小売企業がコスト削減を計画するとき、まっさきに首を切られるのは年俸制の社員だ。だが店に残った従業員も、米DIGIDAYが取材した5人の現役または退職した年俸制の管理職者たちによると、その多くは「以前より仕事がきつくなっている」とか「勤務時間が不規則になった」と話しているという。
トイザらス(Toys R Us)が2018年6月に全店舗を閉鎖したとき、テキサス州の店舗のひとつで副店長を務めていたメアリージェーン・ウィリアムズ氏は、もう金輪際、小売業界には戻らないと誓った。
小売企業で働く多くの従業員がそうであるように、ウィリアムズ氏もこの20年間、ブラックフライデーのおかげで、感謝祭の祝日を家族とまともに祝ってこなかった。また、ウィリアムズ氏の言うところでは、彼女はその店の数少ない正社員の管理職であったため、彼女の勤務シフトはことさらに厳しかった。時間給の従業員が欠勤すれば、開いた穴を埋めるのは彼女の責任だった。
「副店長になると、時間の感覚をすっかり失った」と、ウィリアムズ氏は振り返る。「店の表に出てきて、行列ができているのを見れば、自分だけさっさと帰るわけにはいかない」。
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コスト削減計画の矛先
小売企業がコスト削減を計画するとき、まっさきに首を切られるのは年俸制の社員だ。だが店に残った従業員も、米DIGIDAYが取材した5人の現役または退職した年俸制の管理職者たちによると、その多くは「以前より仕事がきつくなっている」とか「勤務時間が不規則になった」と話しているという。
大手ホームセンターのロウズ(Lowe’s)で、フルタイム勤務だが時間給の部門長として、アメリカ中西部の店舗に勤めるある人物は、匿名を条件にこう証言する。「人余りであれ何であれ、正社員の職を減らしたと宣伝してまわれば、時間給の[従業員の]多くはそれほど不満を言わない。切られたのが自分たちではないからだ」。
トイザらスのフロリダ州の店舗で店長を務めていたマデリン・ガルシア氏によると、同社が2005年にレバレッジドバイアウト(LBO)方式で買収されるまで、同店には4人から5人程度の店長がいた。2018年の閉店時、残っていた店長はガルシア氏ひとりだけだった。現在、同氏は小売従業員の権利擁護団体である「ユナイテッドフォーリスペクト(United for Respect)」のリーダーを務めている。
「店を開けて、売上金を勘定して、バックヤードに走って荷下ろしをして」と、ガルシア氏は店唯一の正社員として働いていた日々を振り返る。「レジ係に呼ばれ、客に呼ばれ、常に店内を駆けずり回っていた」。
ウォルマートのトライアル
米労働省の調べによると、小売業界では昨年、季節調整値ベースで3万1000人分の雇用が失われた。売れない実店舗は店を閉めたり、全面的に廃業したりする。だが儲けの出ている小売企業の正社員でも、失業の不安とまったく無縁であるとは言い切れない。今日の大規模小売チェーンは、コスト削減のあの手この手を宿命的に考えつづけている。店舗の改装、オンライン注文のフルフィルメント、残った従業員の昇給に充てる原資を確保しなければならないからだ。
昨年5月、ウォルマート(Walmart)は店舗当たりの正社員店長の数を減らし、店に残った時間給職員と正社員の賃金を上げるという新しい従業員構造を試験的に導入すると発表した。
ウォルマートは新規の人員配置計画をすべての店舗に適用するか否かをまだ決めていないというが、同社が最近出した発表文によると、「ウォルマートの店舗経営に関わる管理職者のうち、75%以上が時間給職員としてスタートし、全従業員の60%以上がフルタイム勤務だ」という。さらに、「昨年は、26万5000人の従業員を、責任も賃金も高い地位に昇進させた」とも述べている。
大規模小売チェーンの店舗運営の体制は、通常、正社員の店長1人、副店長数人、および家電や食料品などの各部門を監督する正社員らから成る。元従業員の見積もりによると、ウォルマートがスーパーセンターと呼ぶ超大型店舗では、この陣営が13人から15人程度にのぼり、全体では300人から400人の体制になるという。
小規模チェーンが転職者に人気
年収4万8000ドルから7万5000ドル(約527万円から824万円)を稼ぐ正社員の店長ひとりを解雇すれば、ウォルマートは週30時間勤務の時間給従業員を追加で2人もしくは3人雇用できる(しかも、この数字は正社員向けの健康保険その他の福利厚生費を考慮していない)。
とはいえ、小売企業は正社員の管理職者をまるごとすべて切り捨てるわけにはいかない。なぜなら、余分な仕事を残業代なしで引き受けられるのは、彼らのような従業員にほかならないからだ。そしてそれは、正社員管理職者にとって、もっとも痛いところでもある。余分な仕事の発生を予測することは不可能だし、複数人いる管理職がひとりでも削減されれば、欠勤者の穴埋めで残業する確率はその分高くなる。
ウォルマートのペンシルヴァニアの店舗で副店長を務めていた人物がこんな話をしてくれた。「今日は休みますという電話が入ると、自分の勤務が昼から夜の10時までだとしても、結局、翌朝5時とか6時まで残業するはめになる。午前中勤務の人が来るまで帰れない」。この人物は最近、もっと小規模の小売チェーンに転職した。担当する店舗は以前ほど大きくないため、ワークライフバランスの改善を期待しているという。
「ターゲット(Target)、ウォルマート、ロウズのような大企業でこき使われる管理職者のなかには、もっと小規模なチェーンに転職したがる者がたくさんいる。そういう求人はあっという間に埋まってしまう」と、この人物は話してくれた。
「いつもビクビクしている」
先に登場したロウズの部門長によると、彼の店の副店長たちも同様の負担を余儀なくされているという。同社のニューヨーク店の副店長を募集する最近の求人広告には、「曜日を問わず、朝昼夕方勤務可能な方」とある。だが曜日を問わず朝昼夕方勤務できたところで、一般的に従業員が勤務できる時間は週48時間以内に限られている(ロウズはコメントの求めに応じなかった)。
この部門長は、以前、ロウズで副店長を務めていたが、2017年に行われた一連の一時解雇(レイオフ)で失職した。彼の推定では、この期間に、ロウズは各店舗で1人から3人の副店長を解雇した。
結局彼は、ロウズに部門長として復職した。ロウズから支払われる時間給の報酬が、同一地域内のほかの小売企業よりも高額だったからだ。
小売業界で働くことに、いまも満足しているかという問いに、彼は「いつもビクビクしている」と答えている。どの小売企業も店内業務の自動化を模索しており、この業界では今後も人員整理が続くと見込まれるからだ。彼は他業界への転職を考えているのだが、「小売業界で培った技能は、人が思うほどには潰しがきかない」と懸念もしている。そして彼には、仕事の時間を切り詰めて、学校へ戻って学びなおす余裕はない。
小売業界にとどまる人々も
接客は好きだが、事務仕事は嫌いという理由で、小売業界にとどまる人々もいる。トイザらスで副店長をしていたウィリアムズ氏も、小売業界に戻ってきた。現在、パーティシティ(Party City)の副店長として、トイザらス時代の上司と一緒に仕事をしている。
ウィリアムズ氏は時間給だがフルタイム勤務のいまの仕事に満足しているという。それでも、職場近くの空き店舗を目にするたびに、この業界の不安定さを思い知らされる。
「どこもかしこも閉店セールだ」と、ウィリアムズ氏は嘆く。「こんな状況を見るにつけ、ここで失業した人たちは、いったいどこで仕事を見つけるのだろうと考えてしまう」。
Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)