毎年恒例、アメリカンフットボールの王者を決める「スーパーボウル」といえば、巨額の広告費が動くイベントとして知られている。2013年のスーパーボウルでは、その後「あのときのオレオの広告」と語り継がれる伝説の広告ツイートが配信された。
全米のフットボールファンが固唾をのんで試合を見守る中、まさかの停電が発生。クッキーブランドのオレオは、すかさず、「停電中でもダンクできます」という画像ツイートを投稿した。
不測の停電に乗じ、絶妙なタイミングで機智に富んだ広告ツイートを打つことができたのは、オレオの広告チームが、「スーパーボウル特別司令室」を配し、クリエイティブスタッフを待機させていたからだ。
毎年恒例、アメリカンフットボールの王者を決める「スーパーボウル」といえば、巨額の広告費が動くイベントとして知られている。
そんななか、かつて、2013年のスーパーボウルでは、「あのときのオレオの広告」と語り継がれるほど伝説となった、広告ツイートが配信された。
そのとき、全米のフットボールファンが固唾を呑んで試合を見守るなか、まさかの停電が発生。クッキーブランドのオレオは、すかさず「停電中でもダンクできます」という画像ツイートを投稿したのだ。
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不測の停電に乗じ、絶妙なタイミングで機智に富んだ広告ツイートを打つことができたのは、オレオの広告チームが、「スーパーボウル特別司令室」を配し、クリエイティブスタッフを待機させていたからだという。
Power out? No problem. pic.twitter.com/dnQ7pOgC
— Oreo Cookie (@Oreo) 2013, 2月 4
Dark(停電で真っ暗)とDunk(クッキーをミルクに浸して食べる = いわゆるオレオの「正しい」食べ方)を引っ掛けたシャレ。
「リアルタイムマーケティング」旋風
スーパーボウルでのオレオのツイートは、空前のヒットとなり、業界に「リアルタイムマーケティング」旋風を引き起こした。ブランド企業のマーケターたちは、こぞって大きなイベントに合わせたソーシャルメディア臨戦態勢を敷いた。
何台ものスクリーンやダッシュボードを配置し、エージェンシーとブランドの参謀たちがリアルタイムで広告作戦を実行する。まるで、軍隊もどきの「司令室」が、リアルタイム マーケティングのシンボルとなったのだ。
広告司令室を取り入れたマーケターとして、アウディ(Audi)、ジャガー(Jaguar)、バドライト(Bud Light)、AKQA、ヒュージ(Huge)、マインドシェア(Mindshare)などが挙げられる。ほかにも多くのマーケターが、リアルタイム コンテンツ戦争のための司令室を配備していた。
すっかり影をひそめたブーム
しかし、50周年を迎えた2016年のスーパーボウルでは、大流行したはずの広告司令室が、すっかり影をひそめてしまった。リアルタイムマーケティングは、かつての輝きを失い、業界のカンファレンスでも、少なくともポジティブな文脈では、話題にも登らなくなった。
「広告司令室」は、時流に乗ろうとする軽薄なアプローチを象徴するものとなり、ブランド企業も、大方は、司令室戦略に見切りをつけた。結局のところ、お祭り騒ぎにも似たリアルタイム動点追跡は、堅実な長期的戦略とは言い難い。
「司令室というコンセプトは、100%終わっている」と、ピュブリシス系エージェンシー、レリヴァント24(Relevant24)の創立者兼CEOであるマーク・ガルッチ氏は述べている。「いまこの瞬間に、大衆の関心が向いている事柄に注目して、すぐに対応する。それは年に一度だけやればいいというものではなく、ビジネスの基本姿勢のことだ」。
一瞬のバズよりも大切なこと
ある一瞬を捉え、瞬間的な輝きを広告用パッケージに詰め替えるという手は、2013年のオレオのツイート直後は、誰もが使う常套手段となった。しかし、時流を掴むためのカギは、「大きなイベントでバズらせられる一瞬を外さない」ことにあるのではないと、マーケターたちは気づき始めたのだ。
