パンデミックのあいだに TikTok が爆発的に普及し、小規模なブランドはマーケティングとブランド構築の活動の場をTikTokに移すことになった。しかし、動画がバイラル化して短期的な売上の増加を経験したあとで、それを長期的な販売の成功に結び付けるために模索している。
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ヒップホップをテーマにしたリップバームブランドのトラップスティックス(Trapstix)が2018年に創設されてから、創設者のアイシャ・ヒリアード氏が2020年7月にはじめてTikTokに投稿するまでに受けた注文はわずか75件だった。それから2年後の現在、同ブランドは一連のバイラル化したTikTok動画により売上が急増し、今日までに5万個以上を売り上げた。ヒリアード氏は現在学校に通うかたわら、副業としてビジネスを運営し、プラットフォームでの有料広告は一切避けている。
ヒリアード氏は次のように述べている。「TikTokには私のオーディエンスがたくさん集まっていた。当時はパンデミックのため、多くの人々が毎日TikTokを見ていた」。
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ヒリアード氏は、TikTokでバイラルを起こして初期の売上の大部分を築いている、増え続けている小規模事業者のひとりだ。パンデミック前は、小規模なブランドが顧客を獲得するためのプラットフォームはインスタグラムやFacebookだった。これらのブランドは、ベンチャー支援のスタートアップに受け入れられている、美しくキュレートされた有料プレイスメントを模倣しようとした。しかし、パンデミックのあいだにTikTokが爆発的に普及した。月間アクティブユーザー数は2019年末の5億700万人から、2021年9月には10億人を超えるに至った。一方でFacebookの月間アクティブユーザー数は2月にはじめて、前四半期比で減少した。これを受けて、小規模なブランドはマーケティングとブランド構築の活動の場をTikTokに移すことになった。
しかし、これらのTikTokを利用する小規模事業者は、過去のソーシャルプラットフォームで構築されたブランドとは異なっている。これらの事業者は、有料の戦略の代わりにオーガニックなコンテンツによって成長している。並べた商品を上から撮った静的な写真や、モデルのきれいな画像の代わりに、創設者をタレントとして使い、ありのままのストーリーを語り、それがTikTokのアルゴリズムを活用して売上増加に結び付くことを期待している。
ソーシャルメディアで成功しても、これらのブランドは現在、過去と同じ問題に直面している。具体的には、「いいね」や再生回数を越えたところで成功を拡大することだ。動画がバイラル化して短期的な売上の増加を経験したあとで、それを長期的な販売の成功に結び付けるために模索している。
社内のタレントの使用
トラップスティックスは今日までに220万の「いいね」と9万6000人のフォロワーを集め、各動画の再生回数は100万近い。同社のリーチは、数百万ドルを売り上げる大手小売業者をしのいでいる。ギャップ(Gap)やケロッグ(Kellogg)、さらには競合他社のチャップスティック(ChapStick)などのブランドはどれも、各社の認証済みブランドアカウントの「いいね」とフォロワーが1万に届いていない。
トラップスティックスの隆盛は、TikTokで増大しているブランド向けのプレイブックに従ったものだ。すなわち、多くの異なるフォーマットをテストし、すべてのもの(とすべての人)をコンテンツに転換することだ。インスタグラムやFacebookのブランドは静的で、商品を中心とした、おだやかなカラーパレットの画像を多く使用している一方で、TikTokのブランドは日常生活を送る普通の従業員をコンテンツとして使ってきた。
たとえば、英国の美容品小売のカルトビューティー(Cult Beauty)は従業員をTikTok動画にしょっちゅう登場させる。トレンドのサウンドに合わせたダンスや、電子メールの受信トレイのメールが多すぎると冗談っぽく「泣いてみせる」など、さまざまな内容があり、現在ではTikTokで再生回数が18万回を超えている。これに対してラウンジウェア企業のラウンジアンダーウェア(Lounge Underwear)は、従業員がトレンドのサウンドに合わせて同社の倉庫を駆け抜けるひとつのビデオで100万近い再生回数を叩き出した。ウォルマート(Walmart)やセフォラ(Sephora)さえも、従業員のクリエイターによって、この流れに乗ることになった。
「私は自分自身が間違いなくコンテンツクリエイターだと思っている」とヒリアード氏は述べる。
股ずれ予防ブランドのチャブラブパッチ(Chub Rub Patch)は昨年の7月に操業を開始し、直後にTikTokに最初の動画を投稿したが、すでにTikTokで110万の「いいね」と6万を超えるフォロワーを抱えている。同ブランドは小規模で、従業員はわずか3人であり、バイラル化したTikTokによって月間の平均売上個数は250から1750に急増した。
同社のもっとも有名な動画は、創設者のブリタニー・ラモン氏がドレスをたくし上げ、チャブラブパッチの袋を開けて太ももに貼るもので、再生回数は970万回を超えている。2番目に再生回数が多い動画はラモン氏がこの商品を着けてディズニーランド(Disneyland)を一日中歩き回るもので、330万回再生された。
ラモン氏は次のように述べている。「私にとって、成功したのは商品を使用している動画だ。チャブラブパッチを太ももに貼ると、大勢の人々がその動画をクリックした」。
同ブランドはFacebook、インスタグラム、Twitterなどのチャネルで広告を出しているが、これらのプラットフォームにおける有料広告はいずれも、同ブランドのコンテンツに対するオーガニックな再生ほど多くの売上やトラフィックに結び付いていないと同氏は語っている。
