Shopify は、中国のeコマース巨大企業である JD.com と提携し、越境販売での売上拡大を目指す。契約の一環として、Shopifyにストアを持つ米国企業は、5億5000万人の顧客が利用する中国のオンラインマーケットプレイスに自社の商品を出品できるようになる。
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Shopify(ショッピファイ)は、中国のeコマース巨大企業であるJD.com(JDドットコム)と提携し、越境販売での売上拡大を目指す。
契約の一環として、Shopifyにストアを持つ米国企業は、5億5000万人の顧客が利用する中国のオンラインマーケットプレイスに自社の商品を出品できるようになる。JD.comは、自社の貨物便を利用して米国の倉庫から中国まで商品を輸送し、配送を完了させることで、エンドツーエンドのフルフィルメントを担当することになる。
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世界最大のオンラインショッピング市場
この取引は、消費者に直接販売する小規模事業者が多いShopifyの170万社の加盟店に対し、世界最大のオンラインショッピング市場へのアクセスを開放することが目的だ。分析会社のグローバルデータ(GlobalData)によれば、中国の2021年のeコマース販売は総額2兆1000億ドル(約239兆円)と推定され、米国市場の2倍を超える。
Shopifyによれば、この新しい統合により、他国のブランドが中国で販売を行うための煩雑なプロセスが、12カ月から3〜4週間に短縮される。Shopifyを利用する事業者(マーチャント)は、オンボーディングのサポートを受けられ、関税や為替レートの自動計算、商品タイトルや説明文のスマートな翻訳などの機能を利用することができる。また、JD.comが抱える多くの事前審査済みサプライヤーから商品を調達することもできる。
1月18日からの展開に先がけ、Shopifyはデザイナーブランドのアルチュザラ(Altuzarra)など一部の企業と共同で、密かにツールをテストしていた。この立ち上げはShopifyがパンデミックの最中に自社の大きな成長を維持するため、国境を越えた売上の増加を推進する手段の一部となる。
アジアでの利用が急増しているShopify
Shopifyの会計第3四半期におけるGMV(流通取引総額)は418億ドル(約4兆7700億円)で、前年比で108億ドル(約1兆2300億円)、35%増加した。同社のGMVは2020年に、パンデミックの最中に多くの人々がオンラインでショッピングを行ったことから一気に96%も増加し、1195億ドル(約13兆6000億円)に達した。一方でJD.comは2021年10月末にシングルズデー(Singles Day)で550億ドル(約6兆2700億円)近くを生み出した。より広い範囲で見ると、同社の第3四半期の収益は2187億元(約3兆8600億円)で、2020年の同じ期間より25.5%増加している。
2020年の時点で、Shopifyのソフトウェアを使用してオンライン販売を行っている170万のマーチャントのうち、50%は米国、8%は英国、6%はオーストラリアに存在していた。アジアは同社のもっとも急速に成長している地域のひとつで、すべてのマーチャントの約15%に相当すると、Shopifyのバイスプレジデントを務めるアーロン・ブラウン氏は米モダンリテールに語っている。
ブラウン氏は次のように述べている。「当社とJD.comとの戦略的なパートナーシップは、国境をまたぐコマースに関係する複雑性のほとんどをマーチャントに代わって処理する、はじめての国際販売チャネルだ」。
中国市場へのエントリーポイントに
中国の高度なeコマース市場は、オンラインマーケットプレイス、ソーシャルコマース、ライブストリーミングプラットフォームの混合により独占されている。JD.comとともに、アリババ(Alibaba)によるティーモール(Tmall)や、同社のタオバオライブ(Taobao Live)によるライブショッピングの動画サービス、テンセント(Tencent)のウィーチャット(WeChat)やドウイン(Douyin:TikTokの親会社であるバイトダンス[ByteDance]が所有)によるメッセージングやショート形式の動画アプリがある。
現地のインターネット規制を克服するため、中国で操業するeコマース代理店のクライアントのほとんどが、中国で単独のストアを作成する代わりに、現地のプラットフォームで直接商品を出品することを選択したと語っている。前者は外国のウェブサイトを標的にし、国境を越えるトラフィックを減速させる中国の厳格なオンラインルールによって、コストと制約が生じる可能性があるとしている。
ソニー・プレイステーション(Sony PlayStation)やドクターマーチン(Dr Martens)とともに仕事を行ってきたeコマースコンサルタントのポール・ロジャース氏は、「実のところShopifyは、大量販売を目指すマーチャントにとって、中国のサイトとしてベストのソリューションではない」と指摘する。「当社のクライアントの多くは中国でホスティングされた別のサイトを運用し、現地支払いオプションすべてに対して完全に最適化されている。これに加え、クライアントはウィーチャットのミニプログラムやティーモールでも販売を行っている」。
