私たちは広告を無意識のうちに排除する傾向にあります。そのためマーケターの仕事においては、いままでにない方法で消費者とのつながりを築くことが不可欠になりました。そのひとつが「ブランデッドエンターテインメント」と呼ばれるものです。本記事では、そもそも「ブランデッドエンターテインメントとは何か?」について考えます。
本記事は、アジア太平洋広告祭アドフェスト「コレクティブ」およびJWTアジアパシフィッククリエイティブカウンシルのチェアマンを務めるロー・シェン・ヤン氏による、寄稿コラムとなります。
2016年6月、米国アカデミー賞公認となるアジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」が新設した部門「ブランデッドショート(Branded Shorts)」に、私は参画しました。「ブランデッドショート」とは、企業やエージェンシーがテレビCMでは伝えきれないメッセージを主にオンライン用に表現した映像「ブランデッドエンターテインメント」を専門に扱った部門。そこで開催された動画マーケティングに関するカンファレンスでも議論しましたが、そもそも「ブランデッドエンターテインメントとは何か?」について考えたいと思います。
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テレビCMの延長ではない
私たちは広告を無意識のうちに排除する傾向にあります。そのためマーケターの仕事においては、いままでにない方法で消費者とのつながりを築くことが不可欠になりました。そのひとつが「ブランデッドエンターテインメント」と呼ばれるものです。
動画視聴者の感情を捉えて関係を築くわけですが、せっかく予算を割いたのに「『広告メッセージ』に退屈した」などと言われてしまうのは絶対に避けたいですよね。しかし実際に、マーケターのなかにはブランデッドエンターテインメントをテレビCMの延長と考えている人が大勢いるのです。
ここを売り込みたい、この商品を使いたい、ブランド名を映したいといった要素を躍起になってストーリーに詰め込みますが、その結果、作品はエンターテインメントでなくなってしまうのです。

2016年の「Branded Shorts of the Year」受賞発表の様子
視聴する対価が求められる
視聴者は賢い――。彼らは、皆さんが純粋な思いでエンターテインメントを作っていないと、すぐにそれをかぎ分けます。「これに時間を費やしても何の得もない」と分かっているものに、大事な時間を割く人がいるでしょうか? 無限にオンラインコンテンツが溢れる環境で、人々がひとつの物事に対して興味を持つ時間は短くなっています。
同時に彼らの手には、何を見たいか、コンテンツとどのように付き合いたいかという判断の主導権が握られています。つまり成功するコンテンツを生み出すためには、彼らにとって「視聴する対価が十分あること」を何よりも考えなければならないのです。
ブランデッドエンターテインメントという名前からわかるように、ここでの視聴者を取り込む活動には、「ブランドらしさ」が求められます。とはいえ、ストーリーにブランドをねじ込むという話ではなく、言わばブランドが自然にストーリーに織り込まれていることが理想です。
成功を左右する5つの問い
制作したストーリーや全体の作法は、ブランドの個性に相応しいものでしょうか? ストーリーとブランドは切り離せないものになっているでしょうか? ブランド哲学を明らかにしつつ、ストーリーと融合させているでしょうか? ストーリーとブランドのビッグアイデアに矛盾はないでしょうか?
そして、この最後の質問への答えが、コンテンツの成功を左右する究極の分かれ道です――そのストーリーには、ブランドのビッグアイデアが映し出されているでしょうか?
ブランデッドエンターテインメントを創るうえで、ブランドの在り方がストーリーと調和していることが重要なのは、この理由からです。いかにも「作り物」風なストーリーでは、視聴者が離れてしまいます。反対にストーリーとブランドが関係ないというのも、作品自体がいかに感動的で心を掴むものであろうと資金の無駄遣いに変わりありません。
2016年の受賞作品
「ブランデッドショート」の2016年受賞作品を見ると、インターナショナルカテゴリーとナショナルカテゴリーともに、非常に見る側の感情を捉え、取り込む力がある作品だと感じました。楽しんで観ている作品のなかで、自然にブランドの存在に触れられます。無理をしている感じがありません。ブランドメッセージをさりげなく受け取ることができるのです。いずれのストーリーもブランドのビッグアイデアをよく反映したものでした。
インターナショナルカテゴリーの受賞作品は、特にキャスト力の高さが目立ちましたが、一方でキャスティングが良いからといって、多くの人に観てもらえるとは限らないということには気を付けていただきたいところです。世界的なスター俳優が出演しているにもかかわらず、最後まで再生してもらえないというケースは沢山目の当たりにしてきました。
『紳士の賭け事Ⅱ』(Johnnie Walker Blue Label)
ナショナルカテゴリーはより短い作品でしたが、最後に少年の夢が明らかになるくだりがとても感動的で、ブランドと密接に関連しているところもポイントです。
『へんな生き物』(早稲田アカデミー)
ショートショート フィルムフェスティバル & アジアでは、6月に開催する「Branded Shorts 2017」に向けて、全世界から作品を2017年3月31日まで募集しています。
ブランデッドエンターテインメントとは?
動画広告が広く認知されてきている現在。広告自体がエンターテインメント性を帯びたエンターテインメントそのものである、という考え方から、ブランディングのために制作された動画のことを、「ブランデッドエンターテインメント」と呼ぶことが多くなりました。その中でもショートショート フィルムフェスティバル & アジアは、国際短編映画祭として、「アイデア、ストーリーテリング、シネマチック、エモーショナル」という4つの視点において特に優れた作品を「Branded Shorts(ブランデッドショート)」と定義づけて紹介をしています。
※DIGIDAY[日本版]は、「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア Branded Shorts」のメディアパートナーとなっています。
Written by Lo Sheng Yan (Mayan)
Photo by GettyImage