの動きが広まるには少し時間がかかっているようだ。
「高級品はある意味、こうしたオープンなものとは相反するものだ。デザイナーたちは秘密にしたがっている」とコルブ氏。「彼らは自分のやり方をほんの少し変えることさえも恐れている。なぜなら、すべてを変えないことについて批判されてしまうからだ。私たちの理念は、一歩ずつ、少しずつ変えていきながら、どうなるかを見ていくというやり方だ」。
CFDAは、顧客の行動に一層合致した生産サイクルを提唱している。これは、昨今の顧客が求めていることの多くは、管理の行き届いたサプライチェーンによって実現できるためだ。ブランドのいくつかは、すでにこうした顧客の変化に対応しはじめている。デザイナーのマラ・ホフマン氏は、リードタイムを短縮するために、地元のメーカーを多く使うように生産サイクルを再編成した。ケリング(Kering)やLVMHのような高級品を扱う複合企業は、ブランド間での生産サイクルを短くする狙いだ。
「私たちは、デザイナーとの環境を構築しようとしている。顧客の期待がどのように変化してきているか、顧客が何を意識しているか、そして、どうやって顧客の期待通りに(商品を)届けるかにかかっている」と、CFDAのマーケティング部門のバイスプレジデント、マーク・ベッカム氏は語る。「これは、これらすべてに通じるマクロトレンドである共有経済、透明性、即時性の問題だ。ひとりのデザイナーがそれをうまく成し遂げれば、いわゆるハロー効果を生み出すだろう」。
重要度を増す「サステイナビリティ」
スタジオ189(Studio One Eighty Nine)の共同創設者のアブリマ・アーウィア氏は、彼女の手作りのファッション商品のラインナップやデザイナーのプラットフォームに4年間取り組んできた。きっかけは知人からの情報で、CFDAやレクサスが大規模な効率的な生産サイクルの推進のためにファッションイニシアチブへの参画者を探しており、教育や指導のセッションや、大規模な生産サイクルを効率的に運用するためのネットワークの構築や技術リソースを9カ月にわたって網羅する、サステイナビリティプログラムがあったことだ。
「私たちがやりたかったのは、さまざまな異なるものの関係性を理解し、人々が共感できるようなクリエイティブなファッションを通じて、コミュニティ同士の架け橋となるようなバリューチェーンを構築することだった」と、アーウィア氏は語る。「だが、世界的なネットワークへのアクセスなしには、顧客にリーチすることはできない。私たちは、アクセシビリティ、スケーラビリティのない、ただちょっとかっこいいアイデアであってはならない。サステイナビリティの高いファッションであっても、誰も買わなければ何の意味もない。私たちがもっとも優先しているのは、スケーラビリティがありサステイナビリティの高い商品を作ることだ」。
レクサスはCFDAとともに、過去8年にわたってサステイナビリティの向上に取り組んできた。そしてこれは、主催してきたファッションイニシアチブの次なるプログラムだ。レクサスのクリエイティブプログラミングとパートナーシップのトップを務めるレイチェル・エスパーソン氏によると、デザイナーは、クローズドループの生産サイクル、労働慣行の改善、またはオーガニックな原料への移行など、それぞれの優先度にもとづいてカスタマイズされたビジネスプランを得て、そのプログラムを修了するという。
このプログラムには、近年の生産サイクルに適応できる新しいデザイナーたちを、彼らがまだ初期段階のうちに確立するという目的がある。CFDAによると、このプログラムの期間中に学んだことを活かして、既存のブランドへの適用方法を見つけ出すつもりだという。
「ファッションと小売業界が変わっていくうえで、サプライチェーンは非常に重要だ」と、デザインやイノベーションに関するコンサルティングを世界的に行うフィヨルド(Fjord)のビジネスデザイン部門を率いるクラウディア・ゴーリック氏は語る。「デジタル化が業界に影響を与え続けるにつれて、デザイナーは、サプライチェーンを企業戦略やブランド構築における重要な要素として捉え、また、その過程ではサプライヤーやパートナーに協力的で、関係性に重きをおいた姿勢を取る必要がある」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac)
Photo from Shutterstock