中小企業から大手に至るまで、世界中の企業にeコマース支援を提供してきたShopify。2017年の日本進出以降、国内でもその存在感を高め続けてきた。そんななか昨今のコロナ禍は、同社の勢いに拍車をかけたといえる。
実店舗にも徐々に客足が戻っている。だが、一度変化した人々の購買習慣が、元に戻ることはなさそうだ。
2020年は、国内外で多くの事業者がeコマースに進出した。実際日本では、2019年上半期と2020年上半期を比較すると、Shopify(ショッピファイ)のマルチチャネルコマースプラットフォームで新規にショップを開設した事業者は175%も増加。これまでオフラインを主戦場にしていた企業も、オンラインチャネルを取り入れ、困難に対応しようとしたのだ。
「コロナ禍によって、これまでオフラインに依存していた、国内企業のマルチチャネル化が劇的に加速した。この勢いはコロナ禍が収まった後も続くだろう」。こう語るのは、Shopify Japan カントリー・マネージャーのマーク・ワング氏だ。中小企業から大手に至るまで、世界中の企業にeコマース支援を提供してきたShopify。2017年の日本進出以降、国内でもその存在感を高め続けてきた。
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そんななか昨今のコロナ禍は、同社の勢いに拍車をかけた。今年5月には、楽天のサービス群との連携を果たし、過日、海外では先んじて提供を開始していたShopify POSを発表している。コロナ禍で、企業のマルチチャネル化がいかに加速したか、そして同社の国内戦略についてマーク氏に訊いた。読みやすさを重視し、一部編集してある。
──外出制限は、eコマース事業にとって追い風となりました。Shopifyには、どんな影響がありましたか?
2020年3月と4月を比較すると、国内でShopifyを使って新しくショップを開設した事業者の数は、50%以上も増加しました。また、日本において新しくショップを開設した事業者の数は、2019年上半期と2020年上半期を比較すると、175%も増加しています。一方、生活者にも変化が見られます。Shopifyで作成されたECサイトで、はじめて商品を購入した日本国内の方は、3月から4月にかけて77%も増加しています。
こうした傾向からいえるのは、これまで小売店などの実店舗をメインに展開していた企業がオンラインに進出し、販売チャネルの多様化、つまりマルチチャネル化が進んだということです。そして消費者もまた、外出制限の影響で、オンラインでの購買行動に慣れてきています。これらはコロナ禍以前から見られたトレンドではありますが、ここに来て一気に流れが加速しました。
──なるほど。どのような日本企業が、Shopifyでeコマースに進出しはじめていますか?
日本では、オンライン化が遅れている領域、たとえば食品業界の企業などが目立ちます。たとえば「よなよなエール」を提供するヤッホーブルーイングや、沖縄県に拠点を置く歴史ある企業、オリオンビールなどが挙げられます。また、食品以外にも炊飯器、水筒などを扱うタイガー魔法瓶は、我々のサービスを活用してD2Cブランドを展開するなど、eコマースに注力しはじめています。
こうした傾向は、グローバルでも見られています。トマトケチャップで知られるハインツ(Heinz)や、リンツ(Lindt)といった老舗企業が、Shopifyを利用してeコマースをスタートしています。
──ちなみに、コロナ禍で生まれた海外のトレンドで、今後日本にも来そうなものはありますか?
トレンドといって良いかはわかりませんが、主に英語圏の市場で見られる傾向で、今後日本に来そうだと思っているのは、オンラインとオフラインのチャネルのインタラクション。つまりは先述したマルチチャネル化の流れです。
今年はじめ、多くの事業者がコロナウイルスの影響を受けるなか、我々は多くのリソースを投入し、困難な状況でも我々の事業者がビジネスを推進していけるような、新たな機能開発に着手し、英語圏では先んじてローンチをしていました。そのひとつが、事業者に対し、カーブサイド・ピックアップ(リアル店舗の外で、ECで注文した商品を受け取ることができるサービス)といった、店頭での商品受取りを支援する機能です。たとえばこの機能を利用すれば、オンラインでオーダーされた商品をデリバリーしたり、あるいは店頭や駐車場などでお客様にピックアップしてもらうことが、簡単に実践できます。
我々はこうした機能を、Shopify POSとして、日本でも発表しました。国内のショッピング習慣の変化に対応すべく奮闘する事業者の方々の支援を、引き続き行なっていきたいと考えています。

Shopify POSの操作画面イメージ
──それはすごいですね。英語圏の企業からはどのような反響がありましたか?
英語圏の市場においては、この機能をローンチしてから第2四半期の終わりまでに、実店舗主体の事業者の多くがオンラインショップを開設する動きが見られました。デリバリーは日本でもコロナ禍以降多く見られるようになりましたが、カーブサイド・ピックアップなどは、今後の感染状況次第では、日本でも見られる可能性がある。こうした、これまでオフラインをメインにビジネスを進めてきた企業がオンラインも活用するという動き、つまりマルチチャネル化は、日本市場でもこれまでにないスピードで起こってくるのではないかと考えています。
また、英語圏では、これまでB2Bでビジネスを展開していた事業者が、D2Cにシフトするという動きも見られています。加えて、従来は卸業を営んでいた中間業者も、D2Cにシフトするようになりました。こういった動きも、国内で今後加速していくでしょう。
──今年5月に実施した楽天との連携ですが、その目的や成果などを教えてください
楽天市場は、日本で一番大きなマーケットプレイスのひとつです。そんな楽天のサービスと連携できたことを非常に嬉しく思っています。彼らは日本市場において非常に強固なエコシステムを持っている。連携の目的は、そのなかにShopifyが加われば、大きな可能性が生まれると考えたからです。最近では、Shopifyで作成されたWebサイトで楽天ペイを使えるように事業者が設定すれば、購入者がそこで楽天ポイントを使用できるようにもなりました。
連携からすでに数カ月が経っていますが、現在、多くの事業者が興味を持ってくれています。たとえば ゴーゴーカレーは、Shopifyを利用しつつ、楽天市場でもショップをオープンしています。また、京都発のD2Cコーヒーブランドで、シンガポールにも進出している、Kurasu Kyoto(クラス・キョート)も同様です。ほかには、酒造メーカーの京都醸造も、Shopifyや楽天をはじめ、SNSなど複数のチャネルを利用してD2C戦略を展開しています。
楽天とは、今後もどのようにパートナーシップを強化できるのかを模索していきたいと考えています。たとえば、決済システム、流通周りのシステムなどがそうです。今後も彼らと我々のコラボレーションを通じ、オンラインにおける購入体験を、より豊かなものにしていきたいですね。
Written by 村上莞
Transcription by 小玉 明依