日焼け止めが発明されたのは、83年前。以来この製品に人々がイメージするものは、べたつく白いクリームから、良い香りでコスメポーチに必ず入っているアンチエイジングの必需品へと変わった。新時代のスキンケア企業は、SNSの活用で日焼け止め概念を覆す。
日焼け止めが発明されたのは、83年前。以来この製品に人々がイメージするものは、べたつく白いクリーム(それも過保護な母親が夏に塗るもの)から、よい香りでコスメポーチに必ず入っているアンチエイジングの必需品へと変わった。
「多くの人は日焼け止めというと、ビーチやアウトドアアクティビティーを関連付ける。でもそれは日焼け止め市場のほんの一部に過ぎない」。このように語るのは、ハビット(Habit)の創設者、タイ・アダヤ氏だ。ハビットは2020年6月に立ち上がった、新時代のスキンケア企業だ。
「日焼け止め」概念に変化を
ナラティブ構築にTikTokを活用アンチエイジングといえばボトックスへの投資、といういまの風潮を、日焼け止めを使うプロアクティブな対策へと覆すために、ハビットが活用したのはTikTokだ。アダヤ氏によると、TikTokは「若いオーディエンスを駆り立てる」という。オーディエンスは「10代後半から40代」の有色人種の女性であり、これは同ブランドにとって「もっとも急成長中の市場」なのだとか。ハビットが初めて発売した日焼け止めは、2021年6月15日で発売1周年を迎えた「ナンバー・フォーティーワン・ミスター(No.41 Mister)」で、価格は30ドル(約3300円)だ。
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アンチエイジングにまつわる虚構をTikTokアカウントで暴くなど、ハビットは自らを、正直かつ啓発的なブランドと位置付けている。その例としてアダヤ氏が挙げるのは、「日焼け止めを塗るとどうなるかを可視化した、紫外線レンズで撮影した動画」だ。世界のアンチエイジング市場は、2019年の1920億ドル(約22兆円)から、2030年までに4210億ドル(約46.2兆円)に成長すると予測されている。
アダヤ氏によると、エンゲージメントの観点でもっとも高いパフォーマンスを発揮するのは、ユーモラスなコンテンツで、TikTokに投稿した226本の動画はすでに100万件ほどの「いいね」を獲得している。ハビットのTikTok動画の中でもっとも視聴されているのは、「気まずい瞬間:SPF版(Awkward moments: SPF edition)」と題されたもので、視聴回数は310万回に上る。登場するのは同社のクリスティーナ・チョイ氏(ソーシャルメディア・マーケティング・コンテンツ・マネージャー)で、従来の日焼け止めを塗り直したら白浮きしてしまった女性と、ナンバー・フォーティーワン・ミスターを手軽に吹き付ける女性が交互に映し出される。
「ハビットの顔となる人物をTikTok上に出すという、戦略的な選択をした」とアダヤ氏は語る。
TikTokでの拡散と、パンデミックに関連したサプライチェーンの課題もあり、ナンバー・フォーティーワン・ミスターは発売から3回完売した。昨年在庫があった時間は、わずか43%だったという。そこでハビットは、日焼け止めの製造過程やハビットのTikTokについて記した一連の「ビハインド・ザ・シーン(舞台裏)」メールを、予約注文客向けに配信。またTikTokによって日焼け止めが完売したあとには、バケットハットを発表し、オンラインストアで売り出した。
「バケットハットも、日焼け防止策のひとつ」とアダヤ氏。「バケットハットは可愛らしい色で作りたかった。愉快な人、そして色が大好きな人が我々のオーディエンスだからだ」。帽子には、日焼け止めを塗るよう甘い言葉で呼びかける文言などが刺繍されており、ハビットの根底にある日焼け防止のメッセージ性を保ちながら楽しさを演出している。
トゥーラは「エイジレス」を謳う
ソーシャルメディアのエコシステムのなかでナラティブを構築しようと試みるブランドは、ほかにもある。医師のラジ・ロシニ氏が2014年に立ち上げたトゥーラ(Tula)は、プロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物)を配合した商品で、サンケア業界での差別化を図ろうとしている。プロバイオティクスの抽出物が原料であることが特徴のトゥーラでは、加齢に抗う「アンチエイジング」という用語の使用をやめ、「エイジレス」という言葉を用いることで、年齢を重ねることを前向きにとらえ、クリーンな原料を用いることにフォーカスする。
