2019年も少し立ちました。感度の高い方は、今年もものすごい勢いで、世の中が変化をしているのを感じているのではないでしょうか? 今後もいろいろ変化が起きると思います。そこで、今回は、2019年にマーケターが乗り越えなければならない壁を、いくつかお伝えします。ーー菅原健一氏による寄稿コラム。
本記事は、株式会社Moonshotの代表を務める菅原健一氏による寄稿です。
あけましておめでとうございます。2019年も少し立ちました。感度の高い方は、今年もものすごい勢いで、世の中が変化をしているのを感じているのではないでしょうか? 今後もいろいろ変化が起きると思います。そこで、数年後、あなたやあなたの企業がこれらの壁で八方塞がりにならないために、まずは壁を認識し、いまから取り壊して行かねばなりません。ここに、いま起きている、そして2019年に大きく顕在化する壁を、いくつかお伝えします。
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社内の壁
「マーケティングは企業の成長に貢献できる」と、社内の誰に対しても言えるマーケターは、まだまだ少ないと思います。むしろ「マーケティングがなければ企業の成長はない」くらい言えないと、会社のなかであなたやマーケティングの立場は向上しません。
多くの組織の問題というのは、実はマーケターがこの言葉を社内で叫び続け、認めさせなければ解決されるものではありません。マーケティングは世の中に商品・サービスの価値を認識させる役割がありますが、それを社内にもあらためて発揮しなければならないのです。企業の仕事は「価値の創造」と「価値の証明」のふたつだけです。マーケティングはどちらにも、とても重要ではないですか?
テクノロジーの壁
こちらは見るべきところがふたつ、BtoB的側面とBtoC的側面に分かれます。BtoCでは、テクノロジーが一般化(商品・サービス化)して、ユーザーの利用がはじまると、ユーザーが次第に変化していきます。たとえば、スマホはテクノロジー観点ではネットとカメラが肌身離さぬデバイスに搭載されたことが大きく、その後ツイッターやインスタグラム(Instagram)が大きく成長したのは、常時携帯して、常時ネットに繋がるサービスで、テキストよりも情報量の多い写真や動画がアップロードされるようになったからです。こうなると、ユーザーの「暇」はそれまでの1時間を指すのではなく、10分を指すようになりました。その暇時間をインスタグラムの投稿や閲覧にあてるようになりました。
BtoCでは、5〜10年後のテクノロジーの動向をマーケターが見るのは効率が悪く、むやみに遠くのテクノロジーを見るよりも、近くのテクノロジーをそれを誰が一般化するのか? どう一般化されるのか? そして、ユーザーがどう変化するのか? という視点で捉える必要があります。
そして、BtoB的側面では、テクノロジーが自社の商品にどう影響するのかがあります。先ほどの言葉で言うと、どう一般化されるのかということです。広告にも影響が出ます。広告出稿はテクノロジーのおかげで簡易になりましたが、その影響が悪に働きました。テクノロジーのリテラシーがないところの影響を予測できません。
広告詐欺との壁
いまもっとも課題となっているのが広告詐欺(アドフラウド)です。数年前までは業界内の課題でしたが、いまはNHKや、一般紙にも取り上げられるなど、業界を超えて社会の問題になっています。ここでの問題はいくつかあります
1. 広告主のお金が詐欺の個人・団体に渡ってしまう。当然広告効果はない
これは大きい問題です。広告主の効果がないのも問題ですが、それは企業の損得の問題だけですみます。しかし、意図しない、社会的に悪な存在に、お金を渡していることになると、問題の大きさは変わってきます。いまや簡単にメディアになれる時代です。広告主が「どこでもいいよ」となれば、当然、これらの裏では集金を目的としたメディアにも広告は出てしまいます。どんなメディアでも儲かるとわかれば集金目的のメディアは他社のコピペでも、著作権を無視しても、フェイクニュースでも書きます。優良メディアはこれらと量的に(PVの規模、単価だけで)比較され、選ばれています。これでは儲かりません。最後に損するのは出し先が相対的に悪意あるメディアが増える広告主です。
2. アフィリエイトの仕組みの悪用
本来アフィリエイトの仕組みは、「世の中の良いものをブログや身近な人に紹介して紹介料を得る」ものでしたが、それが儲かるとわかると、「とにかく話題になる言い方」「効能を無視して良いと言う」「芸能人が良いと言っているように錯覚させる」ような方法を取る人が出てきます。いまもメディアを見ると、広告枠にはこれらが多く出ています。こちらも悪意ある個人・法人が存在していてもおかしくありませんが、まだまだ費用は支払われています。
この問題はさらに根深く、「芸能人が」という言い方はとても効果が良いわけです。そのためクリックされるし、購入もされるため、広告枠を高値で入札してもそれに見合う効果があります。こういう広告が出ている場所は、Facebookであれ、Twitterであれ、GDNであれ、ウソの誇張が入った広告の入札金額と、まともな広告主が戦わなければいけません。結果まともな広告主の広告は入札に負け追い出されていき、メディアの価値は長期的に下がっていきます。
3. プラットフォーマーやメディアはなぜそれらを追い出せないのか?
