今年の初めまで、小売業界における「未来の店舗」と言えば顧客に新たな体験を提供するリアルな場を意味していた。しかし、コロナ以降その前提は大きく変化した。店舗を可能なかぎり安全な場所にし、顧客との新たな関係性を構築し、オンラインと実店舗と組み合わせて効率を高めることに注力しはじめている。
今年3月以前であれば、多くのブランドや小売業者が構想する「未来の店舗」といえば、店舗をただ支払いをすませるだけの場所でなく、訪れた人が店内を見て回って体験を得られる場所にするといった考えが中心だった。しかし、それはもう過去の話だ。
いまや小売業者は店舗を可能なかぎり安全な場所にすること、店との関わり方について顧客に最大限の選択肢を提供すること、オンライン小売の要素を実店舗と組み合わせて効率を高めることに注力している。
米DIGIDAYの姉妹サイトであるグロッシー(GLOSSY)はブランドや小売業者、店舗不動産を扱う業者の計6社に話を聞き、今の視点から描く未来の店舗像について語ってもらった。
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ラファイエット148(Lafayette 148)
ニューヨークの高級アパレルブランドであるラファイエット148のCEO、ディアドレ・クイン氏は、未来の店舗が第一に変化すべき点は、体験の中心的要素として顧客関係に再びフォーカスすることだと話す。
「高度にパーソナライズされた手厚いサービスは、これまでも常に当社のコアコンピテンシーだったが、今はこれまで以上にパーソナライズとプライベートなショッピング体験を通じて、安全性を重視したラグジュアリーな体験を提供することが不可欠だ」と、クイン氏はいう。「それを実現する主な手段は、一般的にはパブリックな環境である店舗にプライベートなショッピングスペースを用意して一定の親密さをもたらし、顧客の信頼を再び構築、獲得できるようにすることだ。しかし衛生管理を徹底するだけでは、とても信頼を築くことなどできない。顧客関係の管理は、ブランドロイヤルティを維持・強化するためにも、個々の顧客に合わせたサービスを提供して信頼を再構築するうえでも、いまやきわめて重要な要素となっている。
ラファイエット148は直営店を4店舗運営するほか、百貨店のニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)など数百カ所で商品を販売する。クイン氏は小規模ブティックは以前から厳しい状況にあり、パンデミックでそれがますます悪化するとみている。ラファイエット148は目下、少数の互いに大きくカラーの異なる店舗を展開し、それぞれ土地柄に合わせた独自のサービスを提供する計画を立てているとクイン氏は明かす。たとえば、マンハッタンの繁華街にある店舗は予約制によってパーソナライズをより重視しており、他店舗と差別化を図っているという。
クイン氏は、まったく同じ機能の店舗を何十軒もオープンする戦略はリソースの無駄であり、現在の小売環境にはそぐわないと述べた。
センレヴ(Senreve)
サンフランシスコに実店舗をひとつだけ構えるバッグブランド、センレヴの創設者でCEOのコーラル・チャン氏は、パンデミックの影響により、小売の未来を新たに描き直すにあたっては、いくつか大きな課題が立ちはだかるだろうと述べている。
「私が見るに、『未来の店舗』が備える主な特徴は、体験、コミュニティ、利便性の3つだ」とチャン氏はいう。「これらの要素は、デジタルショッピングやeコマースとは異なる、実店舗だからこそ提供できるものだ。パンデミックはこれらの特徴をさまざまな形で際立たせている。お店に入るという行為のハードルが非常に高くなっている今、そうするだけの価値をもたせるには、体験の要素をそれだけ大幅に強化しなくてはならない。しかし、旧式のインフラのアップグレードにコストがかかることや、全体的なカルチャーが変化するのに時間がかかること、新しいD2Cやデジタルネイティブなビジネスモデルとの競争激化など、多くの課題が存在する」。
ショーフィールズ(Showfields)
ニューヨークに大規模な実店舗を置き、EC専門ブランドにそのスペースを提供するショーフィールズの創設者、タル・ズヴィ・ナサネル氏は、自身の思い描く未来の店舗にもっとも共通する点が多いのはテレビだと話す。
「消費者は継続的でパーソナライズされた体験を得ることになり、結果として全体的な体験が向上する」とナサネル氏は説明する。「継続的というのは、異なるプラットフォーム上でのすべてのセッションが互いに情報を共有し、それが小売体験を形成することを意味する。たとえばNetflixをスマートフォンで見ていて、次にテレビでNetflixを開くと、続きから再生されるようなものだ」。