ハズブロ(Hasbro)や、パンガイア(Pangaia)、ジグソー(Jigsaw)などの国際的ブランドと取引しているShopifyプラス(Shopify Plus)の代理店であるウィー・メイク・ウェブサイト(We Make Websites)でソリューションコンサルタントを務めるグレゴワール・バール氏によれば、ShopifyのJD.com販売チャネルは、本格的なストアを採用する前に市場をテストしたいブランドにとって、中国への「エントリーポイント」を提供できるだろうと述べる。ほかのオンラインマーケットプレイス同様、ブランドは、自社のサプライチェーンが新規注文の数量に耐えられるかどうか、また、偽造品の問題などに対応できるかなどのリスクを考慮する必要があると、同氏は付け加えている。
海外ブランドの獲得に期待するJD.com
分析・コンサルティング企業のガートナー(Gartner)でアジア太平洋の調査専門家を務めるセアラ・シュウ氏によれば、JD.comは海外のブランドの獲得に成功した。2015年に中国で開始された同社の越境ECプラットフォーム、JDワールドワイド(JD Worldwide)は、米国や、韓国、日本、ニュージーランド、フランス、ドイツなど約100カ国から2万のブランド、1000万以上のSKUを扱っている。中国の消費者は、アクティブウェア、化粧品、粉ミルク、栄養補助食品など、特定のカテゴリーにおいて、国内の競合商品よりも高品質とみなした国際ブランドに引き寄せられていると、シュウ氏は語る。
またJD.comは、「スーパーブランドデイズ(Super Brand Days)」と呼ばれる活動の一環として海外ブランドを紹介し、特定のストアに関してプロモーションや広告活動を強化している。最近の例として、アディダス(Adidas)や、コカ・コーラ(Coca Cola)、デル(Dell)、およびスキンケアブランドのセラビ(CeraVe)があり、セラビは中国に参入するためJDビューティー(JD Beauty)と提携した。一方でナイキ(Nike)は、オンライン販売においてアリババのティーモールと提携した。
JDワールドワイドのプレジデントを務めるダニエル・タン氏は次のように述べている。「当社は、Shopifyとの提携により、中国以外のブランドに対して、中国市場での巨大な可能性が開かれると信じている。同時に、これによって当社の国際的なサプライチェーン能力を活用し、従来は非常に複雑だったプロセスを簡素化することによって、国境を超えるコマースが増大するだろう」。
越境販売サービスをさらに強化
Shopifyはこの1年、マーチャント向けの越境販売の効率化に注力してきた。昨年の秋に同社は、現地通貨や、支払い方法、言語、現地ウェブサイトドメインなどを含む国際販売ツールをグループ化し、早期アクセスユーザー向けのShopifyマーケット(Shopify Markets)ハブとして、再ブランド化した。
この戦略は、アプリストアのエコシステムにも反映されている。このエコシステムには7000のアプリが含まれ、マーチャントはこれらのアプリを自社のオンラインストアと同期することで、カートに放棄された商品のリマインドから、ウェブやソーシャルメディアのGoogle、Facebook、TikTokとの統合まで、フロントエンドとバックエンドのサービスを強化することができる。これにはプラグインも含まれており、マーチャントはウォルマート(Walmart)や、eBay、日本の楽天市、オーストラリアのマイディール(MyDeal)など米国内および米国外のマーケットプレイスで販売を行うことができる。2020年にウォルマートの販売チャネルを開始したとき、Shopifyは同年末には1200の出品者がこの統合機能を活用することを予測していると述べていた。
しかし、越境販売ツールを提供するeコマースプラットフォームはShopifyだけではない。ライバルのビッグコマース(BigCommerce)は昨年夏にラテンアメリカのマーケットプレイスであるメルカドリブレ(MercadoLibre)と提携し、同社の大企業顧客が新しい地域に参入できるようにした。一方でAmazonは、同社のマーケットプレイスの出品者が全世界で3億人の顧客を対象にできると語っている。
国際的なパートナーシップをさらに増やす計画について質問されたとき、Shopifyのブラウン氏はその可能性があることを示唆した。同氏は次のように述べている。「当社は常に、マーチャントの成功を助ける新しい方法を探し求めている。国境を超えるコマースはマーチャントにとってますます重要になってきており、当社はコマースが国境によって制限されない未来を築きあげるため労力を注いでいる」。
[原文:Shopify partners with China’s JD.com on cross-border sales for merchants]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)