個人情報の扱いについて大きな変革が進むなか、ファーストフードチェーンのサブウェイが新たな戦略の構築に挑んでいる。AppleやGoogleは、現在ユーザーの同意なしに個人情報を利用することを制限する方向に動いている。サブウェイはこれに追従するよう装いつつ、独自の戦略を進めるつもりだ。
個人情報の扱いについて大きな変革が進むなか、ファーストフードチェーンのサブウェイが新たな戦略の構築に挑んでいる。同社が目指しているのは、「非アドレッサブルなデータを利用した、アドレッサブルなメディア戦略」だ。
AppleやGoogleは、現在ユーザーの同意なしに個人情報を利用することを制限する方向に動いている。サブウェイはこれに追従するよう装いつつ、独自の戦略を進めるつもりだ。
同社はエージェンシーのメディアコム・スコットランド(Mediacom Scotland)と協力し、オンラインユーザーのブラウザやアプリ内の行動を追跡するにあたり識別子を利用するのではなく、コンテキストデータや通信データといったさまざまな情報からユーザーを特定するメディアプランニングツールの開発を進めている。
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スマートなデータ活用体制の構築
こうした非アドレッサブルなデータの一部は、通信事業者であるスカイライズ・インテリジェンス(SkyRise Intelligence)のような企業から得られる。サブウェイによると、開発中のツールはスカイライズ・インテリジェンスを含む複数の通信事業者からデータの利用ライセンスを受けており、英国で使われている2000万台以上の携帯電話の通信データにアクセスできるようになっている。これらのデータは匿名化され、iOSおよびAndroidデバイスごとに分類されて、ツールを通じてサブウェイなどのクライアントに販売される。
サブウェイは1年前の最初のロックダウン時にキャンペーンを実施するにあたり、このツールを試験運用した。その結果、このプログラマティック広告を通じたキャンペーンに対するオーディエンスの認知度が52%も向上するという結果が得られた。
サブウェイとしては、Appleによるモバイルデバイスの広告識別子へのアクセス制限や、GoogleによるChromeのサードパーティCookieへのアクセス制限がさらに進んだ場合でも有効なキャンペーン展開ができるよう、今回の試験運用モデルをテンプレートとして活用する方針だ。ただし現時点では、モバイルデバイスの広告識別子も、サードパーティCookieも利用できる。残された時間は決して長くはないが、サブウェイはそれまでに、広告識別子やCookieを利用した場合と、今回のキャンペーン(ツールの試験運用)で得られた効果との違いを正確に分析、把握して次のステップに進みたいと考えている。
サブウェイの英国およびアイルランドのマーケティング責任者、アンジェリーナ・ゴサル氏は「適切なタイミングで、適切なメッセージをユーザーに提供できるようにすることが最終目標だ。だが、使用できるデータはこれから制限されていく。だから個人を特定できない情報であっても、コンテキストによるターゲティングといった、よりスマートなデータを独自に活用する方法の構築が重要になってくるだろう」と語る。
いかに正確性を確保するか
最初の試験運用以来、サブウェイは通信データからコアパラメータを特定するためのキャンペーンをいくつも実施してきた。たとえば、ユーザーがデリバルー(Deliveroo)、ジャスト・イート(Just Eat)、Uber Eats(ウーバーイーツ)などのフードデリバーサービスを利用する際のデバイスと店舗の距離や、プロモーションオファーを利用した時間帯などだ。そこからユーザーの行動に関する情報を収集し、広告を展開してパフォーマンスを分析する。データマーケティングエージェンシーであるMiQからプログラマティックチームが出向して、一部のテストを実施しており、たとえばプロモーションキャンペーンが展開されている特定の地域に限定してユーザーを獲得することに焦点を当てている。
しかし、課題もある。取得方法によっては不正確なデータが混在する可能性がある点だ。正確なデータを取得することができても、そのためのコストがかさんでしまう場合がある。
「(取得したデータに)ある程度の仮定が含まれていることが前提で、正確性を確保するにあたって重要なのは、さまざまなデータで整合性を確認することだ。自社で得たデータはもちろん、店舗の内外で協力するメディアベンダーなど、必要に応じて信頼できるパートナーからデータを供給してもらう形でもいいと思う」とゴサル氏は語る。「費用対効果の面ではもっといい手法があるかもしれないが、ユーザーのニーズを把握するにあたって、これがもっとも正確なやり方だ」。
もしこのキャンペーンが成功すれば、同社はAppleやGoogleによるiOSやAndroidデバイスにおける個人情報の利用制限に抵触することなく、モバイルユーザーの動向について十分な情報を得られるようになる。
サブウェイは、コンテキスト広告を専門とするアドテク企業のガムガム(GumGum)とも提携している。同社を通じて英国の大手パブリッシャーによるデータプラットフォーム、オゾンプロジェクト(Ozone Project)の参加社と直接取引きを行うことで、展開できるコンテキストキャンペーンを増やしている。
非アドレッサブルなデータをいかに活用するか
ただし、このような取り組みを進めているのはサブウェイだけではない。
同社の目標は、個人を特定できないデータから十分な情報を集積処理して、適切な支出を行うことにある。これにより、たとえばスカイライズ・インテリジェンスが展開する屋外広告に関するデータや、スマートテレビの情報を取得できるようになる。特定期間の広告における消費者の動向について把握できるようになるのだ。
情報分析プラットフォーマーのビームレイ(Beemray)のCRO、ラマン・シドゥ氏は、「当社は、提携する広告主とともに、各社のコンテキストに合わせた情報を取得できるようつとめている」と語る。「これは最優先事項であり、広告業界で起きているイノベーションであり、パラダイムシフトといえるだろう」。
[原文:‘There’s a degree of assumption’: Subway tests addressable media plans using non-addressable data]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)