マーケターがブランドの物語をコントロールしたがることは間違っている。ブランドは文化のなかに存在する。人々がブランドとどのように関わるかによって、人々がそのブランドをどのように考えているかがわかる。広告は人々の考えに影響を及ぼすが、もっとも重要なのは、人々がブランドとどのように関わるかだ。
広告の仕事をしている人はおそらく、口コミで拡散できる何かをつくってほしい、必ず話題になるキャンペーンを考えてほしいと依頼されたことがあるだろう。
アメリカのエージェンシーで働いていたら、ごく最近、マーケティング幹部から「我々もオーシャン・スプレー(Ocean Spray)のような瞬間をつくることができるか?」と質問された人もいるだろう。クランベリージュースのブランドであるオーシャン・スプレーは、TikTokのスター、ネイサン・アポダカ氏の動画で話題となった。9月25日以降、この動画は3500万回以上も視聴されている。
このような依頼が来るのも当然だ。アポダカ氏の動画は瞬く間にミームとなり、オーシャン・スプレーを飲みながら、フリートウッド・マックの「ドリームス」を歌うパロディー動画が何百も投稿された。しかも、この動画のアーンドメディアだけで、おそらくブランド認知度が高まっている。ほかのブランドが同じことをしたがらない理由があるだろうか(参考のため。アドエイジ(AdAge)によれば、先日、TikTok自身の広告にもこのミームが使用された)。問題は、オーシャン・スプレーに起きたことは予測不可能で、再現はほぼ不可能ということだ。
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ガット(Gut)の創業者でクリエイティブチェアマン、アンセルモ・ラモス氏は「クライアントは『バイラル」を求めることをやめるべきだ」と話す。「誰にも何もわからない。いつ何が口コミで広がるかが正確にわかる者などいない。それこそが我々の仕事の魅力だ。ブランドが自らミームをつくることほど最悪なことはない。オーシャン・スプレーに起きたことはコンテンツの奇跡だ」。
マーケターがブランドの物語をコントロールしたがることは間違っている。ブランドは文化のなかに存在する。人々がブランドとどのように関わるかによって、人々がそのブランドをどのように考えているかがわかる。広告は人々の考えに影響を及ぼすが、もっとも重要なのは、人々がブランドとどのように関わるかだ。
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波に乗れるかはブランド次第
たとえば、ペロトン(Peloton)は2019年秋、痛烈な批判を浴びせられた。ひとりの女性がクリスマスプレゼントにペロトンのバイクをもらい、そのバイクで旅に出るという30秒のホリデー広告を流したことがきっかけだ。この広告をあざ笑うパロディー動画がいくつも投稿され、ペロトンは人々に見捨てられた。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、人々は自宅で運動しようと、ペロトンのバイクを一斉に買い求めた。
これらすべてが示唆しているのは、ブランドは文化とどのように関わるべきかという思考を改める必要があることだ。ミームになることは必ずしも良いことではない(ペロトンが好例)。そして、マーケターやエージェンシー幹部がコントロールできることではない。しかし、実際ミームになったとき(良い意味か、悪い意味かにかかわらず)、どのように対応すべきかを考えることはできる。
ノット(Knot)のマーケティング担当バイスプレジデント、アマンダ・ゲッツ氏は「いまや、ブランドに関する会話は文化に主導されている」と話す。「ブランド自身が何を言っているかではなく、人々が何を言っているかがブランドの定義になる。コミュニティーが商品と関わり、その商品のミームをつくったとき、ブランドに学習のチャンスが訪れる。しかし、そうした増幅の波にうまく乗ることができるかどうかは、ブランド自身に懸かっている」。
タイムリーに対応できる組織を
TBWA/シャイアット/デイ(TWBA/Chiat/Day)ニューヨークのシニアクリエイティブ、ロビン・フロスト氏はエージェンシー幹部に対し、ミームが発生しているプラットフォームをよく知るチームの意見を聞くべきだと助言する。「ミーム文化にどっぷり漬かっているクリエイティブやストラテジスト」に先導役を任せるべきだとフロスト氏は述べ、プラットフォームを理解する人がいても、「プラットフォームを知らない人々に拒絶され、アイデアが骨抜きになるケースがあまりに多く、何かの成功の可能性について、情報に基づいた判断を下すことができていない」。
エージェンシー幹部たちによれば、マーケターやエージェンシー幹部は自社のチームにミームのアイデアを求めるのではなく、その瞬間が訪れたときに何をすべきかをチームが判断できるよう、システムを整備した方がいいという。
メカニズム(Mekanism)のパートナー兼最高ソーシャル責任者ブレンダン・ガーン氏は、自身のブランドがミームになったとき、タイムリーに対応できるような「役割の明確化とエスカレーションのプロセス」が必要だと話す。
「ブランドが話題になってから、誰に話し、誰の承認を得る必要があるかを特定しようとしたら、プロセスがスローダウンし、対応が10倍難しくなる。ときに予期せぬことが起きるという事実をまず認めるべきだ。対応策をあらかじめ用意する必要はないが、チャンスをつかんで対応するための手順は必要だ」。
「考えすぎてはいけない」
一方、ラモス氏は、ミームになったとき、マーケターが踏むべき具体的な手順を示している。「すべてを止め、PR会社、弁護士、エージェンシーの3者をすぐに呼ぶ。すぐに飛び付かなければならない。タイミングがすべて。考えすぎてはいけない。数日後には、すべてが終わってしまう。流れに身を任せ、楽しみながら、柔軟に対応すること。具体的にどうすれば物語を膨らませられるかを考えてほしい。置かれている状況に深く感謝し、一生に一度の出来事かもしれないことを理解すべきだ」。
[原文:‘Stop asking for a ‘viral’ anything’: Why Ocean Spray’s successful meme can’t be replicated]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)