「またパーソナライズというのは、店に入ってくるのが誰かによって店舗の一部分、および体験全般が変化するという意味だ。これはウーバー(Uber)に乗車すると、ドライバーが乗客の名前や、乗客がプロフィールに追加した情報を把握しているのに近い」。
「未来の小売業者は、もはやオンラインとオフラインを区別しない。代わりにすべてがブランドのタッチポイントになり、どこで顧客と会うか、顧客がどのように商品をカートに入れたか、またどの実店舗を利用するかといったことは問題ではなくなる。小売業者はサービス全体で取り組みを最適化し、これらのタッチポイントをすべてひとつのプロセスに収める」。
グリーンレーン(Greenlane)
ライフスタイルブランドやCBD(カンナビジオール)ブランドを所有するグリーンレーンのバイスプレジデント、エリック・ハモンド氏は、この先1年間の実店舗型小売の不足を補ううえで、強力なオンラインプレゼンスが重要になることを強調した。
「店頭体験の大部分が単なる決済と化してしまったなかで、オンラインと同じハイレベルな体験を創出することへとフォーカスが大きくシフトした。オンラインでは顧客が高度にキュレートされた品揃えを見て回り、購入した品を自宅に直接届けてもらうか、あるいは旗艦店での店頭受け取りにするか選択できる」と、ハモンド氏はいう。「未来だけでなく現在の店舗でも、実店舗とデジタルの売り場をシームレスに行き来することができて、なおかつそれを支える強力な運用体制を整えることが、顧客のロイヤルティを維持するために必要だ」。
「実店舗型小売が直面している最大の課題は不確実性だ」と、ハモンド氏は指摘する。「これには、消費者のお金の使い方にどのような長期的影響が出るかという不確実性、そしてそれぞれの市場によりこの感染症との戦いがどう進展するかわからず、規則や規制もさまざまに異なるという不確実性が含まれる。ひとつ確かなことは、不足を補うために強力で頼れるデジタル要素が必要になるということだ」。
ジェームスタウン(Jamestown)
ジェームスタウンは、かつてニューヨーク、マンハッタン地区の商業施設「チェルシーマーケット(Chelsea Market)」を所有し、現在もブルックリン地区にある小売店舗を含めた複合商業施設「インダストリーシティ(Industry City)」を所有する不動産開発業者だ。そのプレジデントを務めるマイケル・フィリップス氏は、実店舗型小売とオンライン注文の処理を結びつける小売業者の取り組みがいまのところ順調に進んでいないことについて、改善の必要があると指摘する。
「小売業者はオンラインと店頭での購入を一体化すべきだ」とフィリップ氏はいう。「一部のブランドは実店舗をひっそりとフルフィルメントセンターに利用しているが、それはすべての人にとってのシームレスな体験ではない。従来の実店舗型の小売業者は、もともとの慣れた環境がやりやすい。オンラインサービスも徐々に導入してはいるが、もっと本腰を入れてやるべきだ。いまやその重要性が格段に高まっている」。
「その一方で、デジタルブランドもまた実店舗におそるおそる進出し、デジタルとはかなり勝手の違うビジネスであることを知りつつある。ワービーパーカー(Warby Parker)やボノボス(Bonobos)などの成功例もあるが、それ以外のブランドはまだいろいろと学んでいる最中だ。今後は、各自が独立店舗を出す代わりに、小売の共同店舗が増えるだろう。互いを補完しあうデジタルネイティブなブランドがひとところに集まることで、コミュニティ体験が創出され、また各ブランドが対面型ビジネスを試行できる店舗だ。話題のD2Cブランドを実店舗に集めたネイバーフッド・グッズ(Neighborhood Goods)はこれで大きな成功を収めており、今後はほかにもウェルネスや黒人経営のビジネスといった特定のテーマをもった共同店舗が登場するだろう」。
TFコーナーストーン(TF Cornerstone)
ニューヨーク市内に数十件の小売向け不動産を所有するTFコーナーストーンのプリンシパル兼シニアバイスプレジデントを務めるジェイク・エルガナヤン氏も、やはりフィリップス氏と同様の意見だ。
「長期的なコンセプトは(パンデミック以降も)変わっていないと思うが、ただひとつ、新型コロナウイルス感染症の流行で、オンラインと実店舗の統合はおそらくより一層重要になっている。短期的には、オンラインと実店舗のチャネル統合が進むだろう。長期的には、ニューヨーク市をはじめ全米でおそらく小売向けのスペースが余るだろう。在庫の取り扱いには流通センターのほうが好都合だからだ。そのため、小売向けスペースを他の目的に転用する必要が出てくる」。
[原文:Six retailers on the store of the future: ‘Uncertainty is the biggest challenge’]
DANNY PARISI(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島 翔平)