創業150周年を迎える資生堂は、現在10カ月におよぶ無料のYouTubeテストシリーズを進めているところだ。統合マーケティング戦略・消費者エンゲージメント担当バイスプレジデント、ジェシー・ドウズ氏によると、このアプローチを取った理由は年内のプロモーションを行う前に動画の推進力をテストするためだという。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
創業150周年を迎える資生堂は、現在10カ月におよぶ無料のYouTubeテストシリーズを進めているところだ。これには、最終的にYouTubeで有料戦略を構築し成功を収めるという目標がある。
シリーズのテーマは資生堂、Jビューティ、レイヤリング
24エピソードからなるこのオリジナルシリーズでは、キャスターでウェルネスインフルエンサーであるキャンディス・クマイ氏が起用された。同氏は資生堂の歴史とJビューティの歴史を詳しく解説し、同氏の日本のルーツに関する経験談などが織り交ぜられている。資生堂の有料メディア戦略は100%デジタルであり、これは米国資生堂のチャネルでの最初の無料YouTubeシリーズである。
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資生堂の統合マーケティング戦略・消費者エンゲージメント担当バイスプレジデント、ジェシー・ドウズ氏によると、このアプローチを取った理由は年内に有料広告に投資しそのプロモーションを行う前に動画の推進力をテストするためだという。有料広告を行う際には、YouTubeのトゥルービュー(TrueView)広告プラットフォームに広告費を投入し、同社のeコマースサイトにアクセスするための行動喚起が含まれる予定だ。
本シリーズの開始に先立ち、資生堂は、YouTube、Google検索、小売パートナー、資生堂のD2C eコマース全体で主要なビューティ検索用語をまとめた。同社のサイトでもっとも人気があった用語は、「ファンデーション」、資生堂の主力シリーズの「ベネフィアンス(Benefiance)」や「ワソウ(Waso)」などであることがわかった。ドウズ氏は、季節によって人気のある検索用語が変わることを指摘し、4月には日焼け止めが注目され始めると述べている。登録者数が5.3万人の米国資生堂YouTubeチャネルにおいて、「日本のレイヤリング(重ねづけ)の技術(The Japanese Art of Layering)」というタイトルの5年前の動画が再生回数44.5万回で、再生回数が数千回という大部分の動画を上回っている。
「この検索クエリボリュームデータをすべて活用することで、もっとも需要の高いテーマにマッピングされるコンテンツを制作できる。我々はこのアプローチに自信を持っている」とドウズ氏。「これはネットフリックス(Netflix)のアプローチにかなり近いもので、視聴者から反響のあるコンテンツを提供するために視聴習慣に関する消費者データを活用する」。
現時点で資生堂はその成果を感じているようだ。3月18日に公開された最初の動画は同社のYouTubeチャンネルで2000回視聴されたが、同じ期間におけるオーガニック動画の平均と比較して視聴回数は52%、総再生時間は578%増加した。2番目の動画は4月4日に公開され、視聴回数1400回。回数は88%増加し、総再生時間は340%長くなった。
非典型的なインフルエンサー、クマイ氏の起用
クマイ氏はビューティブランドから選ばれる典型的なインフルエンサーとは一味違っている。同氏の専門は調理学と放送ジャーナリズムで、現時点でYouTubeのチャネル登録者は3000人に満たない(ただしインスタグラムのフォロワーは18.4万人)。ドウズ氏によると、資生堂がクマイ氏との協働に関心を寄せたのは、インフルエンサーとしては非典型的な経歴を持っていること、そして日系である点だという。また、クマイ氏が『トゥデイショー(原題:Today Show)』でビューティ製品について語ったときに資生堂について言及して、同社に「成果」をもたらしたこともあったという。
クマイ氏のシリーズはいくつかのセクションに分かれており、最初の2エピソードは日本のレイヤリングへのアプローチに焦点が当てられている。日焼け止め、スキンケア成分、持続可能性、資生堂の詰め替え商品などについての動画もある。また、クマイ氏の日本のルーツについての動画には同氏の母親と姉(妹)が出演している。
「『事前に用意された』コンセプトやショーで撮影したいと思ったことはない」とクマイ氏。「私の現実的な演出とストーリーテリングに対するアプローチによって(資生堂とともに)Jビューティシリーズを制作することができた。資生堂のアプローチはオープンで新鮮だった」。
チャネル登録者数拡大を目指す
資生堂チームはYouTubeシリーズで複数の目標を設定している。何よりもまず若いオーディエンスへのリーチを拡大すること。これには男性も含まれる。また、チャネル登録者を増やし、YouTubeで動画を視聴してもらうことも狙っている。いいねや共有やコメントを通じて、オーガニック動画の視聴やエンゲージメント全体を前年と比べて増やすという目標もある。
資生堂のこの取り組みでは、クマイ氏が自分のソーシャルメディアチャネルで行っているのと同様に、同社が所有するソーシャルメディアチャネルでのクロスプロモーションにフォーカスされている。動画自体は検索エンジンに最適化されており、YouTubeショート用に再フォーマットされている。さらに、資生堂はメールマーケティングにYouTubeシリーズを含める予定である。
この無料YouTubeシリーズは今後のYouTube戦略全体に影響を与える可能性がある。ドウズ氏によると、将来教育的な新しい動画を引き続き公開することは可能性が高いという。同社がYouTubeのアプローチを確認するためにモニタリングしている要素には、動画の視聴時間、動画のどの時点で視聴者が視聴をやめているか、コメントの内容などがある。ドウズ氏は、動画フォーマットは特に若い消費者にリーチする手段として資生堂のデジタル戦略の中心を成すと述べている。
「検索データを確認し、今年の残りのエピソードのコンテンツ計画をマッピングした」とドウズ氏。「だが、統計的に有意な新しい検索用語が見られた場合、何か大きな動きが生じた場合には、必要に応じて(コンテンツ計画の)方向を転換してアップデートすることができる」。
[原文:Shiseido takes a ‘Netflix-like’ approach to its unpaid YouTube strategy]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)