こうした近視的なアプローチは、たまにしかないビッグイベントの「リアルタイム」対応に注力するあまり、時流に乗るための本質的な取り組みをおろそかにしてしまう。つまり、より機敏に動けるようブランドの社内プロセスを改善するといった、基本的なことが後回しになってしまうのだ。
実際、デジタルカルチャーのペースに遅れをとらないためには、マーケターによる事前プランニングが必要となる。「特別司令室は、(恒常的な)キャンプサイトに道を譲った、と言っていいだろう。リアルタイムマーケティングは、通常の戦略に組み込まれるべきなのだ」と、ヒュージのソーシャルアソシエイトディレクターであるケビン・デル・ロザリオ氏は述べる。
これまで、ブルックリンのヒュージ本社には、アウディやキャップンクランチ(Cap’n Crunch)の「司令室」が設けられていた。しかし、2016年に司令室を使う予定のクライアントはいないという。「スクリーンを何台も設置した、クライアントのための物理的なスペースは、司令室というアイデアの本質ではない。ブランドの戦略にあった人材、計画、プロセスを整え、マーケティング目標とビジネス上のゴール達成に向けて、常に努力を続ける、その理念が重要なのだ」。
オレオ的瞬間を追いかけない
自動車メーカーのヒュンダイ(Hyundai)と、同社の広告代理店であるイノーシャン(Innocean)は、この考え方を実行に移している。この自動車メーカーは、イベント用の司令室よりも、より入念に計画された通年の取り組みを選び、司令室を廃止した。
2014年のスーパーボウルでは、カリフォルニア州ハンティントンビーチにあるエージェンシーのオフィスに、ヒュンダイは独自のソーシャルメディア用ニュースルームを設置。現在、イノーシャンが「ストーリーラボ(StoryLab)」と呼ぶ、この設備はインハウスニュースルームに進化を遂げ、常時ソーシャルメディアにコンテンツを供給している。
イノーシャンのデジタル戦略ディレクターであるグエン・ドエン氏は、クライアントに「オレオ的瞬間を追いかけないように」とアドバイスしているという。
実際にコストも馬鹿にならない
北米DDBのCEOであり、最近までコカコーラの上級マーケターを務めていたウェンディ・クラーク氏によると、複雑すぎる社内プロセスへのリアクションとして、リアルタイム司令室が流行としたという。迅速に動こうとするマーケターに立ちはだかる壁、ブランド企業法務部門の存在も忘れてはならないだろう。
広告司令室は、デリバリービザの空き箱を積み上げながら、大部屋で課題に取り組む学生の集まりと変わらない、と揶揄される。しかし、360i(オレオの司令室を担当)のストラテジー&ソーシャル マーケティングVPであるオーリ・ルウィンター氏によると、実際のリアルタイム広告司令室は、安くはないという。物理的なスペースやテクノロジーを準備する事前コストを要し、人的なコストも馬鹿にならない。
「司令室は非常に高価な投資であり、スタッフにとっても消耗するやり方なので、ブランド企業ではよく考えて使うべき」と、同氏は述べている。「キャンペーンでのリアルタイム対応が不可欠ならば、よい資産となるかもしれないが、賢く使う必要がある」
自宅のリビングでも投稿はできる
結局のところ、リソースを浪費しなくても、オレオのツイートと同じことができると、ブランド企業は気づいたのである。たとえば、2014年のグラミー賞中継時に、8万のリツイートと4万5千の「お気に入り」を叩き出したアービーズ(Arby’s )のつぶやき投稿は、アービーズのソーシャルメディア マネージャが自宅のリビングからツイートしたものである。
同じく、2013年のオレオ停電ツイートの直後にアップされた、保険会社オールステート(Allstate)の投稿は、まったくプロモーション操作に頼らず、1時間で5万4千の「いいね」と1万3千のシェアを稼ぎ出した。これもブランドマネージャが自宅から投稿したものである。
I meant to turn off the scoreboard. Sorry, everybody. Wrong switch.
