米国ではワクチンの接種が進み、ロサンゼルスやニューヨークなどの大都市で営業を再開する映画館が増えている。 たとえば4月に上映を開始したワーナー・ブラザース(Warner Bros)の『ゴジラvsコング(Godzilla […]
米国ではワクチンの接種が進み、ロサンゼルスやニューヨークなどの大都市で営業を再開する映画館が増えている。
たとえば4月に上映を開始したワーナー・ブラザース(Warner Bros)の『ゴジラvsコング(Godzilla vs. Kong)』は、初週で4850万ドル(約53億円)の興行収益を記録した。これはパンデミック以降で最大規模である。大手映画スタジオと提携するエージェンシーの幹部は口々に、今後数カ月で映画の上映数が増え、あわせてマーケティング活動も復活するだろうと予測する。
QYOUメディア(QYOU Media)でグローバルパートナーシップ担当SVPを務めるグレン・ギンズバーグ氏は「慎重ではあるものの、やや楽観的な見方が広がっている」と語る。QYOUメディアは、ドリームワークス(Dreamworks)などのスタジオと提携し、2020年上映の『クルードさんちのはじめての冒険(The Croods)』などのマーケティングを行った、インフルエンサーマーケティングエージェンシーだ。とはいえ、今や動画配信サービスに力を入れる映画スタジオは多く、「映画館での上映数は予想を大幅に下回っている」という。
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カンター(Kantar)の調査によると、映画スタジオによるマーケティングで、従来型メディアに充てられた金額は2020年1月に2億140万ドル(約220億円)だったのに対し、2021年1月には4980万ドル(約54億円)と激減している。また、2020年全体では6億6930万ドル(約730億円)だったものの、2021年にはこの額がどう変わっていくのか予測するのは難しい。
「流動的なアプローチ」になる
IMGNメディア(IMGN Media)で最高ブランド責任者を務めるノア・マリン氏は次のように述べる。「映画館向けの宣伝活動は戻りつつあるが、ほかの媒体での宣伝も同時に行われるケースも少なくない。とりわけ今夏リリース予定の作品は、配信サービスで展開されるものが大半といっても良い」。
たとえば2020年公開作品のなかには『TENET テネット』や『ワンダーウーマン 1984(Wonder Woman 1984)』など、映画館向けのプロモーションが行われたものもあるが、とりわけ注目作は上映延期となったケースが多かった。こういった映画のなかにはまもなく上映予定の作品もある。たとえばパラマウントの『クワイエット・プレイス 破られた沈黙(A Quiet Place)』は、5月28日に映画館で上映開始、1カ月遅れでパラマウントプラス(Paramount Plus)で配信予定だ。また、ディズニーの『ブラック・ウィドウ(Black Widow)』は7月9日に映画館およびディズニープラス(Disney Plus)で同時公開となる。こういった流れもあり、映画館向けの宣伝が増えると予測するエージェンシー幹部や業界関係者は多い。
それでも、映画館の営業再開やスタジオのマーケティング活動は、消費者の動向によるところが大きいため、「流動的なアプローチ」にならざるを得ないとエージェンシー各社の姿勢は慎重だ。
「ダブルマーケティング」の弊害
メディア企業のウォッチモジョ(Watchmojo)が最近6万4000人を対象に行ったアンケートによれば、映画館に『今すぐでも』足を運びたいという映画ファンの割合は39%で、『夏であれば』が20%、『秋であれば』が17%、『2022年』が25%となっている。ウォッチモジョのCEO、アシュカン・カーバスフルーシャン氏は「コロナ禍の終息の見通しが立つようになれば、映画ファンの心理にもポジティブな影響があるはずだ」と話す。
大手映画スタジオと提携する、あるメディアバイヤーは「配信と映画館の『ダブルマーケティング』は、配信サービス会社と映画館運営会社の間に軋轢を生み出しかねない」と指摘する。
「映画館のマーケティング活動は、当然ながら興行収入についての数値目標がある。ハイリスクで、プレッシャーも大きい。それなのに、まったく同じものをオンラインで配信する部署が新設される。しかも、サブスクリプションの登録者を伸ばすという名目の先行投資として赤字になってもOKというところがある。だから、このふたつの活動の部門間に存する溝は深い」。
何ものにも代え難い映画館の魅力
コロナ対策のガイドラインに関しては、大手スタジオではなく映画館チェーンやローカルマーケティング主導のものとなる可能性が高い。
「映画館の営業再開におけるマーケティング戦略は、基本的によりローカルなレベルが中心になるのではないか」と語るのが、リサーチおよびコミュニケーション企業のマテリアル(Material)でEVPを務めるペギー・アインネーマー氏だ。「AMCやリーガル(Regal)といったチェーンで、たとえば映画ファン向けにそれぞれのブランドのマスクを制作して、プロモーションの一環として配布したり、販売したりすることも想定される」。
「映画の予告編や30秒CMなどでは、映画自体にスポットライトを当て、オーディエンスに観たいと思わせる必要があるだろう」とアインネーマー氏は話し、次のように締めくくる。「注目作品が多く控えている。映画館で観ることの没入感は、何ものにも代え難いということを消費者は分かっているはずだ」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
ILLUSTRATION BY IVY LIU