スターバックス(Starbucks)は、「ニューリテール(new retail)」と銘打って、デジタルと実店舗における戦略を次の段階へとアップグレードしようとしている。デジタルと実店舗の体験を進化させるべく、ストアデザインの刷新、テックへの投資、ロイヤルティプログラムの改革を行っている。
スターバックス(Starbucks)は、「ニューリテール(new retail)」と銘打って、デジタルと実店舗における戦略を次の段階へとアップグレードしようとしている。
スターバックスは最近、全世界で3万店の大台を突破した。同コーヒーチェーンは現在、高級志向の「スターバックス・ロースタリー」や小規模店など、さまざまなタイプの店舗を展開している。モバイルアプリは2009年にリリースされ、2011年にはアプリ内決済を導入。2015年以降はモバイル予約注文も可能になった。そしていま、スターバックスはデジタルと実店舗の体験を進化させるべく、ストアデザインの刷新、テックへの投資、ティアードモデルに基づくロイヤルティプログラムの改革を行っている。
「持続的企業体制の構築をめざし、我々はスターバックスの次の50年のあり方を熟考している」と、CEOのケビン・ジョンソン氏は、3月20日に行われた株主総会で述べた。
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ストアデザインは重要要素
改革のタイミングとしては申し分ない。eコマース企業やデリバリー企業のおかげで、商品を消費者の手元に届けることはますます容易になり、スターバックスのように効率性と利便性を提供する企業にとっての市場競争はますます激化している。一方、リソース豊富な大型店舗を構えるターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)は、インストアテクノロジーを急速に進化させ、顧客の呼び戻しに成功した。こうした背景のもと、スターバックスは未来のリテール体験の構築を図っている。
ストアデザインは重要要素のひとつだ。スターバックスは、店舗の立地に特有の顧客行動に基づいてフォーマットをパーソナライズする方法を開発中であり、今夏にニューヨークでテストを開始する。2018年夏以降、テキサス州オースティンやニュージャージー州グレンリッジなどで実施してきた、カスタマーインサイトマイニングが結実した形だ。同社は、時間帯によって変化する顧客行動にあわせたフレキシブルデザインモデルの実験をおこなっている。
「ニュージャージーでは、1日の時間帯によって顧客と店舗の関わり方が異なることが判明したため、我々は午前中は利便性を、午後は快適さを優先する形でグレンリッジのストアを進化させた。大都市では顧客の1日のルーティンを妨げないことが非常に重要になるため、時間帯によっては持ち帰り専門店が明らかに有効な策だ。しかし、ニューヨークのような慌ただしい街でも、顧客はくつろぎも希求している」と、スターバックスの最高執行責任者を務めるロザリンド・ブリューワー氏は投資家たちに語った。
新興テック企業への投資
インストア体験をデジタルの技術革新と結びつけるため、スターバックスは積極的に外部の新興テック企業への投資を行っている。前述の株主総会で、同社は未公開株式投資会社ベーラー・エクイティ・パートナーズ(Valor Equity Partners)との共同イニシアチブである、食品・リテールテックファンド「ベーラー・サイレン・ベンチャーズ(Valor Siren Ventures)」への1億ドル(約110億円)の拠出を発表。同ファンドを通じ、スターバックスはデジタルおよび実店舗における技術革新をどう進めるかについて、外部からのアドバイスを取り入れる方針だ。
「イノベーションアジェンダの加速を目標に、我々はクリエイティブな未来のビジネスから刺激を受け、それらを支援していきたい。ゆくゆくは彼らと業務提携を結ぶ可能性もある」と、ジョンソン氏はいう。
スターバックスは、ウォルマートやターゲットなどの大規模小売チェーンと同様、スタートアップへの支援や投資を通じて、新たなアイディアをますます外部に求めるようになってきている。こうした取り組みは必要なことではあるが、大企業は、新たなテックツールを現在利用している既存の枠組みと統合する段階でつまづきやすいと、ループ・ベンチャーズ(Loup Ventures)でマネージングパートナーを務めるアンドリュー・マーフィー氏は指摘する。
「小切手を書くのは簡単だ。しかし、スタートアップの技術を、既存のしばしば時代遅れなインフラと統合するのは容易ではない」と、マーフィー氏。「ベストバイ(Best Buy)やターゲットはもちろん、Amazonでさえ自社が投資したテクノロジーの統合に苦労している」。
顧客データの活用法
とはいえ、リテールテックのスタートアップに投資することは、スターバックスがロイヤルティプログラムを通じて集めた顧客データをより賢く利用するためのひとつの方法かもしれない。そう語るのは、デジタルエージェンシーのT3で戦略・イノベーション担当バイスプレジデントを務めるジェームズ・ラニヨン氏だ。スターバックスは、アプリ上で商品についての詳細情報を提供し、顧客の関心をつなぎとめてきた。商品コードをスキャンすれば、農場からカップまでのトレーサビリティを確認できるといったものだ。ヘビーユーザーに忠実でいてもらえるよう、同社はロイヤルティプログラムにクラス分けを導入し、チェイス(Chase)のクレジットカード利用者には追加特典も用意した。
「私が思うに、彼らの(スタートアップ投資)戦略は、手に入れた顧客データの活用法に関連している。商品のパーソナライズに利用できる、より精度の高い顧客個人のデータをどう手に入れるか。それより何より、メニューのパーソナライズや価格決定、ロイヤルティ特典の最適化をどう実施するか。つまりはデータアナリティクス戦略なのだ」と、ラニヨン氏は述べた。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)