@thechubrubpatch Disneyland, we’re bringing our patches with us! #fypシ #fypage #disney #disneyland #chubrub #anticafe #bodypositivity @lizzo #thickthighs ♬ original sound – TheChubRubPatch
ディズニーランドでチャブラブパッチを貼るTikTok動画
本当らしさが重要
マーケティング企業のヒューズクリエイト(Fuse Create)でクリエイティブ戦略ディレクターを務めるジャッキー・コスタック氏は、TikTokではコンテンツクリエイターとインフルエンサーとのあいだに重要な相違があると説明する。TikTokのバイラル性は、ほかのソーシャルコンテンツと比べて「よりリアル」で「フィルタリングされていない」動画から発生すると同氏は語る。
同氏は次のように述べている。「TikTokで目立つためには溶け込むことが必要だ。ブランドは実際の人物のように振る舞う必要がある。テレビのスポット広告のように体裁の良いものにはせず、YouTubeの動画ほど自由にコントロールできないことを受け入れる必要がある」。
フィルタリングされていないコンテンツが好まれるというこの傾向は多くの点で、このプラットフォームでより柔軟であることを望む小規模のブランドに自然に適している。
たとえば、トラップスティックスのヒリアード氏は、トラップスティックスに直接関係する、トレンドのサウンドやフォーマットを含む動画をいくつか投稿する。しかし一方で、同氏は自分のヘアケアの習慣や、ハワード大学(Howard University)の期末試験のために勉強しながらどのように生活しているかなどのコンテンツも、ブランドへの言及なしに投稿している。
ヒリアード氏は次のように述べている。「TikTokは、ほかのプラットフォームよりもずっとパーソナルだ。人々は、投稿者も普通の人であるということを知りたがっている。順調に再生されていない動画を非公開にするのを私が止めたのもその理由からだ」。
これに対してインスタグラムでは、美観が整っていることが重視される。ベンチャーの支援を受け、このような美観を活用したD2C新興企業は、数億ドルの価値を持つビジネスを構築できた。キャスパー(Casper)、オールバーズ(Allbirds)、グロッシアー(Glossier)、プローズ(Prose)などはすべて、サンセリフの字体、多くのホワイトスペース、ミニマルロゴのいくつかを組み合わせ、このプラットフォームでフォロワーを集めてきた。
その結果として多くの小規模事業者は、少ない予算でこのプレイブックを模倣しようと試みてきた。しかし今日、各ブランドは別のやり方をしている。TikTokで共感を呼ぶのが、これとはほぼ正反対の内容であるためだ。
コスタック氏は次のように述べている。「TikTokで人気になるのは、見た目の良い人たちを美しくスタイリッシュに見せた、または多くの加工を行ったような画像ではない。その人たちの個性を活かしたものが人気になる」。
TikTokの次に向けた活動
しかし、大きな疑問となるのは、その次に来るのは何かということだ。過去にメディアのバイラル化を使用して地位を築いたブランドと同様に、TikTok上のブランドも成長の問題に直面している。TikTokでいくつかの動画がバイラル化しても、販売の長期的な成功に必ず結び付くわけではない。多くのブランドにとって、従来型の小売ブランドと同じようなものになることが希望だ。
ヒリアード氏は次のように述べている。「私は2022年に、より小売ベースのビジネスに移行することを希望している。私の最大の目標はターゲット(Target)だ。しかし現在のところ、美容用品店とポップアップショップで販売できたらうれしいと考えている」。
TikTok固有のコンテンツはバイラル化による売上を促進できるが、その性質上Facebookやインスタグラムの投稿のように自動で効果を発揮するわけではない。大規模なブランドなら、社内にプラットフォーム用のコンテンツスタジオを設立したり、すでに定評のあるアカウントを選んでスポンサーとなったりすることも可能だが、小規模の新興企業にはそのような予算はない。
このため、小売店とのパートナーシップは、顧客獲得の活動を拡大するのに有効となる可能性がある。大手小売業者は、自社のブランドポートフォリオを短期間に多様化する、または新しい商品カテゴリーに参入するために、ますます小規模のオンライン新興企業に注目するようになってきている。たとえばターゲットとウォルマートは、ペットケアやセクシャルウェルネスなど人気のあるカテゴリーで自社の商品の品揃えを拡充するため、デジタルネイティブの新興企業を利用してきた。
このような動きははじまったばかりだが、TikTokで成功した小規模事業者は、そのバイラル化を活用し、やがては小売店とのパートナーシップを固められることに期待している。
ラモン氏は次のように述べている。「今のところ、当社は大手の店舗で販売されるようになることに集中している。TikTokはうまくいっているが、すべてのマーケティングをいつまでも続けるだけの予算、時間、キャパシティはない。CVSやウォルグリーン(Walgreens)といったドラッグストアで販売され、人々が問題を抱えているとき解決策を求めてやってくるようになることを、私は期待している」。
[原文:‘So much of my audience in one place’: The rise of the TikTok small businesses]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Trapstix/Cult Beauty/Chub Rub Patch