資生堂グループは、2020年に向けてマーケティング投資の強化を計画しており、なかでもデジタル関連投資には、その全体額の2割以上を充てていくという。そこで同社は、ブランド間のサイロ化を超えてデータを活用するために、MI(マーケティングインテリジェンス)のDatorama(デートラマ)を導入した。その背景を探る。
マスを主戦場としていた大手企業も、デジタルへ大きく舵を切りはじめている。
資生堂は、2020年までの3年間でマーケティング投資の強化を計画しており、累計投資額は1200億円。なかでもデジタル関連投資には、250億円を投じるという。ちなみに、同グループの日本地域の事業を担う資生堂ジャパンは昨年、「お客様(生活者)があらゆる生活場面で、好きなときに好きなように、ブランドを通じた化粧体験を楽しめる」という新ビジョンを打ち出した。
「パートナーエージェンシーも多く、チャネルも増えている。もとより複数のブランドをブランドマネージャー制で運営しているため、ブランドを横断してデータ把握・管理する際には混乱が生じていた」と、資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部 メディアミックスグループ 中條(ちゅうじょう)裕紀氏は、デジタル関連投資を増やす背景について語る。「マーケティング活動において『オペレーション』と『質』のふたつの観点で透明性を担保する必要に迫られていた」。
資生堂は2018年5月、それらの課題を解決し、ブランド間のサイロ化を超えてデータを活用するために、デートラマ、セールスフォースカンパニーのセールスディレクター/ビジネスデベロップメント 石戸亮氏のサポートのもと、MI(マーケティングインテリジェンス)のDatorama(デートラマ)を導入した。このツールを通して、最適な顧客体験の創出に取り組んでいくという。

資生堂ジャパンの中條氏(左)と、デートラマの石戸氏(右)
タイミングに寄り添う
資生堂は今年3月、2020年度までの新3カ年計画を発表。そのビジョンに「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ」と掲げるなか、日本地域の事業を担う資生堂ジャパンは「国内No.1のビューティーカンパニー」になることを標榜し、商品開発から販売チャネルまでを充実させている。
その一貫として、顧客のニーズが発生するタイミングでブランドとの接点が持てるよう、自社ECサイト「ワタシプラス」だけでなく、Amazonやその他の外部ECサイトの取り扱いも増やした。それだけデータ活用やテクノロジーの導入に力を入れていく表れだ。資生堂ジャパンの中條裕紀氏は「具体的な目的は『パーソナライズ』だ」と語る。
「現在アプリやIoTサービスなどで取得しているユーザーの肌測定データや、自社および外部ECサイトで取得できる自社内外購買データなどを活かすことで、将来的にはプロダクト・プロモーション・プレイスの各領域を進化させていけるのでは」と、中條氏は補足する。「そしてパーソナルなコミュニケーションを実現し、ユーザーによりよい体験を提供していく、という構想を描いている」。
広告の2つの透明性
だが、収集できるデータの種類が増えるほど、当然ながらその扱いは複雑化する。複数の個性豊かなブランドを擁する資生堂だとなおさら、ブランドごとではなく顧客をひとつのID、ひとつの人格としてコミュニケーションを最適化していくのは容易ではない。
中條氏が所属するメディア統括部は、事業・ブランドに横断的に関与してコミュニケーションをリードしている。その視点から、マーケティングへのデータ活用に本腰を入れるにあたって、特に広告の透明性という観点で「オペレーション」と「質」というふたつの解決すべき課題を見出していた。
まずオペレーションの部分では、デジタル広告のレポーティングが極めて煩雑になっていたという。自社が扱うあらゆるデータを一元化し、活かしていくにも、ブランドマネージャー制であると同時に、複数のパートナーエージェンシーと業務を進めるなかでは、複雑化し続けるデジタル広告のレポーティングを統合管理するのは非常に難しい。デートラマの石戸氏は、多くの広告主やエージェンシーに向き合うなかで「レポーティングは長年、エージェンシーにも広告主にも悩みのタネ。二次加工したうえで提出といった要請に応えていくと、どこかでミスも発生する」と、現場の厳しい実情を教えてくれた。
この点が整備されないと、変化の速い時代によりスピーディーにアクションできない。中條氏が描いていたのは、かつての春夏プロモーションを受けて秋冬の企画を立てるようなサイクルではなく、20近いブランドで週次レベルの結果を把握し、打ち手を次々と打っていくことだ。「その際、従来のExcel(エクセル)やPowerPoint(パワーポイント)でのレポーティングでは、ファイルという形でデータが人やチームに紐づいてしまう。タイムリーな確認や分析、そして施策実行のためには、データを人に紐づかせずに皆が同じタイミングで見たいものを見られる環境が必要だった」。