「得点の電光掲示板を消すつもりだったんだけど。みんなゴメン、スイッチ間違えた(自分が停電を起こしました、というジョーク)」。
バーチャル司令室という方法も
「試合へのリアクションを発信するだけなら、自宅からでもできるし、あるいはバーチャル司令室でアイデアを出し合うという手もある」と、エージェンシー、レオ・バーネット(Leo Burnet)のコミュニティ ディレクターであるダニエル・クレイグ氏は述べている。
実際、時間もコストも軽減できる「バーチャルな」方法を使用して、リアルタイムの動きを定期的にチェックしているブランド企業もある。たとえば、アボカド・フロム・メキシコ(Avocados From Mexico)では2015年、Whatsappで「バーチャルソーシャル司令室」を設定、年末の風物詩である「メイシーズパレード」に出展した自社フロート(山車)に対するソーシャルメディアの反応をモニタリングした。
「クリエイティブディレクター、コピーライター、アートディレクター、アカウントディレクター、ソーシャルストラテジストなどの15人が、別々の都市から参加し、バーチャルで対話を行った」と、同社のデジタル戦略長であるイボンヌ・キンサー氏は述べている。「小さなスクリーンを通じて熱気が伝わってきた。思いがけず、素晴らしい体験だった」。
オレオの投稿はまぐれ当たり?
リアルタイムマーケティングの定義は、「突然の、不測の事態へのリアクション広告」から、「事前に準備をし、用意しておいたミニキャンペーンを、タイミングを見計らいリアルタイムで注入していくこと」へと変わりつつある。
たとえば、レリヴァント24では2015年、事前にコンテンツを用意し、スーパーボウル本番の夜にカスタマイズしたという。神業レベルのナイスプレーなど、試合中に発生すると思われるネタを予測してコンテンツを作り置きし、試合中にリアルタイムで調整したのである。エージェンシーのキネティックソーシャル(Kinetic Social)でも、司令室用の作業の80%は試合の前に完了していると認めている。
オレオの真似をしようと必死だった他ブランドも、いかなる大ヒットツイートを飛ばそうと、その後、アルゴリズムがたったひとつ変わるだけで、最初からまたやり直しになると気づきつつある。
プロモーションや意図的な持ち上げ操作をせず、自然発生的なソーシャルの盛り上がりを期待することは、現在は、ほぼ不可能といっていい。オレオのときは、まだ目新しさがあったから成功したが、現在、ソーシャルメディアでリアルタイムのバズに飛びついても、ノイズに紛れてしまうだけである。
重要なのはファンとの対話
「2年前のリアルタイムマーケティングには、チャンスがあり、楽しい仕事ができた」と、クリエイティブエージェンシー、アノマリー(Anomaly)のパートナー兼チーフストラテジーオフィサーであるギャリース・グッドール氏は述べている。「しかし、それは過去のことだ。現在は有償メディア枠の時代になり、これに伴い、リアルタイムのインスピレーションよりも事前の準備が重要になっている」。
2016年のスーパーボウルの広告主は、こうした動向を理解していたようだ。ビュイック(Buick)では、司令室は立ち上げず、親会社GMの、通常のソーシャルメディア・コマンドセンターのみを使用した。ペプシコ(PepsiCo)とシスターブランドのフリトレイ(Frito Lay)も、今年のスーパーボウルは、通常のシーズン戦略の一環として扱った。
「『マウンテンデュー(Mountain Dew)』では、日常的に『司令室』の精神を忘れず、ファンとの対話に力を入れている」と、ペプシコのブランドマーケティングディレクターであるサディラ・ファロウ氏は述べている。
Tanya Dua(原文 / 訳 片岡直子)
Image:Super Bowl XLVIII (2014年)におけるVisa提供のソーシャルメディア司令室
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