10年横ばいのテレビの2兆円のマーケットと、10年右肩上がりに成長しているネット広告1.5兆円のマーケットの広告主の構成は公開されていませんが、大きく違うと思います。事実、ナショナルクライアントのテレビ出稿額は下がらないため、2兆円はそのままです。ネット広告は伸び続けていますが、ナショナルクライアントのネット広告への投下金額は変わらないままです。では、8000億円から1.5兆円まで成長したネット広告は、誰の広告費で伸びているのかと疑問が湧きます。プラットフォーマーやメディア、アフィリエイト会社は上場企業も多いため、広告主の健全化を自ら主導では出来ません。
広告主は「自衛」という観点で、お金の投資先をあらためて考える必要があります。事実、欧米のアドテクノロジーマーケットは、巨額のナショナルクライアントが事実上の株主のように、それら広告会社やアドテク会社へ意見を伝えています。実際、広告会社もアドテク会社も、それら企業の広告費用がなければ存続できませんから、広告主の意識でこれらは変えられるのです。
成果の壁
マーケティングは結果がすべてです。100万円使ったら100万円以上の結果をもたらさなければいけません。いまだに予算消化だけを見ているマーケターはいないでしょうが、その予算を投じて本当に商品の成長に、そして企業の成長に貢献できたと言えますか? いまの指標がビジネスゴールになっていない、ビジネスゴールからほど遠い状態ではありませんか?
KPIという言葉が産まれてから、あらゆる指標を見るようになりましたが、それらは成長に寄与していますか? 本当に負うべき数値はひとつで良くて、あらゆるものがそれを説明・構成する指標となってなければなりません。North Star Metricという北極星である、動かない・迷わない指標を見つけましょう。この指標が経営指標として採用されれば、さらにマーケターの価値を社内で認めてもらえるでしょう。いまこそマーケターは、ビジネスゴールを追求するべきなのです。
人口減少の壁
人口減少は誰が叫んでも解決できる問題ではありません。いまから解決できるとすると来年の出生率からです。いまの出生率が低い問題が数十年後に迫ってくる事実は、誰にも変えられません。すでに人口減少のモードには入りました。今年多くを実感するでしょう。
日本の人口が下がり、富の総量が変わらない場合は、財布の数が変わってもラグジュアリーは変わらず売れるでしょう。しかし、胃袋の数が減ると困る企業には辛いでしょう。大根1本で良い家庭に2本目を買わせることができないので、食品や食品を扱うリテールは人口減少の影響を大いに受けます。生活用品も利用頻度、購買頻度を上げるなどして対応しなければなりません。ブランドを機能から抽象化し、商品を商品群化してアップセルすることも考えなければなりません。
ユーザーとの壁
あなたはユーザーを理解していますか? そして、それは商品との関わり合いだけではないレベルですか? ここまでに書いた問題(壁)はユーザーにも影響を及ぼします。たとえば、ユーザーのなかにはネットの無料記事はフェイクニュースか無記名広告(書いてあってもわかりにくく結局騙される)だと思っている人もいます。だから有料記事は嘘がなく安心だというのです。インターネットがすべて無料という価値観になったのは、たったの20年ほどです。その前は誰もが新聞を購読したり、ガラケーの携帯で課金をしていました。いまもSpotify(スポティファイ)やAmazon Primeやnoteの課金は好調です。こういうトレンドは「進化する場合」と「振り子の場合」があります。コンテンツへの無料か課金は振り子のようにみえます。
感情も振り子です。音楽はネット以前、「家で家族と聞く」ものでした。ネットメディアの多様化で「自分らしい音楽」を求めるようになりました。振り子がこちらに動けば動くほど「自分らしく」は満たされますが、「寂しさ」はぽっかりと空いてしまいます。CDの売上は減少しましたが、ライブの売上はどんどん伸びているのです。ネットが浸透すると、リアルが伸びるのです。
エンタメについても変化しています。テレビだけを見る時代からテレビ以外も並行で見るようになりユーザーは秒間に多くを処理出来るようになってきました。その結果テレビのスピードやオンデマンド性(同時に選べる選択肢)を少なく感じるようになり、テレビなしでFacebook、LINE、インスタグラム、Twitterなどを行き来して過ごす若年層が増えました。そして、そのあいだに、広告が接触できるチャンスはわずかです。いま PRやOOH で ソーシャル反響を狙う理由はそのためです、ネットの「広告枠」では人に届かないケースが表面化しているからです。
ターゲットやインサイトという、「わかりやすい商品とユーザーのつながり」を探る前にこうしたユーザーの劇的な変化を捉えるほうが良いでしょう。ユーザーの多様化から「平均値」というものが全く見当はずれな場所を示すようになったのも顕著です。
いかがでしたでしょうか? これらの壁、どれくらい突破出来ていますか?
3つも取れていたらとても良好なビジネスが出来ていると思います。いまが0個でも問題ありません。多くの企業はまだそのスタートラインです。ここで認識することでこの壁が見えるようになり、突破することができるようになるのです。
今年1年でどの壁を取り除きますか? ぜひSNSなどで表明してみてください。社内外のパートナーが応援、助言してくれるでしょうから。
Written by 菅原健一
Photo by Shutterstock