「タイムリーな確認や分析が行える環境が必要だった」と、中條氏は語る
デジタル上でブランドを
もうひとつの質の課題は、デジタル上の接点の影響力がますます大きくなるなかで、同社はこれまでマス広告で当たり前だった考え方をデジタル広告にも適用しようとしていることが背景にある。言ってみればシンプルな話で、それは「ブランド毀損のリスクのない場に出稿する」ことだ。だが、どこに出稿されているか管理しきれないデジタル広告では実現できていない。
「本来、これを『仕方ない』と受け入れるのは間違っている。アドフラウドの問題に正面から向き合い、質を担保すべきと考えた」と、中條氏は語る。「コミュニケーションのデジタルシフトは、生活者ベースで考えるともはや必然だ。だからこそ大きく投資をするいま、ブランド毀損のリスクを負わずに、デジタル上での関係構築を進めることは不可欠だった」。
このふたつの課題に正面から取り組むため、資生堂ジャパンではMIツールとしてDatoramaのプラットフォームを採用し、4カ月ほどの準備を経て、この春から運用開始した。2012年にイスラエルで創業したデートラマは、この8月20日からセールスフォース・ドットコム傘下となり、さらなる発展が期待されている企業だ。
「Datoramaは、ビジネスの現状把握という思想の下に開発されたBI(ビジネスインテリジェンス)ツールと異なる」と、石戸氏は説明する。「Datoramaは顧客を知るためにマルチデータソースを管理・分析するマーケティングインテリジェンスのツールだ」。
同プラットフォームの特徴は、デジタルやテレビCMのマーケティングデータから売上や市場調査データまで、数百ものデータソースの統合が可能なうえ、レポーティング自動作成や広告配信の進捗・実績管理機能をはじめ、現在ではAIも備えて高度なデータ分析と可視化を実現している点だ。それもすべて同一プラットフォーム上で一気通貫に実行できる。採用の理由について中條氏は、「もともとBIツールは使っていたが、あくまでウィークリー、マンスリーのサイクルの社内データを蓄積する場という位置づけで、リアルタイムにデータからスピーディーにアクションを打つには適していなかった。当社にない外部データの接続の柔軟性と可能性、またインターフェースの見やすさ・使いやすさを踏まえて選択した」と話す。
MIの概念で意識改革
現在は、全ブランドが出稿しているデジタル広告のデータをDatoramaに一元化し、同じフォーマットで見られる状態を整備している。必要なデータをリアルタイムで入手できるようになったため、いちいちデータを保有する社内の担当者やエージェンシーに依頼して得るというロスが減ってきている状態だという。まずはメディア統括部内でDatoramaにアクセスできる人を増やしており、そのメンバーの意見を聞きながらデータの種類を拡大している最中だ。
ただ、デジタル広告のデータを一元化するというスタートラインに立つまでに、相当な困難があったようだ。前述のように複数のエージェンシーが関与しているため、会社ごとに業務フローやスキームが異なっており、Datoramaにデータを接続するために個別の調整が発生していたからだ。またエージェンシー以外からのデータも、リアルタイムで入手し、確認できる流れの構築に時間を要した。
「メディアからエージェンシーまでのあいだのデータ入手の部分は各社流れが異なり、当社がDatoramaを導入するからといって全パートナーが一気に変えてもらうことは難しい部分も多かった。その反面、『これを機に業務を見直すことができた』と喜んでいただいたパートナーもある」と、中條氏は語る。「そうした副次的効果は、前述のふたつの透明性の解決だけでなく、パートナーシップの質の向上にもつながっている」。
実際、広告主企業やメディアだけでなく、エージェンシーにも数多くDatoramaを提供するなかで、データドリブンのオペレーションへの変革が実現している例も少なくないそうだ。
「会社の風土や体質から、そこで対応しきれないエージェンシーが脱落してしまう可能性は否めない。だが、私自身のエージェンシーやプラットフォームでの経験も踏まえて、作業的な業務で深夜残業などのつらい側面が生じているのは解決すべき」と、石戸氏は熱弁する。「そこに役立つのは我々の本望でもある。なので、競合ツールはない。だが、大きな意味での競合は、『エクセルで手作業』という意識そのものだと捉えている」。

「大きな意味での競合は、『エクセルで手作業』という意識」と、石戸氏は語る
プラスアルファの飛躍
そもそもデートラマ創業の背景には、エージェンシーサイドでの3つの課題があった。1つは、テクノロジーの急増。2つ目が、オン・オフをまたいだ生活者接点の複雑化。3つ目が、パートナーシップのサイロ化だ。宣伝部とデジタルマーケティングのチーム、さらにCRMのチームがそれぞれ各エージェンシーと業務を進め、チャネルやメディアに向き合っていると、エージェンシーのレポーティング業務は単純に倍々に肥大する。これらを解決するプラットフォームとして開発され、創業当初からエージェンシーの厚い支持を受けるなか、この数年で広告主企業へも急拡大してきた。
資生堂ジャパンでは引き続き社内外の整備や調整を急ぎつつ、各ブランド部門とも共有していく。タイムリーなアクションにはSNSデータの補完や、またいまも変わらず重要な販売チャネルである店頭の購買データや位置情報、あるいはIoTによって店内の人の動きなどもデータ化して、活用することもできるだろう。小売店とメーカーのこれまでにない形での連携には、双方にメリットをもたらす可能性がある。
「そうなった際に各業界のデータをどんどん接続できると、ビジネスのスピードがかなり違ってくる。データ活用は一部のブランドで進めても全社的な動きにならないので、ブランド部門と共有していきたい」と、中條氏は展望を語る。既存の課題がクリアになったことで、データ活用のアイデアが生まれたらすぐ、プラスアルファの飛躍を探るフェーズに移行できるという。なお、資生堂ジャパンは2018年、デートラマ主催のグローバルイベントで、初の顧客向けアワード「リミットレスアワード(Limitless Award)」の透明性部門を受賞している。
デートラマではデジタル化が進むテレビのデータや、第三者の消費者調査データなどのデータホルダーとの接続のテストを終え、インテージやビデオリサーチ、エム・データなどと業務提携を順次進めている。小売企業にもヒアリングし、連携を模索しているという。「こうした動きをもっと加速させたい。企業ごとに異なるデータ管理方法の整備にどう取り組むかが、この先数年の我々の課題」と石戸氏。データ活用の要請に応え、それを牽引する存在を目指す。
Sponsored by Datorama Japan, a Salesforce Company
Written by 高島知子
Photo by 合田和弘