トゥーラは7月7日に2点目の商品として、ミネラルを配合した液状の日焼け止め「ミネラル・マジック(Mineral Magic)」を発売した。同ブランドのコアとなる顧客は平均年齢32歳だが、Z世代も非常に多いと、CEOのサバンナ・サックス氏は述べる。商品説明サイトやソーシャルメディアでは、ミネラルの抗酸化作用や、広域スペクトラム(UVA/UVB)、ブルーライト、大気汚染物質によるダメージにも対応していると訴求。バタフライリリーや紅藻といった話題性のある原料も、大々的に打ち出している
「ミレニアル世代とZ世代の顧客が求めるのは、セルフケアのルーティンのあらゆる手順において、パワフルかつクリーンなスキンケアを行うこと」とサックス氏。「我々が作って提供したいのは、ただの日焼け止めでなく、スキンケアでもある製品だ」。
TikTokで「スキンケア」を主張
トゥーラもハビットと同様、TikTokを活用する。サックス氏によると、過去1年間で10万人以上のフォロワーを獲得したという。もっとも視聴されたのは、肌質やスキンケアの目標を入力すると適切な製品を提案してくれる自社サイト「スキン・クイズ」の使い方を示した動画で、120万回再生された。「完全にパーソナライズされたスキンケアルーティン」を見つけることができるサイトがこれほど関心を集めたのは、「スキンケアに精通した」オーディエンスが惹きつけられるコンテンツの典型例をよく表している。
トゥーラが優先順位を高く考えているのは、「透明性と、原料に関する啓発」だ。そのため、2020年4月に発売された同ブランド初の日焼け止め「プロテクト&グロー(Protect & Glow)」は、TikTokで流行中の曲を活用し、スキンケアとしての効用を前面に押し出した。たとえば6月11日にTikTokへと投稿したプロテクト&グローの動画に使用した音楽は、マック・デマルコの楽曲「マイ・カインド・オブ・ウーマン(My Kind of Woman)」を編集したもので、これはすでに64800本もの動画に使われている。この投稿により、同ブランドのTikTokサイトは再生回数が11万9000回増加した。
トゥーラの最新のオムニチャネル・マーケティングのキャンペーンは7月7日に公開され、アルタ(Ulta)などの実店舗で8月2日から購入可能だ。「スキンケアに主眼を置いた効果の高い原料と、臨床結果にフォーカスしている」とサックス氏は語る。複数のソーシャルメディアプラットフォームで活躍する600人以上のインフルエンサーに、ミネラル・マジックを送った。同ブランドの収益の約3分の1は、インフルエンサー・アフィリエイト・マーケティングによるものだという。
「楽しく身を守る」を広める
歴史ある日焼け止めブランドですらも、若い消費者の目に留まろうとしている。1992年設立のバナナ・ボートがターゲットに設定するオーディエンスは、トゥーラやハビットとは異なるものの、Z世代やミレニアル世代は日焼け止め製品の消費者の大部分を占める。バナナ・ボート製品は「家族全員」に向けて、「日焼け止めは地球上の楽しいことを守るもの」というアイデアを売り込んでいると、同ブランドのマーケティングディレクターであるアナスタシア・トビアス氏は話す。だが、家族向けのブランドとはいえ、マーケティングツールとしてのTikTokの力も軽視していない。2020年6月にはアリソン・ホルカー氏(ダンサー/ソーシャルメディア・インフルエンサー)とともに、「楽しい活動やダンスによって身を守る方法を家族に示す動画」を作成してTikTokやインスタグラムに投稿し、「日焼け止めを使うことの重要性を強調した」と、トビアス氏は語る。
「ここしばらくのあいだは、運動を通して楽しむという領域に注力している」。
[原文:Sun-care products focus on cultivating young customers on TikTok]
NITYA RAO(翻訳:田崎亮子、編集:小玉明依)